02話 デビキャロ収穫対決


「頼もー!」


 扉の向こうから聞こえてきたその声にオレは思わずデジャブを感じる。


「えーと……どちら様でしょうか?」


 そんな先日と同じ流れで扉を開けると、その先に立っていたのは、やはりと言うべきかあの時と同じ小柄な少女騎士、ミリアが、勇ましげな表情で立っていた。


「久しぶりですね。今日はあなたと決着をつけに来ました」


 ホワイ? この子は何を言っているんだ?

 困惑するオレを余所に、先日と同じように鞘から剣を抜き、切っ先をこちらへと突き出す。


「私と勝負し、私が勝ったらリリィ先輩を解放してもらいますよ!」

「はい? 解放?」


 解放も何もあいつ好き勝手にオレん家来てるんだけど。


「さあ、いざ尋常に勝負です!」


 こちらがなにも答えないうちに、ミリアは剣を構えたまま向かってくる。が、その瞬間、彼女の隣に現れた人物に足をすくわれ、先日と同じようにその場に派手な音を立てながら倒れていく。


「ぎゃふんっ!」


 うむ。まったく同じ台詞もご丁寧に言って下さりました。


「アンタ、またなにやってんのよ」


 そこには呆れた様子でため息を吐くリリィの姿があった。


   ◇   ◇   ◇


「ですから、私がこの人と勝負して先輩を解放します! それでまた私と一緒に冒険しましょうよー! 先輩ー!」

「あーもー! 引っ付くなー!」


 再び、オレの家にてリリィを交えて、事情を話すミリア。

 彼女曰く、オレと勝負して勝てばリリィを解放してもらい、その暁にリリィとパーティを組みたいらしい。そして、パートナーの座も奪い取るとかなんとか。


「だから、アタシはこいつに囚われているわけじゃないんだってば」

「だとしても!」


 立ち上がりミリアはビシッとオレを指差し宣言する。


「この人が先輩の男だなんて私は認めていません! もしも先輩を自分の物にしたいと言うのでしたら、私を倒してからにしてください!」


「「言ってねーし!!?」」


 思わずオレとリリィの声がハモった。

 心持ちりリリィの方がオレよりも慌てた様子で顔を真っ赤にさせていたが、それは置いておこう。


「とにかく勝負です! ここは正々堂々と勝った方が正しいということで」


 なんちゅー無茶苦茶な理論を。

 この子、口調は礼儀正しくて、見た目も結構いいところの出っぽいけど、考え方はすごく単純で脳筋だ。

 どうしたものかと悩むオレに対し、リリィが提案する。


「うーん、こうなったら収まらないわね、いっそ本当に勝負してくんない?」

「なっ! お前までなに言ってんだよ! オレみたいな平凡な男が冒険者に勝てるわけないだろう!」


 思わぬその発言に食ってかかるオレだが、リリィは慌てる必要はないとばかりに首を振る。


「安心しなさいよ。何も勝負は剣でとは限らないじゃない?」


   ◇   ◇   ◇


「つまり、この畑にいるデビルキャロットをより多く引き抜いて収穫した方が勝ちということですね!」

「まあ、そういうことだ。これなら剣も使わないし、お互い安全だろう」

「わかりました! たくさんのデビルキャロットを引き抜いて、あなたをぎゃふんと言わせますからね。覚悟してくださいよ!」


 いや、その台詞すでに君の方がたくさん言ってるような気がするが。


「それじゃあ、用意~始め!」


 リリィの掛け声と共に勝負が始まり、オレとミリアは足元に存在するデビルキャロットを引き抜こうとその葉を掴むが――


「あ、あれっ!?」


 ミリアが掴んだデビルキャロットが突如、地中に潜ってしまい、そのままモグラのように隠れてしまった。


「な、なんですかこれー!?」


 慌てふためくミリアをよそにオレは二匹目のデビキャロを収穫しながら呟く。


「デビキャロは引っこ抜こうとすると、そのまま地中に隠れたりするから注意したほうがいいぞ。引っこ抜くときは根元を掴んで引っ張る。これ豆な」

「そんなの知りませんよー!」


 まあ、オレも最初はそれやられて参ったよ。

 しかし、それくらいでは負けじと二匹目に挑戦するミリアであったが。


「よしっ! 今度は取れましうわあああああああああ!!」


 今度は引っこ抜いた瞬間、そのまま空中にジャンプするデビキャロの動きに翻弄され、掴んだはずの草を手放してしまった。


「そうそう、そいつらたまにそうやって自分から飛び出してきたりもするから、動きを先読みして収穫したほうがいいぞ」

「だからそんなのわかんないですってばー!」


 喚くミリアを余所に、彼女の周囲に埋まっていたデビキャロ達が自ら地面から飛び出し、彼女をからかうように周囲を歩き出す。


「な、なんですかこいつらー! 急に私の周りをうろついて……きゃああああ!」


 そのうちの一体が、いたずらとばかりにミリアのお尻を触って、そのままからかうするように飛び跳ねる。


「そいつらとにかくイタズラ好きで、たまに遊びだすから、気をつけろよー」

「だから、どうやって気をつけるんですかー!」


 周囲を動き回るデビキャロを必死に追い掛け回すミリアだが、そんな彼女をからかうようにデビキャロ達は畑を疾走していくのだった。



 その後、結果は言うまでもなくオレの圧勝。結局ミリアは一匹も捕まえることができなかった。


「こ、こんな……私が惨敗なんて……」


 ショックを受け某アスキーアートのように膝を折っているミリアだが、まあ、オレも最初の頃はデビキャロ達に弄ばれたからなー。懐かしい記憶だ。


「くぅぅ~! つ、次こそは負けませんもん! これで諦めたわけじゃありませんからね! 次こそは必ずあなたを倒して先輩を取り戻してみせます!」


 固い決意を胸に、こちらに背を向けて去っていくミリアの背中を見ながらオレは収穫したデビキャロをリリィに手渡しながら呟く。


「今日は人参料理とかどうだ?」

「それ、いいわね」


 目を輝かせるリリィを連れて、その日、オレ達はミナちゃんの食堂屋でこれでもかというほど人参料理を食したのだった。


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