第13話 不思議な家族

雷鳴が轟き大地は揺れているので、あぁお母さんが力を開放したんだなぁとすぐにわかりました。

魔女のおばさんと向き合うお母さんは光輝いています。デレラ状態になっているのです。

ですがオーラを身に纏っているのはお母さんだけではありません。魔女のおばさんも黒いオーラを身に纏っています。


「強くなったのはヒンデレラだけじゃないのよ。私だって小魚とかを沢山食べて基礎魔力を大幅に増やした。戦闘能力も筋トレを続けて以前とは比べ物にならないわ」

こういう地道な努力は偉いと思います。


「流石オミシアね。でも私は異空間にいる間、襲い来る魔獣の地肉をくらい、異世界の狂戦士達を力でねじ伏せ、その頂点まで君臨したの。このゲートの向こうでは千人の手下が私を待ってるよ」

お母さんの食生活が少し心配になりますね。


「それじゃあ私達の生活」

「どっちが最強か力で決めようかッ」

二人の身体から溢れ出すオーラがより一層高く舞い上がった時、二人はは衝突しました。その衝撃だけでやっさやっさと踊っていた二人は吹き飛ばされ、近所の住民達が苦情を言いに来ました。

「朝からうるせぇぞ」

「他所で戦え」

「年貢を下げろぉ」

二人は襲い来る十数人の近所の住民達を倒しながら戦っていました。


どうやら今の衝撃でクマーさんも眼を覚ましました。

「なんて戦いだ、かっこいい」

私達はただ、最高峰の戦いをおやつを食べながら見ることしか出来ませんでした。


「昔戦った時よりもずっと強くなってるね」

戦闘中なのに話を始めたのはお母さんの方でした。

「ヒンデレラだって」

「でもね、やっぱりかつて世界最強を追究していたオミシアはすごいよね」

「やめろっ」

魔女のおばさんにも武を追い求めていた時期があったのでしょうか。魔女のおばさんは魔女というにはあまりにも重厚すぎる。


「かつて最強の人間を造ろうとした事があったよね」

「黙れ」

魔女のおばさんは柄にもなく、感情的になっている事がその戦い方を見てもわかります。これはデレラ拳十七大奥義の一つ「天空の甘栗」だとお母さんの話し方からわかりました。この奥義は相手を精神的に追い詰め、正確な判断力を奪ってしまいます。

それにしても最強の人間をどうやって造ろうとしたのでしょうか。


「私が異世界から帰還した時、オミシアの研究は成功したのだと確信したよ。最強を追い求める私の遺伝子を組み換えて改良しただけはあるね。よく育ったわ、私のリンデレラ」

「えっお母さん、それってどういう事、私は遺伝子組み換え人間だったの」

「だいたいそんな感じよ。オミシアが最強の人間を造ってみたいって言うから遺伝子サンプルを提供したの。まぁ若気の至りって訳ね」

なんて事でしょう。今明かされる衝撃の真実です。


「実験台としてリンデレラを作っただけじゃないよね。実験データを録るために随分熱心に観察もしてた。厳しい戦闘訓練も課した。たい焼きとかも作った。全ては個人的趣味で最強の人間を造るために」

「うわぁぁぁぁぁぁ」

全てを暴露され錯乱した魔女のおばさんは最大の殺意を剥き出しにして、やっさやっさと餓えた野犬のようにお母さんに襲いかかります。

「甘い」

ですがそんな無理な攻撃は通用するはずもなく、四種の蹴り技を繰り出して魔女のおばさんを地に倒してしまいました。悪は倒れたのです。


でも魔女のおばさんにはまだ死んでもらっては困ります。

「一つ聞きたいんですけど、どうして私が一緒に過ごしたはずの魔女のおばさんの事を覚えていないのはどういうことなの。若年性アルツハイマーなの?」

背中を強打して瀕死の魔女のおばさんは

「記憶は消したわ。ヒンデレラを護るどころか封印してしまった私にリンデレラと一緒にいる資格はない。そう思ったからこそ私は、貴女の中の私の記憶だけを消し去り、パチスロの旅に出た。でも私は貴女を忘れられなかったみたい。戦乱の予感がした時、また貴女の前に現れてしまった」

そして、死にかけのコアラのようにゆっくりと、懐から麻袋を取りだしました。

「これは最後の向精神薬よ。ヒンデレラと戦えるのは同じデレラ拳の使い手である貴女しかいないわ」

私は最後の向精神薬を受けとると

「ほぁっー」

と魔女のおばさんの心臓をつくと白眼を向いて気絶しました。大丈夫です、死んではいませんから。

「おばさんと過ごした時間は悪くなかったですよ。」

私は向精神薬を一気に口に放り込み、飲み込むとどこからかともなく闘志が沸いてきて、すぐに全身を包み込みました。


「お母さん、今すごく気分がいいの。もう悩みなんてないんですから。だって私最強でしょ」

するとお母さんは笑い声を漏らします。

「最強って言葉を自分に使っていいのはあと三分だけよ。私もずっと楽しみにしていたの。自分を最強だと思ってる娘と戦える瞬間を十年以上待ってた」

それを聞いて私は笑いが止まらなくなってしまいました。お母さんはお母さんなんだって安心しました。それはお母さんも同じだったようで、二人でずっと笑っていました。

二人が一通り笑い終えて声が消えたとき、二人の戦いは始まりました。

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