第25話 接吻

「うーん、なにか解決法がないかを探してみよう」


 俺は桔梗に元気を出してもらうよう話すが、桔梗は顔を覆ったままだった。


「桔梗~、元気出すんだべ」


 彩友香がぎゅっと桔梗を抱きしめる。

 ヒックヒック言っていた桔梗は、静かになった。そしてそっと顔から手を離し、彩友香に言った。


「あのその……彩友香さまに、せ、接吻していただければ……元気が出ます」


 おずおずと彩友香にキスのおねだりをする桔梗。


 女子だけっていっても、なにか倒錯的世界になりそうだ。あかんよ!

 と俺が思っていても、桔梗はむちゅーとした顔で彩友香に迫る。


 チュ……


 悩ましい音を立てて、彩友香は桔梗にキスをした。



 桔梗のおでこに。


「えへへ、仲良しの証のチューだべ! これでいいでしょ?」


 とちょっと頬を桜色に染めた彩友香は、桔梗にニッコリと快活な笑顔を向ける。

 その笑顔の彩友香は……ものすごく可愛かった。


「んもう、彩友香さまったら……大丈夫、元気が出ました」


 なにか良かったらしい。

 そして2人でお互いに頑張ろうね、と約束しあっていた。


 そんな中、俺はポカンとした顔をして彩友香と桔梗を見ていた。


「ば、ばかっ、なに見てんだ――――!」


 目の前に手裏剣が飛んできた。俺の視界は真っ暗になりそして……。



『BAD END』





「おおおいっ! 勝手に殺すな!」


 俺のおでこに刺さった手裏剣をスポッと自分で抜く。そして自分に急いでヒールをかける。

 あぶねぇ、ヒールを覚えといてよかった。

 彩友香はそんな俺に目もくれずに、桔梗と忍術はなにがいいのかの話をしていた。



「よお」


 女子2人にタジタジになっていた俺はジュースを買いに行ってくると言って、校庭に隣接した道路の向かいにある、元商店のところにおいてあった自販機で桃ジュースを買っていた。そのとき、ミカゲがやってきた。


「じいさんに和哉がどこに行ったのか聞いてきた。って……!」


 和哉は俺のコーヒーを買うまえに速攻でとあるジュースのボタンを押した。ガシャンと音がしてその飲み物が落ちてくる。それと同時にチャリンとお金も落ちてきた。どうやらミカゲの買ったジュースで俺の500円玉が残り100円になり、最低ラインの120円を下回ったのでお釣りとなって出てきたようだ。


「あ、わりい。ついタフマンがあってよ。速攻買っちまった」


 と、ミカゲは俺に20円を渡してくる。


「あ、どうも……」


 落ちてきた100円と20円を合わせて、微糖の缶コーヒーを買う。

 ……ってさっきのタフマン160円したでしょ!

 ミカゲにそのことを伝えると、


「あーわりい。今回だけはおごってくれや。財布を置いてきちまったんだよ」

「まあいいけどさ。ってミカゲが来てくれて助かったよ」


 キャイキャイとはしゃぎながら忍術の研究をする彩友香たち。ミカゲにその女子パワーに圧倒されて全然なにも出来てないことを伝えるのと、鬼武帝の情報を手に入れたことを伝える。


「ふーん。ま、妙な建物はぶっ壊しゃいいんだろ? 俺のバットでなぐりゃすぐ壊れるんだろうからいいけどな。ただ影が多いってのはちょっとめんどくさそうだな」

「まあね。それでその問題の影なんだけどさ……」


 彩友香に一度戦わせてみるのはどうだろう? と提案する。

 うようよしているところでいきなり実戦より、夕方から夜に出てくる影を少しづつ倒していく練習をしたほうが、安全のマージンが取れていいんじゃないかな。


「だな。あの性格だと慌てたときに何も出来なくなる可能性がたけーからな」

「それに俺たちがついていって、無理そうなら手伝えることもできるからさ」

「うようよで余裕なしになってもしゃーねぇからな。よっしゃ早速今日の夜から見回りって感じで出かけようぜ」

「うん、じゃその前に彩友香の忍術を把握するのと戦い方の連携をしようよ」

「おう」


 俺たちは彩友香のところへ戻り、今までに考えついた忍術を1から教えてもらうことにした。




「駄目じゃ。女は夜出歩くことは許さんぞい!」


 思わぬ障害がいた。

 ハリセンじいちゃんは彩友香を夜に外へ出すことを許さなかった。


「ごめんな。じいちゃんはストーカー事件のときから、あたしを外に出すことを嫌がってて……」


 俺たちは今日の夜から出かけるために、4畳半の部屋にぎゅうぎゅうと総勢5名で詰めていた。タローは定位置の押入れである。

 じいちゃんのあまりの反対意見に、最初は抜け出すことも考えたけど、それではこれから先なにがあるかわからない状態だから、せめてもじいちゃんには理解してもらいたい、と彩友香は言った。


「……わかりました、彩友香さま。わたしがなんとかしてみせますっ!」


 桔梗が勢い良く立ち、ぐっと拳を握る。それはまるでみよちゃんがケイスケ様のことを想ったときにやるポーズとそっくりだった。

 そしてじいちゃんのいる居間へと向かっていった。



「大丈夫かな、桔梗」


 心配そうに彩友香は体育座りをしたまま、桔梗を待っていた。

 ミカゲは晩酌をはじめちゃうし、タローはリリスたん3周目に突入していた。

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