バトル・オブ・ブリテン

第二幕 零戦見参!


 今日は三回も墜とされた。

 まったく、敵じゃなくてよかったと思う。


 俺はジミー。英国空軍の戦闘機乗りだ。

 だが、大陸の反対側にある、日本から来た戦闘機との演習でこっぴどくやられた。いちおう、ハリケーン乗りのエースなんだぜ。

 ドーバーの向こうからドイツ軍の航空隊が大量に飛んでくるようになって、ひと月。日本から援軍がやって来たのは、つい数日前だ。

 何隻かのの空母に便乗した海軍部隊と、輸送船に乗ってきた陸軍部隊。

 海軍は空母ごとここに居座るつもりらしく、いろいろ資材とかの陸揚げもしているそうだ。

 既に空母艦載機部隊は実戦訓練にはいっているのだが、それがめっぽう強いのさ。

 タイプゼロとかいうあの戦闘機ときたら、いつの間にかバックについてやがる。俺の小隊はなす術もなくやられちまった。


「よう、ジミー。こっぴどくやられたな」

 滑走路の隅っこでふて腐れていると、別の小隊のピーターが声をかけて来た。

 こいつはこいつでエース。でも、星の数は俺より一個少ない。

「なんだ、お前はやっつけたのか?」

「ああ、やったさ。一撃離脱がばっちり決まった」

 といいながらも、ピーターは肩をすくめてみせた。

「一回だけ、な。あとは、ジミーと一緒でぼろ負けさ」

 上空からの一撃離脱。

 今のところ、ゼロに勝つ方法はそれだけだ。悔しいが、相手もそれは知っていて、なかなかうまくはいかねえ。俺だって、試してみたんだ。

「ところでジミー、さっきスピットの新型がゼロとやり合ってたんだがな」

 スピットというのはスピットファイアのことだ。俺たちのハリケーンより新しく、ワンランク高性能な機体。新型(V型だったかな)は、パワーもあってすばらしい出来だというふれこみと聞いている。

「へえ、どうなってた?」

「いいところまで言ったが、惜しくも落とされてた」

「はぁ、悔しいな。パイロットが良ければ、きっと勝てたな」

「と、思うだろ? 降りて来てびっくりだよ。スピットは『鬼教官』ワトソン少尉たちさ」

「う――」

 声もでねえな。

 ワトソン少尉は俺たちはすげえ厳しかったが、そのウデときたら凄いのさ。少尉が鷹なら、俺なんか精々ハトかカモメだ。


 二人でグチの交換をしてると、いきなり後ろに人影が現れた。

「コラ、お前ら。そこで何している」

「はっ!」「ははっ」

 帽子を深くかぶっていて誰か分からないが、俺とピーターはあわてて敬礼をした。階級は俺より上。

「エースが二人そろって、何をしておる」

 なんと、件のワトソン少尉だった。普通はここで(よくわからんが)大目玉を食らうのだが「俺も混ぜてくれ」と言って来た。

「お前ら、日本のタイプゼロ、どう思う?」  

「手も足もでませんでした、サー」

「おいおいジミー、お前らももう少尉なんだから、サーはいいよ。俺は中尉になったがな」

 おっと、訂正。昇進したんだ。

「おちこむなよ。現行のハリケーンじゃ何してもダメさ。見てたと思うが、俺もやられた。相手も教官クラスだったようでな、まぁ、要はウデが一緒なら勝てねえのさ。なぁ、ピーター」

「私もそう思います。敵でなくてよかったと思います」

 そう、敵じゃないのさ。悔しいにゃ変わらないが。

「見た目に、華奢でたいした事なさそうな飛行機なんだがなぁ」

 俺はそう呟いて、飛行場を間借りしているゼロ部隊の方を眺めた。

「見かけによらねえもんだ」

 ワトソン『中尉』も同じブツを眺めている。

『ウォーーーーン! ウォーーーーン!』

 と、その時、サイレンがけたたましくなり始めた。

「敵機襲来!スクランブル!スクランブル!」

 倉庫の方で飛行長が拡声器片手に叫んでいる。

 おお、ゼロが先に発進している。

 「舞い上がる」という言葉がぴったりくるような、優雅な飛び立ち方だ。 

 さて、俺たちも出番だ。

 今度の相手はドイツのメッサーさ。負けるわけにはいかねえ。

 ウデがなるぜ。ついでに、お手並み拝見といこうじゃないか。



1940英国派遣部隊

 零戦二一型 栄一二型(離昇1250馬力) 最大速度300ノット(556km/h)

 武装;20mm機銃x2 7.7mm機銃x2

 

 ここに見参!

 

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