第45話 贄

 硬質で白銀のうろこを持った桔梗。対する黒い龍は、ぬめぬめとした皮膚を持ち、桔梗より3倍ぐらいの大きさがあった。



「桔梗、大丈夫だべか……」


 不安そうに彩友香がつぶやく。


 そんな龍同士の戦いは壮絶だった。


 黒い龍が一気に桔梗を焼き尽くそうと燃えさかるブレスを吐く。

 それに飲み込まれる桔梗だが、彩友香がやっていたものと同じような六角形の膜を張り防御する。ドラジェさんが言っていたように、桔梗も護りだけは硬かった。



 だけど、桔梗は黒い龍を攻めあぐねている。

 彩友香と同じように桔梗も護りは龍になった鬼武帝より上回るが、攻撃力はそこまでなかったようで、少し黒い龍に傷をつけてもすぐに回復されてしまう。


『所詮、単体の龍では俺を滅ぼす力などない。俺は人間の醜い思念が集まったものだから圧倒的な数の前では貴様など無力だ……』



 目を細めて愉悦の表情を見せた黒い龍が、俺たちの心の中に侵食するように語りかけてくる。そして桔梗にブレスを吐き、爪と尾で追い撃ちをかける。


 いくら桔梗の魔力が高くても、人間の醜い思念はどんどんあふれて来る。その無尽蔵とも言える黒い力で痛めつけられる桔梗。見る見るうちに桔梗の身体から紅い血が噴き出し、穢脈を濡らしていく。


 致命傷を受けたのか六角形のバリアが解け、桔梗は気を失うように頭を地面に横たえた。



「……彩友香、防御を解除してくれ」


 俺は桔梗が黙ってやられていくところを、黙って見ているわけには行かなかった。

 龍の力には及ばないかもしれないけど、それでも、俺が桔梗を手助けできることがあるはずだ。


「よし、俺もいっちょやるか! まだまだ殴りたんねーしよぉ」

「ぼ、僕もリリスたんに今のうちに変身しておきたいです。だからやりますよ!」



 そんなみんなの意見に後押しされ、彩友香は防御術を解き、


「みんなにばっかりやらせるわけにはいかねぇ。あたしもやるべ。みんなであいつを倒そ!!」


 そういうと彩友香はいち早く桔梗と黒い龍の前に立ちはだかり、大量にあった手裏剣を黒い龍に向かって投げつける。

 途中で青白いレーザーのように手裏剣が変化し、そのまま龍を撃ち抜いていく。



 そのあと、俺とミカゲが同時に武器の術を発動させる。

 俺は動きが遅くなる術をかけ、ミカゲは重力をものすごく強くする術。

 その攻撃に、黒い龍は形を保てなくなった様子で、その場で崩れ黒いスライムの形状になった。



「スーパー☆ リリスノヴァー☆」


 そこにリリスたんが飛び込み、百烈蹴りを食らわす。ドリームアイドルなため、俺とミカゲの術はリリスたんには影響がなさそうだった。

 蹴りを打つたびに黒い影は消失していくが、それでもまだまだ湧いてくる。


「タロー、どいてくれ!」

「タローじゃないもん☆ リリスだもん☆」


 ふくれっ面になりながらも、リリスたんは避けてくれる。

 シアンの力はないけど、俺の力で少しでも……黒い魂が浄化しますように。


「面! 胴! 小手ぇぇぇぇっ!!」


 バチンバチンと影に当たっていくハリセン……いや花酔扇。

 その花酔扇の力か、普通の手応え以上になにか違う力が入ってきた。


「坊主! 儂たちも加勢するぞい!」

「任せろ、的は外さない……」

「ホッホッホッ、身体はないが心ならまだまだ負けておらんぞい!」


 その他、総勢12人ものおっさんが、セクシーなポーズで思い思いの攻撃を黒い影に繰り出していった。

 あ、そうか、アレはセクシーおっさんカレンダーの思念体的なものなのかな。ハンター会長と玉三郎さんはわかったけど、ホッホッホッの人は誰だったんだろう。


 あられのないおっさんたちが攻撃したあとは、見上げるほどの影だったものが、半分ぐらいの大きさになっていた。おっさんパワーすごい。っていうかちょっとセクシーなだけダメージも大きそうだ、主に俺が。



 俺の攻撃が終わったらミカゲが鋲を出しながら影を殴っていた。


「ヒャッハー! 楽しすぎるぜぇ――!!!」


 もしもターゲットが人だったら止めてた俺だけど、今回のターゲットは精一杯殴ってもいいよね。痛いって言わないし。


 そんな攻撃を俺たちが繰り出している間、彩友香は桔梗の元に駆けつけて桔梗となにやら話をした。ぐったりしていた桔梗だけど、どうやら無事のようで安心した。


 話が終わったのか彩友香は手に苦無を持ち、それでポニーテールの根本から髪の毛をバッサリと切った。

 結わえていた結び目が解け、はらりと彩友香の髪の毛が落ちる。



「……これ、使って」


 桔梗は、彩友香が差し出した髪の毛をバクンと食べた。


 しばらくして辺りにドクン! と鼓動が響く。



「ごめんなさい彩友香さま。大切な髪の毛を……でも、これで奴を滅ぼせます」


 俺たちは黒いスライム状のものから離れると、黒いかたまりは龍を形どった。うねうねと動く龍は先ほどより小さくなっていたので、俺が以前魔王と戦っていたときのように、人の怨念がいくらか昇華したんだろう。



 俺たちは桔梗の後ろに行く。そして彩友香が護りを発動させる。


「ここが崩れても、このバリアでなんとかするから大丈夫。でも桔梗は……」


 その後は無言で、下唇を血が出るほど噛みしめる彩友香。そして桔梗を彩友香はしっかりと目に焼き付けるように見た。



 桔梗は力を発動させ青白い光となり、黒い龍にぶつかっていって……爆発し、黒い龍とともに桔梗は消滅した。



 *



「えーっと、こっからどうやって戻るんだよ」


 がらんどうになった穢脈。出入り口のないものすごく広いドーム状の洞窟内から出る方法はさっぱり見当がつかなかった。

 うろうろとあたりを探ってみるものの、ドアのようなものすら一切なかった。


「うーん、技を使えば出るとか、なにかの言葉が必要だとかそういうことがあるのかなぁ?」


 それぞれに離れると危なさそうなので、4人でひとかたまりになって移動する。


「あ、あの――お腹が空きませんか?」


 全然手がかりが見つからず歩くのにも疲れたとき、タローが食事にしようと提案する。徹夜で動き回っていたので空腹感とかにズレがあったけど、お腹を意識しだしたら急に減ってきた気がする。


 全員で適当に座りタローがリュックを開けたとき、リュックの中から白い光が辺りに広がり、俺たちは大殿に戻っていた。

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