第44話説明



イオナが、目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。


「イオナ」


声がした方に顔を向けると、サラスがいた。

そして、気を失う前の出来事を思い出し、

自分が、談話室のソファに横になってる事を認識した。


起き上がろうとして、全身に走る痛みに気づく。

サラスが近寄って、そっと手を添えて起こしてくれた。

ありがとう…と言いたいが、全身の痛みで声が出せず、

呻くような音が口から漏れた。

サラスが、優しく語りかける。


「大丈夫か?

 何も喋らなくていい。

 あと、身体は痛いだろうが心配するな、

 調べてもらったが、怪我はしてないから」


サラスにそう言われて、イオナは思い出した。

気を失う前のことを。

…そうだ、ニーナに向かっていった時、

刀をかわされて、何か当て身のようなものをくらったんだ。

この痛みは、その時のものだ。


イオナは、痛みに耐えるために閉じていた目を開けると、

その部屋には、サラスの他にロデオソウルズの幹部達がいた。

イオナの体は、反射的に強張った。


そのイオナの反応を見て、サラスが説明する。


「大丈夫だ。

 彼らの事は心配ない」


サラスの後に、ニーナが口を開く。


「イオナ、さっきは悪かったね。

 ……でも、良い太刀筋だった」


イオナは、少しだけうなずいた。

そして、サラスが説明を続ける。


「イオナ、混乱していると思うけど、

 今から彼らに、今の状況を説明してもらうから、

 イオナも俺と一緒に聞いてくれ…いいかい?」


イオナは、サラスの目を見て、ゆっくりうなずく。


それを見て八雲が、片桐に目で合図をすると、

片桐が話を始める。


「サラスさん、イオナさん、

 突然、こんな事になり驚かせてしまって、すみませんでしたね。

 これから簡単にですが、説明しますね。

 理解できないかもしれませんが、聞いておいてください」


二人は、顔を見合わせてうなずいた。


「我々ロデオソウルズは、ワケあって、イグニス地方に向かっております。

 ただ、ここからイグニスに行くには、ブラッドベリーの領地を通らなければなりませんでした。

 そこで、八雲団長と知り合いのメイジ団長率いるステイゴールドに協力する形で、

 お互いに便宜を図るつもりでした。


 しかし、残念な事に、そちらの幹部の方が、我々を裏切ってしまったんです。

 敵に情報を流されてしまい、そのおかげで、うちのカイトが危険な目にあいました。

 

 そんな事をされて黙っていられる程、うちの団長は大人ではありませんから…そし」


そう言った所で、片桐の頭に空のペットボトルが当たる。

片桐は、無反応で話を続ける。


「…そして、二人ともご覧になった通り、裏切り者はニーナが始末しました。

 しかし、それではステイゴールドの戦力は大きく落ちます。

 我々は、協力すると言った手前、このままでは申し訳ないので、

 協力の形として、ブラッドベリーの幹部も始末をしてきました。

 全員ではありません。

 

 一番隊隊長のガレインは生かしてます。

 理由は、二つ。

 一つ目は、ステイゴールドの敵を我々が全て倒すのは、少し筋が違うかも、という事。

 二つ目は、ブラッドベリーにも1万人以上の人がいますから、その人々が、

 突然幹部が全員死んで、混乱しないように、というのが理由です。

 まぁ…これで混乱するなというのは、無理な話かもしれませんが…


 ちなみに、こちらに残った幹部は、あなた方二人だけですので。

 本当なら、一番隊隊長のマークスさんも、裏切り者ではなかったのですが、

 何故か行方不明になっています。


 まぁ…というわけで、我々ロデオソウルズは、ここにいる理由も、もうありませんから、

 今から、イグニスに向かいます。

 

 あと、最後に一応、原因と言いますか、この話が嘘じゃないという証拠と言いますか…」


片桐がそう言うと、バニラが重そうに、大きなズタ袋を引きずってきた。

袋の口を、バニラがナイフで切ると、中から手足をしばられ、さるぐつわをされた、

ブラッドベリーの団長の深見が転がって出てきた。


「!?」


驚く二人に、片桐が話をする。


「深見団長です。

 八雲団長の好意で、生かして持ってきました。

 今現在、ステイゴールドの代表はサラスさん、あなたですから。

 一応お渡ししようかと思っているのですが…

 いります?」


サラスは、どう答えて良いのかわからなかった。


「ええっと…いりますと聞かれても…」


「あの…幹部はほとんど始末しましたが、

 ステイゴールドと、ブラッドベリーの争いは、決着したワケではないので、

 もしかしたら、今後あなたが、何かの交渉に使うかと思いまして…」


「いえ…結構です……自分達で何とか方法を…考えますから…」


サラスのその言葉を聞いて、片桐は少し困った顔をした。

すると八雲が少し口の端をあげて、片桐に言った。


「…だよね?

 ほら、だから言ったんだ…片桐。

 サラスは、そんな手は使わないと思うっ…て。

 良いよ…片桐、こっちにもらおう」


そう言うと、八雲は立ち上がって、部屋を出て行く。

サラスが、八雲を呼び止める。


「八雲団長、ちょっと待ってください。

 どうして俺達に黙ってたんですか!

 どうして…こんな方法を…!

 相談してくれれば、きっと…他に…手が…」


「ああ…そうかもな。

 でも私は、私が決めた事をやっただけだ。

 これからは、サラスが自分で思う事をやればいい」


「そんな事を急に言われても…」


「いや…サラスは私に言ったはずだ。

 守っていく覚悟があるって…」


サラスは、ハッとして何も言えなかった。


八雲は何も言わず、そのまま部屋を出ていった。


片桐は、バニラともう一度、深見を袋に詰めながら言った。


「サラスさん…勘違いしてはダメですよ?

 八雲団長は、正義の味方じゃありませんからね?

 絶対に…」

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