第19話 五行

「ほう、その枝であれば扇タイプだと優雅なスキルがつくな」


 ジェードさんは俺を見てニヤリとする。

 俺が属性を選ぶとき、ジェードさんは細かく効果や使う材料などが書いてある対比表を俺に渡してくれていたので、そこを丹念に調べて一番かっこいいものを選んだつもりである。


 ジェードさんは俺からその枝とセクシーおっちゃんカレンダーを預り、皿にのせて上から薄いガラスで出来たフタをする。

 その見た目はスイーツなお店でケーキをしまっておくような器具だったけど、中に入っているのは小さな枝とセクシーおっちゃんカレンダーである。

 ガラス蓋の真上にチューブを刺し、そこからなにかの気体が流れてくるのをジェードさんは確認し、俺に言った。


「さて、属性を移すことはしばらく時間がかかるから、その間に留め金の宝石と紐を選んでおくといい」


 ジェードさんの説明によると、ハリセン本体に1属性、飾りの宝石で2つめの属性とさらに持ち手の部分の紐で3この属性をつけられるらしい。


「五行に従い、属性を決めるのだ。相剋そうこくするものだと弱い属性しかつかないから気をつけるのだな」


 龍族は五行(木火土金水)の法則を主とするらしいというのが、さきほどの対比表にも書いてあった。

 俺のさっき選んだ属性はそのまま木に属するものなので、金属性を選ぶと主である木の効果が弱くなり、土属性を選ぶとその選んだ土属性が弱くなる。

 水を選ぶと主である木属性がさらに強くなり、火を選ぶと木を喰って火属性の効果がつよくなると書いてあった。


 正直、わけがわからなくなったので、俺は水と火を選ぶことにした。


「ふむ、アクアマリンと朱の紐だな。無難なところだ」



 俺が全てのものを選び終え、セクシーおっちゃんカレンダーの出来上がりを待つ間、ミカゲは細かくバットにびょうを打ち込んでいた。その見た目はまるで鬼の金棒のような仕上り具合だった。バット本体も真っ黒に仕上がっていて、元の金属バットの軽い素材ではなく『悪魔の金棒』という感じの重厚感があった。


 作業をしながら、ミカゲは俺に聞いてきた。


「和哉の武器の名前はなんにするんだよ?」


 あ、そうか。ただのハリセンじゃ可哀想だもんな。


「うーん……」


 セクシーおっちゃんカレンダーだから、セクおじハリセン。いや、ダサすぎる。まずはセクシーおっちゃんカレンダーからは離れたほうがいいと悟った俺は、さらに頭を悩ませることになった。

 ミカゲはそんな俺を気にしながら、自分の武器を作り上げていた。


「そろそろ仕上がるぞ」


 名前が決まらないままジェードさんに促され、俺はセクシーおっちゃんカレンダーを取り出す。その紙からは淡い花の香りが漂っていた。


「あの、武器の名前を考えていたのですが……」


 ジェードさんに何にして良いのかわからないの、と相談してみる。武器に名付けるような習慣がなかった様子のジェードさんは、ポカンとした顔をしたが、


「その紙の名前は花酔かすいと言う。それで扇をつくるなら、さしずめ花酔扇かすいせんとでも呼べばいいだろう」


 そうか。

 技からも想像できる名前だから『花酔扇』。いい名前だ。


 名前も決まったことだし、あとは丁寧に1枚づつ紙を折り、重ね合わせて紐とアクアマリンで留める。出来たあとにジェードさんが花酔扇に少しだけ魔力を込める。


「これで、もう手で折ることは出来ないぐらいの硬度を持った。あとは場所を移動し、技を練習するがいい」


 ミカゲも俺が武器を作り終えたころ、ちょうど出来上がったようだ。

 でも見た目はやっぱり鬼の金棒である。


「俺の武器はあれこれつけてねぇ。五行だなんだで言うなら金+金のみだ。だから言うなればこの武器はだな……きんたm」

「そおい!」


 花酔扇でミカゲにツッコミを入れる。

 バチン! と小気味いい音を立てる花酔扇。だけどミカゲもレベル300を超えているので、俺のツッコミにも涼しい顔をしていた。


 ネーミングセンスが特にないと自覚したミカゲも、武器の名前はジェードさんに名前を決めてもらうことにしたらしい。さすがに黄金の球と棒とかいうものではあかんよ! あかん!


「ふむ、五芒戡こぼうこんでいいんじゃないか? その鋲が五角形だからな」


 ……結構ジェードさんも安直であった。



「あとこれをあの魔法使いにやってくれ。あの者の望みを忠実に再現した代物だ」


 と、ジェードさんからハート型のステッキを手渡される。

 その素材はどうみてもプラスチックで、6歳以上のお子様が使用しそうなおもちゃ感のある代物だった。


「打撃はできないが、詠唱魔力を強化することが出来る。あとはまあ……あの魔法使いの好みだろうな。わたしは好きではないが」


 俺はその魔法ステッキを預かった。リリスたんの使っていたステッキとは違う、タローオリジナルのハートフルステッキである。

 ちょっとだけシアンがこれを持って「プリズムチェーンジ!!」とやるところを想像した。可愛かったけど、なにかこう違った気がした。

 シアンはそんなことやらないからね!



「では勇者には、これも渡しておこう」


ジェードさんは、花酔紙を使った折り紙の手裏剣を渡してくれた。


「今回の勇者のタイプに合わせて作ったものだ。餞別だよ」



ジェードさんに丁寧にお礼をいい、俺たちはアトリエをあとにすることにした。

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