07話 ミリアと偽の婚約者②

 現在、オレは自分の迂闊さを呪いながら、現状をどうするべきかと必死に思考していた。


「恋人……?」


 そんなオレが考えを巡らせている間に、領主様が先ほどこの部屋に入ってきたミリアの一言に訝しむ。


「決まっていますわ。そちらの――もごもご!」


 領主の疑問にミリアが答えようとした瞬間、オレは慌てて彼女の口を手で塞ぐ。


「い、いやー! ミリアじゃないかー! き、奇遇だなー! あ、あれー? ひょっとして領主様の娘さんってミリアのことだったんですか、すっごい偶然ですねー!」


 なんとかバレないように隣でモゴモゴ言っているミリアの声をかき消すように大声で領主様に尋ねる。


「ああ……まあ。というよりも君は娘の知り合いだったのかい?」


「え、ええ、まあ! こいつがお世話になっている先輩がオレの相棒のリリィでして、そのつてでよく会うようになりまして!」


 うん、これは嘘ではなく、真実なので全然不自然ではありません。

 オレからの返答に対し、それなりに納得した様子で頷く領主様。


「そうか、まあ、それなら良いのだが……では、先ほどの件、頼めるかね? キョウ君」


「勿論です! 任せてください! このミリアさんの恋人がどんな人物か、彼氏にするに相応しいかキチンと調査してきますので! では、オレはこれにて!」


「むぐむぐぐ!」


 未だむぐむぐ言ってるミリアを押さえたまま、オレは急ぎ領主の部屋から退出していく。


                  ◇  ◇  ◇


「なるほど。パパから私の恋人がどんな人物か調査を依頼されたのですね。なら、私の口を押さえる前にそうだと説明すればよかったじゃないですか」


 いや、そんな暇なかったですから、あの時。


 というわけで、領主の館から無事逃げ出してきたオレとミリアはいつもの小屋で、先ほどの事情を説明していた。


「けど、そういうことなら話は簡単ですね」


「と言うと?」


「要はキョウさんが私の恋人についてパーフェクトな報告をすればいいんです!」


 あ、なるほど。確かにそれなら問題なく解決しそうではある。


「というわけで、私の方で理想の恋人のプロフィールを今から口にしますので、キョウさんはメモよろしくですー!」


                 ◇  ◇  ◇


「なるほど……娘の恋人は同じ冒険者というわけか……」


 というわけで現在、領主様にオレがまとめた恋人の資料というやつを渡しています。


「しかも、その恋人とやら、娘の窮地を何度も救い、冒険者としての実力は超一流。人望も厚く、後輩の冒険者には自ら進んで協力をし、容姿端麗、品行方正、まさに文句のつけようもない完璧な人物のようだな……」 


 なんかそのミリアの理想の恋人像、果てしなく誰かに似ているような気がするのだが、あえて黙っておきます。


 一通り資料を読み終わった領主様は僅かに考え込むようにオレに問いかける。


「……君から見て、娘の恋人は娘を幸せに出来そうか?」


「はい。彼なら安心して任せていいと思います。下心など一切ない様子でしたから」


 まあ、架空の恋人像ですからねぇ。

 さらりと嘘をつくオレ自身どうかと思うが、一刻も早くこの件を片付けたい心情からオレはそう答える。


「……そうか。ならば、仕方がない。娘がそこまで言うなら、こちらが用意した婚約は諦めるとするか」


 よし! 任務完了! お疲れ様でした、領主様!


「それでは、最後に一つ。その娘の恋人とやらに私から挨拶をしておきたいので、明日ここに呼んでくれないか?」


「へ?」


 これでようやくこの件から解放されるとガッツポーズを取ろうとした刹那、そんな爆弾が領主様の口から飛び出し、オレは凍りつくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る