裏切りの森

 ボクたち三人は偵察部隊が消えたという薄暗い森の中を歩いている。


「さて、じゃあ、この辺で……」


 ボクは探知のペンダンに手をとろうとする。しかし、黒狼将軍がそれを止める。


「報告は?」


 彼がそう言った瞬間、茂みからフードを被った黒い服を着た猫族の女性が現れる。


「将軍、そちらの方は?」

「気にするな協力者だ」


 黒狼将軍は完全に仕事モードだ。なにかわからないけど、小声で打ち合わせをしている。


「ちょっと、大丈夫なの?」


 女勇者さんが小声で聞いてくる。


「なにがですか?」

「魔王様ってバレるんじゃないの?」

「ああ、それは大丈夫ですよ。仕事中は仮面で顔を隠していますから」


 この顔だと威厳がないって言う理由で仮面を使させられていたんだけど、それを言う必要はないよね。


「あー、確かにその顔じゃあ威厳もなにもあったもんじないもんね」


 うん、普通にバレてるね。


「そうか、それはまずいな」

「将軍。いかがしましょう」

「権限の委譲は済んでいるのだな?」

「はい」

「わかった。引き続き任務を続行しろ」


 ボクたちが小声で話していると、二人の話は終わったのか猫族の偵察兵はまた茂みの中に消えていった。


「いや、申し訳ないっす」

「なにかあったんですか?」


 黒狼将軍は眼帯を触りながら苦々しい顔をしている。


「実はこの辺一帯を警戒させている部隊の隊長が消えたみたいなんすよ」

「消えた?」

「ええ、腕はいいんすけど、ちょいと功名心と言うか出世欲が強いやつだったんで、独断で動いて行方不明になった見たいっすね」

「大丈夫なんですか?」

「ええ、まあ、一応はあいつも隊長なんで大丈夫だと思うんすけど……」


 いつもの元気がない、やはり自分が勝手に部隊を動かしたことで責任を感じているようだ。


「まったく。悩んでないで今やるべきことがあるでしょ。ほら、あんたもさっさとお宝がどこにあるから探しなさいよ」


 女勇者さんが大き目の声で言う。

 うん、そうだよね。こんなとこで迷っていても仕方ない。一刻も早く解決しないと。


「じゃあ、探してみますね」


 ボクは探知のペンダントを握りしめ魔力を送る。しかし、ここにきて完全に反応がなくなってしまった。


「あれ? おかしいな?」

「どうしたの?」

「ここに来るまでは間違いなくこの場所に反応があったんですけど、今は全然反応しないんですよ」

「どっかに逃げたとか?」

「いや、それはないっす。ここを任せてる部隊は特に優秀なのを選んだんで誰かが逃げたならわかるはずっす」


 黒狼将軍は眼帯を触りながら顔をしかめる。

 ここまでは確かに反応があったのに……嫌な予感がする。ボクはもう一度ペンダントをしっかりと握りなおす。


「そう言えば、今回盗まれた宝って魔力を増幅するんだっけ?」

「ええ、そうっす。シンプルな効果なんで誰でも扱えるし、誰が使っても強いって言うかなり面倒なお宝っす」


 女勇者さんと黒狼将軍が話している隣でボクは魔力をペンダントに集中させた。


「でも、よく、警備の厳重な城の宝物庫から宝を盗めたわね」

「ええ、警備してたやつの話だといつのまにか眠っていたそうなんすよ」

「ああ、だから、このお守りを渡されたのね」

「そうっす。不眠の加護を付与したお守りなんで、部隊にも配布済みっす」


 ペンダントにかすかな反応が……これは……


「あぶない!」

「うわ!」


 ボクは突き飛ばされ倒れ込む。


「いたた、一体……」


 倒れたまま、ボクが自分のいた場所を見るとナイフが突き刺さっている。


「誰っすか?」


 黒狼将軍はナイフを抜き、女勇者さんはロングソードを構え、二人はすでに戦闘態勢に入っている。


「もう一度言います。誰っすか?」


 黒狼将軍が木の上に対して声をかける。すると、音もなく何かが地面に降りてくる。


「お前は……」

「将……軍……?」


 黒い偵察部隊の服を着た猫族の男性だ。


「誰なの?」

「消えた隊長です」


 黒狼将軍と女勇者さんは短く言葉を交わす。

 ボクは偵察部隊長さんを見る。目は血走り、呼吸も荒く、明らかに普通ではない。


「おい! しっかりしろ!」

「将軍? いや、違う違う違う、将軍がいるはずはない、偽物だ、偽物だ、偽物だ……偽物め! 死ね!」


 偵察部隊長さんが女勇者さんに斬りかかる。


「はっ!」


 女勇者さんはそれに反応し、逆に攻撃を仕掛ける。しかし、偵察部隊長さんは攻撃を中断し、一気に後方に跳びその攻撃をかわす。


「せいっ!」


 さらに女勇者さんは走り込み追撃を仕掛ける。


「マジックシールド!」


 偵察部隊長さんは魔法の盾でその攻撃を防ぐ。


 女勇者さんはそのまま力をこめる。シールドに亀裂が走る。そして、次の瞬間


「馬鹿が、そんな状態でやれるわけがないだろ」


 いつの間にか黒狼将軍が偵察部隊長さんを組み伏せると、首筋になにかを突き刺さした。一瞬だけ、隊長さんは抵抗する様子が見えたがけど、すぐにおとなしくなる。


「まさか……」

「大丈夫っす。眠らせただけっすから……」


 黒狼将軍は眼帯を触りながら言う。かなりイライラしてる感じがする。


「ねえ、気付いた?」

「はい?」


 女勇者さんがなにかに気付いたのか、剣を鞘に納めながら話しかけてくる。


「警備兵は眠らされたって言ってたけど、こいつのこの状態、明らかにおかしかったわよね?」

「ええ、ですね。混乱系……いや、誰かの区別はついていていたから、そうなると……」

「幻覚系っすね」


 隊長さんを縛り上げながら黒狼将軍が言う。


「ナイフにはうっすらですが血が付いてるし、こいつの服にも戦闘した形跡があるんで、間違いないと思うっす。仲間を敵として認識させられたみたいっすね」

「じゃあ、眠らされたって言うのは……」

「別の理由だと思うっす」


 彼は言いながらと大きなため息をつく。


「うーん……まいったっすね……」

「ここは一回、情報収集のためにも……」


「きゃー! 助けて!」


 ボクが言いかけたところで女性の叫び声が森の奥から聞こえてくる。

 女勇者さんが駆けだそうとする。


「待ってくださいっす!」


 黒狼将軍がそれを止める。


「間違いなく罠っすね。今は戻った方がいいっすよ」


 女性の叫び声は必死さが増していく。


「でも、本物の悲鳴だったら……」

「ボクも彼に賛成です。ここは引いた方がいいと思います」


 ボクたちが話し合っている間に悲鳴はだんだんと弱く小さくなっていく。


 一瞬の沈黙


「ごめん! やっぱり万が一があるから!」


 そう言いながら女勇者さんは声の方へと走り出す。


「追ってください!」

「え? でも、それじゃ」

「ボクの足じゃ追いつけません! 魔法耐性ならボクの方があるはずですから、今は彼女を!」

「くっ……了解っす。ご無事で!」


 ボクの言葉を聞き、黒狼将軍は女勇者さんを追って行った。


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