一章 パラグライダーってどんな味?

パラグライダーをやろう!

「パラグライダー?」

「うん。今回は空を飛ぶのはどうでしょうか?」

 梔子剛司くちなしつよしの疑問に天堂光てんどうひかるは笑顔で答えた。

「いいじゃん。俺もパラグライダーやってみたい」

 剛司の向かいに座る緑川朋みどりかわともも呼応する。

 土曜日の昼下がり。久しぶりに集まった剛司達は、地元のファミレスで遊びの企画について考えていた。

「自分の調べたところによると、二日前までに予約すれば問題なくパラグライダーが楽しめるみたいですね」

 光はスマホを操作してテーブルの真ん中に置いた。そこにはパラグライダーについての詳細が書かれている。

「コースが二種類ある」

 スマホを指しながら剛司は呟く。そこにはミニ体験とタンデムフライト体験の二種類が書かれていた。

「ミニ体験は小さな丘からのフライト。それに比べタンデムフライトは、高いところをフライトするコースらしい」

 光の説明を聞きつつ、剛司と朋は熟考する。

「剛司はどっちがいい?」

「んー、僕はどっちでもいいかな。朋は?」

「俺はやっぱ高い所を飛びたいな。だからタンデムフライト一択!」

「そういえば、タンデムフライトってなんだろう?」

「タンデムフライトは、二人乗りのパラグライダーのことだよ」

 すっと話に割り込んできたのは光だった。

「基本はパイロットの前に自分達が乗って、操縦を任せて楽しむフライトだね」

「それって、つまりパイロットに命を預けるってこと?」

「その通り。剛司は人に命を預ける覚悟を持たないといけない」

「なんかそう言われると、急に怖くなってきた」

 小心者の剛司は頭を抱えた。今までの人生で危ない橋を渡ってこなかった剛司にとって、誰かに命を委ねるなんて考えたこともなかったから。

「でも、どうせならやっぱり俺は高い所を飛びたい。プロに任せるんだから大丈夫だって」

「そ、そっか。まあ、朋が言うなら大丈夫かな」

 剛司にとって、朋は光よりも付き合いの長い間柄。朋とは家も近所で家族ぐるみの付き合いをしている。いわゆる幼馴染の男友達。そんな剛司にとって朋は一目置く存在だった。

「タンデムフライトはおそらく四人で三時間あれば終わると思う。目安時間が一人三〇分ちょっとらしいから。だから午前中にパラグライダーやった後、山に登るのはどうかな?」

 光はテーブルに置いたスマホをとり、操作を始める。

「山ってどこの山?」

 お冷の入ったグラスを持った朋が、喉を潤しつつ光に聞く。

「パラグライダーをやる場所によるけど、ここなら近場に楽しめる山があるよ」

 再度スマホをテーブルに置いた光は、そこに表示された地図を指しながら言った。

「筑波山だよ」

「懐かしいなあ。僕、小学生の時に家族で筑波山に行ったんだ」

「剛司ってそんなアクティブだったっけ?」

「家族で行ったんだけど、ケーブルカーあったからとても楽だった」

「それって山に登ったって言わないでしょ」

「仕方ないじゃん。小学生の頃だったんだから」

 朋の指摘にムッとした剛司は、グラスを掴むと一気にお冷を飲み干した。

「まあまあ。それなら筑波山にリベンジってことで。パラグライダーやる場所は、茨城県の石岡市周辺でやろう。ここなら複数申し込める場所があるみたいだし、筑波山にも近いから」

 光が手際よく内容を詰めていく。光は皆のリーダー的存在だ。いろんなことを知っているし、こうして遊びの予定を立てるときだって率先してまとめ役を買って出てくれる。剛司にとってとても頼りになる存在だった。

「お待たせしました。トッピングましましのスペシャルパフェ三人分です」

 どこぞのラーメン屋で聞いたことがあるようなセリフとともに、ウェイトレスの方がテーブルに特大パフェを三人分並べた。

「最近のファミレスって、甘いものに凝ってるんだ」

「俺も初めて見た。大学生になってからは、ファミレスよりもカフェに行くことが多かったから知らなかった」

 剛司と朋は目の前に屹立するパフェの山を眺める。こんなに量が多いなら、朋のを分けてもらえばよかったと、剛司は頼んだことに少しだけ後悔を覚えた。

「では、ごゆっくり」

 そんな剛司の気も知らないウェイトレスは微笑むと、席を離れて行く。

「さあ、食べよう。糖分は脳にとって最高のエネルギー源だ」

 剛司とは打って変わり、光はおいしそうにパフェを口に運ぶ。そういえば光は甘党だったなと剛司は思い出した。

「もしよかったら、天堂君に半分くらいあげるよ」

「うそっ。マジっすか」

「う、うん」

「やったぜ。ありがとう、剛司」

 笑顔を見せた光は、再び自らのパフェを胃袋の中に押し込んでいく。いつも脳をフルスロットルで使っているのかもしれない。甘いものは別腹と言わんばかりに、光の胃袋にパフェが消えていく。

「それで、いつにしようか?」

 パフェに気を取られていた剛司は、朋の言葉によって本題を思い出す。

「そうだね。次の土曜日なんてどうかな? 車は自分が出せるんで」

「僕は大丈夫」

「うん。俺も」

「それじゃ、来週の土曜日ってことで。時間は追って連絡します」

 光の提案に剛司も朋も異論はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る