第8話

 御前試合の冠が付くだけでこれほどの盛況を見せるものなのか。


 いつも繁盛している闘技場だけど、今日の盛り上がりはそれを凌ぐものだった。王様を始めとする王族を間近で見られる機会であるから、普段ギャンブルをしない人もここへやって来ているようだった。王の支持率の高さが窺えた。


 そして、人でごった返しているこの状況は、もし襲撃者がいたら、その衝撃者にとっては好都合なのかもしれない。木を隠すなら森の中というのだから、この人混みの中に襲撃者が紛れている可能性は無きにしも非ず。ただ、混み合っているので身動きがとりにくいというデメリットもある。とはいえ人混みに怖気づく襲撃者なんているはずもないだろう。襲撃者であれば人混みの中でもスムーズに行動ができると思うべきだ。


「そんなに警戒しなくていいよ」とリーゼロッテが言った。「私を襲撃するような人はいないだろうし。そりゃあ、何かしらの反王政勢力が怪しい動きをしているというのなら、話は別だけど、そういう話は聞いていない。だから、普段通りにしてなさい」


 まあ、彼女の言う通りだ。襲撃だ何だっていう事件がそうそう起きては困るし、そうそう起こることはない。


 ならば、適当に彼女の傍でボーっと試合を観ていればいいのだ。



 ……と、まあ、そう思っていた瞬間が俺にもありました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る