第二章 ボッチ、友達ができる

第六話 ボッチ、刑事と出会う①




「んん…………ふあ~あ……。」

 我ながら間抜けな欠伸で目を覚ました。とあるネットカフェの個室で睡眠を取っていた。

 昨日、ゴミを抹消した僕は、ここで寝泊まりをしていた。

 普通のホテルに泊まる時もあるが、大抵は節約のためや利便性のためにネットカフェに泊まっていた。


 ……僕は今、各地を回ってゴミの排除をしている。

 その地元のゴミはもちろん、過去に報道になるようないじめを行っていた加害者のゴミも排除している。

 それだけでなく、虐待している親のような「何か」も排除している。僕のもっとも嫌いの事の一つだからだ。

 その甲斐あってか、ここ三か月で未成年の犯罪発生率はもちろん、普通の犯罪発生率も、減少していっているという。喜ばしい事だ。


 ちなみに金銭面は、バイトで貯めた資金を使っている。

 後々証拠を残さないように、貯めていたものを全額引き出した。後々の保険の為、カードは燃やして捨てた。

 ……といっても、ほぼ自分の趣味にお金を使ってたからそれほど貯金は無かったのだが。

 その為、稼ぎとして排除したゴミの金を頂戴して使っている。

 ……主に排除方法が爆発の為、少し難儀している所があるが。財布が燃えたり、無くなったり……。

 

 さて、今日はどうしようか。そう考えた時だった。

 ――コンコン、と扉を叩かれた。

 

「ん……?」

 何だ? 店員か? そう思ったが、どうやら違った。

 大抵ネットカフェの個室は、窓枠があり中も外も見えるようになっている。

 そこから見えたのは、どうみても店員の服ではなく、スーツを着た中年の男だった。

 

「…………誰ですか?」

 少しの間を開けて返事をする。

 帰ってきた言葉は意外な物だった。

 

 

 

「警察だ。開けてくれ。」

 

 

 

「……っ!!」

 警察…? そんな馬鹿な。なんで僕の居場所が?

 いや、まだ僕――久井俊介――だとわかってないかもしれない。もしかすると何処かで別の事件が――

 

「久井俊介くん、中にいるんだろ?」

 ――どうやらばれているらしい。迂闊だった。何で、僕の居場所が分かったんだ……。

 

「ここ開けてくれないか? 君とちゃんとした話がしたいんだ。」

 ……仕方ない。開けるしかない。そもそも警察も、僕を捕まえに来た、というより僕の安否を確認しに来たんだろう。

 警察にとって僕は、北田が死んだ事件の重要参考人だろうし。

 平静を装いながらも、僕は個室のドアを開けた。

 

「…………」

「…………」

 ドアを開けると、中年の男ともう一人若い男が立っていた。

 僕がよく見ていた刑事ドラマのような二人組だ。

 

「久井俊介くん、だね?」

「…………」

 中年の男が僕に話しかけてくる。

 

「いやぁ……君が無事でよかったよかった……。あの事件で殺されたとばかり……」

「……何の用、です?」

 僕は、不満げに返事をする。

 

「何の用って……君、自分の置かれた状況を解っているのかい?」

 若い刑事が呆れたように言った。

 

「家族も君の関係者も心配かけてるのに、よくそんな愛想のない……」

「まあテル、落ち着け。せっかく「連続超能力殺人事件」の重要参考人が、無事だったんだ。まずは、それを喜ぶべきだ。」

「コウさん……。」

 ……こいつら本当に、刑事か? 胡散臭さ満載じゃないか。


「あの……」

「ああ、何だい?」

「その、本当に刑事さん…ですか? あなた方は。」

「おおっと、申し訳ない。手帳を見せるのを忘れていた。」

 中年の男がそう言って懐を探る。

 出てきたのは、手帳だった。……警察手帳なんて初めて見た。

 

「警視庁捜査一課の高安 幸広たかやす ゆきひろだ。」

「同じく、警視庁捜査一課、照井 寛高てるい ひろたかです。」


「……本物だったんですね。」

「信じてもらえたようで何よりだよ。」

 そう言って高安は、安堵の表情を見せた。


「……一つ聞いてもいいですか?」

「ん?」

「何で、僕の居場所が分かったんですか?」

「ああ、まあ、そりゃあ……秘密って事で。」

 高安が飄々と答える。……何か癪に障るな。


「……捜査の秘密って事ですか?」

「まあ、そういう事だね。」

 今度は照井の方が答える。まあやっぱり、簡単には教えてくれないか……。まあ、いいさ。

 どうせ後々考えたら、そのリークした人間を見つけた所で何のメリットも無さそうだし。

 にしても、このコンビますます刑事に見えてこない。どっちも服装、崩してるし。


「……さて、改めて本題に入ろうじゃないか。……久井俊介くん、君を「連続超能力殺人事件」の重要参考人として、警視庁までご同行願いたい。もちろん、保護の意味で……」

「嫌です。」

 僕はきっぱり言った。

 

「なっ……! はぁ……君さ、本当に自分の立場解ってるのかい?」

 照井が呆れて、僕を咎める。

 

「もう一度言うけど、家族も君の関係者も心配かけてるのはもちろん、君はその事件に関わってるんだ。犯人がその事に……」

「信用できません。」

「え?」

「信用できません。……警察は。」

「……何でだい?」

「だって……僕の事、犯人だって……そう思ってるんでしょう?」

「それは……」

「それに、僕が保護されたとしても安全は確保できない! そうでしょう? 相手は訳の分からない方法で、相手を殺している! それが警察も対処出来てない事は解ってる!! それに……」

「それに……?」




「あの手紙に対する気持ちは……本物です。僕は、あの家族で仲間外れにされたようなもんです。」




「仲間外れ?」

「ええ、あそこは女二人に男一人。正直肩身が狭かったですよ。…しかも僕が一番年下。ずいぶんと扱き使われましたよ。」

「でも、家族仲は良かったんだろ?」

「表面上はね……。あいつらも僕の事を、「手のかかる弟」かそれに近い感情を抱いていたかもしれません。でも、僕は違う!! 

 初めのころは、僕も家族が好きでした……。でも……だんだん嫌いになりましたよ。あいつらが僕の事を、邪険に扱うような感じがして……。」

「…………」

「……年を取ったら、きちんとしないとって散々言われました。僕もそう思ってましたよ……。でもね! 

 僕はいつもいじめられていたんだ!! 僕の心がどうだったか、わかります?!」

「俊介君……。」

「いじめを隠してた僕も悪いですよ……! でも……あいつらの権力の事もある。情けないけど…男としてのプライドも……! 

 それに……気付いてほしかった……!! なのに……!!!」


「もういいんだ。俊介君。わかった。」

 高安が話を止めるように言った。


「すまなかったな……君の辛い事を言わしてしまって……。」

「……もういいですか。そろそろ、出る時間ですし。他の人にも迷惑ですし。」

 僕はそう言って、荷物を纏めた。

 

 ……さっきのは、全て本心だ。賢い人間なら演技で誤魔化すんだろうけど、二回もどうでもいい家族の事を言われてイラっとしていた。

 愚策だろうけど――僕自身が言う事じゃないが――ある程度、人に同情されるような境遇だと思う。

 だからここは、下手に演技をするよりも本音を言った方が良いと思った。

 ……言ってから、心の苦しみと後悔が出来たが。


「……さて、それじゃあ僕は、これで。」

 僕は、荷物を纏め部屋を出ていく。二人の刑事は制止しなかったが……まあ、いいさ。一刻も早くここから出たい。そうして、僕はネットカフェの出口へ向かおうとした時――




 ――別の、二人組のスーツの男が現れたのだった――



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