第20話温泉



ロデオソウルズの団員は、山を越える途中の

山中の温泉宿のような所にいる。



カイトが、片桐を探している。

片桐は、マキオと剣の稽古をしていた。

マキオがロデオソウルズに入団して、9ヶ月が過ぎていた

カイトは、二人の動きを数秒見てから、声をかけた。


「………片桐ぃ〜」


呼ばれた片桐は、マキオの攻撃をスッとかわし、

足をかけて、マキオを地面に転がした。


「っんぐぇっ!」


「……カイト…私に何か用ですか?」


「ああ、団長が呼んでる。

 あいつらが、戻ってきたんだ」


「……あいつら……あぁ、戻ってきましたか…

 わかりました、すぐに行くと言っておいてください」


「了解……マキオ、今の動き良かったぜ」


カイトは、転がっているマキオに声をかけ、去って行く。


「…はぁ…はぁ…こんな状態を見て、どこが良いってんだよ…」


片桐は、マキオの手を取り起こす。


「いえ、今のは良かったですよ。

 私が避けてからの追い討ちも早かったし。

 足をかけたのも、次の動きがくると、危険だったからですよ。

 やはり、武器を長剣からククリに変えて正解でしたね。

 短剣の方がマキオに合っていますよ」


「そうですか?…確かに前より、少しは動きやすい気がしますけど…

 でも、まだこんな腕じゃ敵と戦うなんてできないでしょ?」


「う〜ん…相手にもよりますが…まぁ、もっと練習をするに越した事はないですけどね。

 自分に、自信がつくまでひたすら繰り返すのみです。

 とりあえず、私も用ができましたので、今日はここまでにしましょう」


「……はぁ…どうも、ありがとうございました」


片桐は、建物の中に入って行く。

マキオは、体についた土をはらいながら、離れにある露天風呂に向かった。


団が滞在しているこの辺は、山奥の温泉街で、

派手ではないが、趣ある日本家屋風の宿がいくつか点在していて、そのどれもに天然温泉が湧いていた。

ここに来て三日が過ぎた。

今は、団員200名ほどが、この辺りのいくつかの建物に別れ生活していた。


マキオは、カイトにずっとここにいられないか尋ねると、

山奥では物資がないから、数日後には移動をするだろうと教えられていた。


温泉の扉を開けて、脱衣所で汚れた服を脱ぐ。

かけ湯をして稽古の汗を流し、湯に浸かった。

目を閉じると、木の葉が重なり合う音と鳥の声、湯が流れていく音しか聞こえない。


( はぁ〜…まさか、このシュラで温泉に入れるなんて、思ってなかったなぁ。

  これも、団の皆んなが守ってくれるおかげだ。

  俺も、皆んなに何か貢献しなくちゃ申し訳ないよ。

  でも、相変わらず戦闘もできないし、どうしたもんかな…

 

  ていうか、数日でイグニスの都市に向かうらしいけど、

  一体何しに行くんだろう… )


そんな事を考えながら、マキオは数十分間、温泉を堪能した。


浴衣を着て建物に戻り、情緒ある木の廊下を歩いていると、

向こうから、誰かが走ってくるのが見えた。

誰だろうと思ったが、見分ける時間もなく、その人は凄い速さでマキオに走りより、

飛びついて来た。


「うわっ!」


マキオは、その人を抱えたまま後ろ向きに倒れる。

何が起きたかわからなかったが、その人を抱えた時の軽さと、柔らかい感触、

甘い香りで、女の子だとわかった。


その女の子は、しがみついたまま叫ぶ。


「会いたかったよーー!!」


そして、胸にうずめた顔を上げてマキオを見ると、その女の子はもう一度叫んだ。


「…………お前は誰だーー!」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る