第三話 ボッチ、「非日常」が始まる②




 あのふざけた悪戯から一夜明けた今日。

 僕は、遅めの朝食兼早めの昼食を取り学校へ行った。ちなみに母と姉はとっくに朝に出ていた。


 相変わらず、つまらない授業を聞き、早く終わらないかと、淡々と過ごしていた……。


 そして、授業が終わり帰る時間となった。今日は、バイトがある。早く行かないと……

 そう階段を降りていた時――




 ―――ガッ―――




「うわっ!!」

 ヤバい……! 躓いた!! しかも結構高い!!

 幸い、下には誰もいないけど……下手したら大怪我だ……!!


(ど、どうする……。)

 よ、よし。一か八かだ。回転して着地する。昨日、ああ書いたんだ。

 不思議な力がきっと……!!


(ええい、このまま怪我するのもアレだ! なら……やるしかない!!!)

 意を決した僕は、自分の体を、縦に回転するように動いた。


「ふん!!」

 気合を入れる声を出した。すると――




 ――グルン、と一回転した――




(…………え?)

 え、ちょ、ま……な、なんだこの感覚……? 今日確かに体が軽いとは思ってたけど……!


 か、「軽い」……!!

 まるで、僕の体じゃなくなったみたいに……!!

 このままなら……いける!!!




 ―――スタッ―――




 まるで、特撮ヒーローが着地したみたいに、僕は華麗な着地をした。

 

「…………」

 僕は頭が追い付かなかった。この外見の通り、僕は運動が苦手だ。

 中学、高校も帰宅部。それなのに……。


「ありえない……。」

 周りを見ると、幸いにも誰もいなかった。好機とばかりに、僕は一目散にその場を後にした。

 ……変に目立ちたくないし。






――――――――――――――――――――――――






 あの後、何とか学校から出て、バイトに向かう途中、体の調子を確かめてみる。


(……軽いな。)

 やはり体は軽くなっていた。普段、階段の上り下りでも少し息を切らす程だったのが、まったく息切れしない。

 それどころか、走る、一段とばしで上り下りしても、まったく疲れは感じなかった。


(おいおい……。)

 あの本は、本当だったのか? そういえば、落ちている時も時間の感覚がゆっくりに感じた。

 あれも、あの本の能力……? それじゃ、もしかすると魔法も……。

 そんな期待を胸に僕はバイトへと向かった。






――――――――――――――――――――――――






 バイトも難なく終わり、僕は帰宅していた。

 もうすぐ日付が変わろうとする時間帯もあり、通行人はほとんどいない。


 帰宅する途中、僕はバイト中の出来事を思い出していた。

 それは、働いている時僕の働いてる所――小さなスーパーマーケット――で厄介なクレーマーのジジイが来ていたんだ。


 そのジジイは事あるごとにこの店に難癖をつける客だったんだ。僕も被害にあった。


 今回は、惣菜の人に文句をつけてたようだ。あのジジイの怒り姿が癪だ……! よし……!


(一か八かで、やってみるか……。)

 僕は、誰にも気づかれないように物陰に隠れ、辺りを警戒し掌を広げた。


(よし、魔法は…………「風」だ!)

 僕は、念じるようにして掌に力を込めた。すると――




 ―――ビュゥゥゥウウ―――




「っ! うわっととと!!」

 ジジイが傾き、転びそうになる。が、その途中何かにぶつかっていた。


「ったく!! なんだ畜生!!」

 そう悪態をつき、顔を見上げていた……がたぶんその顔は――こっちからじゃ見えないけど――とてつもなく真っ青になっていたと思う。




「おい、ジジイ。そっちこそ何しやがんだ? あぁ?」




 いい気味だ……! 僕は、陰でそのジジイの状況に笑った。






――――――――――――――――――――――――






 その後の展開は、分からない。

 が、恐らくジジイは、あのヤのつきそうな人に、何かしらの目にあっているだろう。


 それよりも僕は確信した。あの本は、本物だったんだ。信じられない……。

 どうせなら3つ目は、あんなふざけたのより、もっと真面目なのを……。


「…………ん?」

 ふと、気づく。……またあいつらがいるのか。


 あいつらというのは、所謂悪ガキの連中だ。

 帰り道の一か所に、あいつらの溜まり場になる場所がある。それで大抵夜になると、たまにそこに集まるんだ。

 僕は数か月前、あいつらに因縁をつけられたを機に、あいつらがいたら別のルートに帰ることにしている。


(でも、今日は違う!)

 あいつらを魔法でぶっ飛ばしてやる……。そうだな、爆発魔法であいつらを……。

 まあ、軽く脅しくらいの力で……。


(……? 待てよ、あいつ……!!)

 集団の中の一人に、とある奴を見つけた。僕が中学の頃にいじめをやっていた奴だ。

 あいつ……あいつらの仲間だったのか……!




 ――僕は小中高といじめられていたが、中学は特にひどかった。

 デブだの何だの暴言を吐かれるのは序の口で、ぶん殴られたり物を隠されたり、机に落書きされたり……

 とにかく酷い目にあってきた。


 色々噂を聞くと、最近では、大学で彼女も出来て順風満帆らしい。

 ……なんであいつが……あいつが、幸せなんだ……!!


 他の僕のいじめた奴も、順調だった。大学で上手くいってる奴、専門で上手くいってる奴、就職して上手くいってる奴――




 ――理不尽だ――

 そう思わざるを得ない。段々怒りがこみ上げる。あんな奴吹き飛ばしてしまえば……。




 ……そう思ったのが馬鹿だった。僕は自分でも気づかないほど怒りに満ちていた。

 そして、奴らの方へ掌を向けこう言った……爆発しろ、と――




 ――それが過ちだと気付いたのは、とてつもない爆発音が響いた後だった――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――






 ……一瞬、自分で目を疑った。何が起こったのかわからなかった。自分で行ったことなのに……。


 爆発の起こった場所を見る。そこには明らかに人だった「何か」がある。


「うぷっ……。」

 思わず吐き気を覚えた。自分のやった愚かな行動なのに……。


 い、いや、おち、落ち着け僕。『色々な魔法が使えるようになる。』そう書いたんだ!

 もしかすると、回復魔法……いや、蘇生魔法が使えるかもしれない……!!


 意を決して近づく。近づいて見たのは、人の形をしていた「肉塊」だった。

 無論、あいつらの……。


「……ううぅ、うっ……うっぷ……。」

 今にでも、吐きそうだった。目には涙が込み上げる。人が焦げ、血の匂いが充満している。

 恐らく普通に生きてれば嗅ぐことはない匂い。


(で、でも……!)

 やらなければならない……。僕は、可能な限り吐き気を抑え、涙を拭き、魔法をかけた。だが――




 ――何も、起こらなかった――




「…………えぇ?」




 ――回復魔法を念じる。……出来ない――

 

 ――蘇生魔法を念じる。……できない――

 

 ――どっちも試してみる――

 

 

 

 ――デ キ ナ イ――

 

 


「あ、ああ……ああああぁぁぁ……。」

 ……理解したくなかった。何で?何もかも叶えるんだろ?

 そんな、そんな……そんな――




 ――ボクガ、ヒトヲ「コロシタ」ナンテ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――






 ……そこからは、あまり覚えてない。

 急いで、その場を離れ、ただ、無我夢中で自転車を走らせてた。

 ……さっき起きた「現実」から、逃げるように。




 ――自分が「人殺しをしてしまった」という「現実」から逃れるように――

 

 

 

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