第16話 流行のアクセ『手裏剣』

「全部あたしにくれるの?」


 こくんと頷く俺たち。

 ちょっと手裏剣は気になったけど、落ち着いたあとで見せてもらえばいいし。

 彩友香は武器の袋を抱きしめながら、ぱあっと顔を輝かせて嬉しそうにしている。


 そしてしばらく彩友香は回転扉の前に座り込み、ジャラジャラと宝石を喜ぶご婦人のようにウキウキとしながら、あれこれ取っ替え引っ替えしていた。

 ただその手に持つものは、地味な武器や投具だったけれど。


 俺はその間、以前に彩友香に貰ったハリセンの折り目を強化し、しなりが効くようにした。折り目が浅くしなりのないハリセンは音が激しくてびっくりするだけなんだけど、しなりをつけると折り目1つ1つのダメージが重なって大きなダメージになる。その分音は小さくなるけどね。


 ミカゲは先ほど貰っていたオロナミンDを飲んでいた。


「戦闘があるかもしれねぇからな。気休めだけど飲んでおくぜ」


 そして肩には釘バットの袋を担いでいる。

 タローはというと、何も準備をしないままリリスたんを見ていた。ていうかよく飽きないな。



「あのさ彩友香さん? もう一度あそこの隠し部屋に行ってみない? まだお宝があるかもしれないし」


 と、あの部屋に彩友香を誘った。

 彩友香は手裏剣に夢中になっていたが、俺の発言の『まだお宝があるかもしれないし』の部分で思いっきり俺をギラギラとした目で見てきた。

 その目はあかねんとタローがしていた、ジャンキーの目と同じだった。

 うう、怖いよシアン。


「わかったべ。ま、まだ何か隠されているかもしれないしな!」


 よし、うまく乗った! とミカゲと顔を合わせて頷いた。



 隠し部屋に入ると俺のペンダントが反応し、先ほどと同じように青い光がうっすらと出て淡く部屋を照らした。

 でもよく考えれば、ペンダントが光る前にスマホで明かりを取ればよかったなぁ、と今回で気づいた。まあいいか。


 しばらく部屋を捜索するものの秘密の仕掛けはなにもなく、部屋はがらんどうのままだった。彩友香はだんだん飽きてきた様子で、部屋の真ん中で小刀を出し、ウキウキと忍者ポーズを取っていた。すると、彩友香の持っていた小刀の持ち手の端っこについていた小さな宝石が眩く青い光を一気に爆発させる。

 その強烈な輝きに、俺たちは思わず目をつぶった。




「おかえりなさい。勇者さま」


 涼やかな声が聞こえた。

 目を開けると、さっきの光がきっかけとなって龍脈内に移動していたらしい。俺たちは淡い金色の光があふれる空間、龍脈に移動していた。

 そんな俺たちの目の前にドラジェさんがいて、以前と変わらない流麗な笑顔で俺たちを迎えてくれた。


「こ、ここはどこだ――――」


 パニックになっているのは、たった1人だけである。


「これは新しい勇者さまですね」


 彩友香にドラジェさんは近づき、にっこりと笑って彩友香の顎を一撫でする。

 まるで猫のご機嫌を取るような手つきで。

 その一無でで彩友香のパニックは収まったらしく、彩友香は俺のそばにやってきておとなしくする。


 というかやっぱり彩友香が忍成村の勇者だった。


「ひさしぶりです。ドラジェさん」

「ええ、勇者さまが忍成村に派遣されていたとは、好都合でした」


 そのあとドラジェさんと俺たちで、忍成村の経緯を聞く。


「あそこにはとても強い穢が海から渡って来たそうです。忍成村にはケツプリさんの叔父がいたのですが……残念ながら……」


 ドラジェさんが言いよどんでいたとき、スウッとドラジェさんの隣にグレート・ケツプリさんが現れた。

 グレート・ケツプリさんを見た彩友香は、さっと俺のうしろに隠れる。


「勇者よ、久しぶりだな、はぁっ!」

「ケツプリさんも、魔王決戦のときのいもざえもん以来ですね」


 その俺の言葉に「なぜわかった!?」という表情をするケツプリさん。

 そりゃわかるだろ……。


「その話はいい。今回は忍成村にて非業の最期をとげた我の叔父のかたきをとってほしいのだ、ううんっ! つまりその女勇者に新しい土地神として、龍族から1名、派遣することになったのだよ、そぉいっ!」


 しかしケツプリさんは喋るたびに気合を入れた声をかけながらポーズをとるのだが、被ったポーズをとっていないことがすごい。

 そして掛け声のせいで、ケツプリさんの話が半分ぐらい頭に入らないのもすごい。

 俺は話をするのは彩友香だと思って、うしろに隠れている彩友香をずいっとケツプリさんの前に出す。


「こ、こいつ……! この小刀ムーンライトセイバーの餌食にしてやるっ!」

「いやいやそれ、どうみてもムーンライトって感じじゃないし」


 と、俺は彩友香の小刀を取り上げる。

 小刀を取り上げられた彩友香は、アワアワと素手でケツプリさんに、


「忍法トンファーの術!!」


 と、診察台の上に乗って練習していた蹴りを繰り出す。あのときの蹴りよりはキレがよくなっているが、いかんせん龍族の男性相手では勝負にならない。

 彩友香の蹴りはあっさりと躱され、バランスを崩した彩友香は床に手をついた。四つん這いである。


「はっはっは、元気なのはいいことだが、まだまだ修行が足りんな、ふんっ!」


 わしがこいつをあずかろう! と言いながら、ケツプリさんは彩友香の首根っこを掴んで消えてしまった。ケツプリさんは勇者担当なのかな。



「大丈夫でしょう。あの娘ならすぐに本格的な忍術を習得できますわ」


 とにこっとするドラジェさん。

 そして俺の手にあった小刀をドラジェさんは手に取る。


「これはまだ力が開放されていないようですね。なのでわたしたちのほうでなんとかしますので、もしよろしければ勇者さまたちもついてきていただけますか?」


 どうやら龍族の武器強化などの現場を見せてくれるらしい。

 以前は全然見れなかったので、楽しみだ。

 ミカゲもその言葉に、


「俺の釘バットも龍族改造でなんとかならねーかな!」


 とワクワクしているようだった。

 タローはドラジェさんのすぐうしろをウロウロしていたが、ドラジェさんに思いっきりかかと落としを食らっていた。

 タローに蹴りを繰り出していたドラジェさんのロングコートのスリットから見える足は、とても綺麗だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る