第25話潜入!ロリータコルセティア5


レィルに話しかけてきたのは、

髪色はアッシュベージュのウルフショート。肌は褐色で目は釣り目。

年のころは16、7という少女。

服装はもちろんの事、ゴスロリだ。


「ん?なんだ?この俺に何か用か?」


レィルは眉間にしわを寄せ、努めて低音で返事をする。


「あー、やっぱり!」


 (そうだ、男だよ。それをそこらじゅうに触れ回ってくれ)


「見ない顔だと思ったんすよ、新入りっすね」


「………は?…いや、うん、まあ………」


「いやー、ウチもついこないだ入ったばっかなんすよおー

 喋る相手いなくて困ってたんす」


「いや、あーそう……ですか」


 (いや、その前に言う事があるだろ!!男だぞ俺は!!)


「一緒にお話しするっす」


「ああ、まあ……いいけど」


「ウチの名前はリブルっす」


「お、俺は……レィルだ」


二人はテーブルのお菓子を食べながら話をする。


「しっかしこう見るとホント壮観っすね。

 これでみんな戦闘技術も高いっていうから驚きっす」


「あ、ああ。とてもそうは見えないな」


「そちらさんはオーディションか何かで入ったんすか?」


「オーディション?……いや、違うな。

 なんつうか、ここのギルマスに入れさせられたというか」


「へー、すごいっすねえ、じゃあスカウトっすか。

 いや、これだけ容姿が良かったらスカウトもされるって話っすね」


「…冗談はよせ。お前はどうなんだ?」


「ウチは直談判す。つい数日前、ここに一人で来て、入れてもらったっす。

 そういう希望者は結構、多いみたいっすよ」


「ふーん、じゃあお前も戦闘の実力もあるってわけか」


「えー、まあ並っすよ。あ、カメラ来た。レィルさん、手を振るっす」


「ああ?カメラあ?」


見れば、無人型撮影ポッドが辺りをぐるぐる飛び回っている。


「…んだこりゃ?」


レィルはカメラを思い切り睨み付ける。


「ちょっと何やってんすか!?ダメっすよ笑わないと!」


撮影ポッドはその場から離れ、別のギルメンの元へ飛んでいった。


「なんだあれ?録画してんのか?」


「聞いてないんすか?あの映像は今

 リアルタイムで動画サイトに配信されてるんすよ」


「……まじかよ…」


「あまりそういうとこ知らない人なんすね。


 ちなみに、その配信は有料チャンネルになっていて、

 そこからの収益も結構デカいらしいっすよ」


「…………ほー、なるほどな。

 ただ飲み食いしたいから集まっているわけでもねえって事か」


「お茶会配信で人気になれば、個人チャンネルの開設や歌手活動、

 最近ではグラビアなんかやってる人もいるっす」


「…………。もうそれ、ネトゲのギルドじゃねえな」


「TSOはMRS(※)があるっすから。ギルドも大手になると、

 黒字収益を出しているところが結構多いって話っすけどね」


(※ゲーム内通貨 換金システム)


「…ま、俺はそんなんどうでもいいけどな。

 強くなる事しか考えてねえから」


「それはどうっすかね。

 ゲーム内通貨があれば良い装備も買える、素材も集められる、

 結果として、強くなる近道となる事もあるっすよ」


「ん?…………そう…か、まあ…言われればそうかもな。


 ところで、気になっていたんだが」


「…ん?なんすか?」


「さっきからお前の周りをウロウロしてる猫はなんだ?

 使い魔か何かか?」


「あー、この子っすか」


「にゃー」


見れそれは黒猫。リブルの周りを歩いている。


「いや、ウチの使い魔じゃないっす。野良猫じゃないすか?

 さっき正門に入る時、一緒にくっついて来たんすよ。

 そのままここまでついてきたみたいっすね」


「ふーん…………」


「にゃー」


黒猫はテーブルへと飛び乗ると、ケーキの上に乗っている苺をかじった。


「コラ!!何やってんすか!」


リブルが慌てて追い払うと、

黒猫は苺をくわえたままどこかに走り去った。


「……いじきたない猫っすね…」


そうこうしていると、

館のドアが開き、数人の少女たちが庭園へと出てくる。

その場にいる少女たちの視線は一斉にそこに集まった。


「あ!ギルマスが館から出てきたっすよ!

 やっぱり綺麗っすねえ」


 (昨日の事があるとな……。

 俺にはもうただの変態にしか見えねえが…)


館から姿を見せたザッハトルテの元に、多くのギルメンが集まる。


「隣にいるのはティッティさんすね」


「ティッティ?聞いた名だな。確か…このギルドの筆頭魔術師だったか」


「ええ、ティッティさんの魔術はTSO最強とも言われているんすよ。

 さらに、ギルマスとタッグを組んだら敵なしらしいっす」


「高火力魔術師に超耐久型戦士か……確かに厄介ではありそうだが、


 だが、魔術師はどうせ紙耐久なんだろ?

 俺ならまず…、魔術師をさっさと仕留めて…」


レィルは腕組みをしながら一人考え出す。


「………レィルさんは戦闘が好きなんすね。

 人は見た目によらないっす」


「お話のところごめんあそばせ、よろしいかしら?」


そこにやってきたのはザッハトルテだ。隣にはティッティの姿もある。


「あ、ギルマス。ごきげんようっす」


「ごきげんようリブルさん。それと…レィルさんも」


レィルは腕組みをしながらそっぽ向いている。


「リブルさん、良かったですわね。

 入ったばかりで話し相手がいないとおっしゃってましたが」


「そうっすね。ちょうどいい友達ができてよかったす」


「それで、このレィルさんについて気づいたことはありまして?」


「え?気づいた事っすか?なんすかねえ……

 めっちゃ可愛いっすけど言葉遣いがなんと言うか……。

 あ、でもギャップがあっていいすね」


「ええ、そうですわね。ウフフフフ」


レィルのもとへと近寄るザッハトルテ。耳元で小さく囁く。


「どうしまして?大混乱には程遠くてよ?」


それを睨み付けるレィル。


「うるせえ、これからだよ」


「………誰……これ…」


近くにいたティッティがザッハトルテの裾を引っ張り、尋ねる。


「この方はレィルさんといって、

 昨日わたくしがスカウトしてきた新メンバーですわよ。

 ティッティさんもきっと仲良しになれますわ」


「………………………」


ティッティはレィルを超至近距離から舐め回すように見つめる。


(近い近い近い…!!!)


しばらく見た後、

ティッティはザッハトルテの方を振り返り親指を立てて見せた。


「好きですわねそのポーズ……。

 でもよかった、ティッティさんも気に入ったようで何よりですわ。


 ではさっそく、皆さんにお披露目と参りましょう。

 …皆さん、ちょっとよろしいかしら?」


ザッハトルテの一声に談笑していたギルドメンバーは一斉に言葉を止め

ザッハトルテの方に注目した。

その中にはサブマスターキルシュの姿もあり、不安そうな表情で見つめている。


「この方、わたくしが昨日スカウトして参りました、レィルさんですわ。


 今日からギルドメンバー入りなさいますので、

 この場を借りてわたくしより、ご紹介致しましてよ」


「あら?新メンバーですか」


「ギルマスが直々にスカウト…。よほどの逸材ですね」


周囲の視線はレィルに集まっている。


 (……こんだけ人の目が集まってんだ。

 いくらなんでも誰かしら気づくだろうよ。よし、ここが勝負どこだ!)


レィルは足を広げ手を腰に当て、大きく息を吸い、大声で言った。


「俺の名はレィル!!

 趣味は戦うこと強いやつを残らずぶっ倒すこと…!!!

 苦手なのはちいせえちまちました事…!以上!!夜呂死苦!」


「………………………」


途端に周囲は静まり返る。



 (ヨッシ!!この反応、完全にばれた!!

 だから言っただろうが!約束は守ってもらうぜ…!!)


レィルはしてやったり顔でザッハトルテを見る。

しかし、ザッハトルテは依然動じていない。変わらず笑みを浮かべている。



「か、かわいい…!!!」


「期待の新人ね!!」


「戦闘が好き!なるほど!差別化ですね。

 そういうアプローチもありましたねー」


「一人称が俺っていうのも新鮮で、ギャップがあっていいですね!」


「うーん、その手がありましたか……

………盲点でした…」


周囲からはむしろ称賛と感心の声が上がった。

その様子を唖然と見つめるレィル。


 (………いやいやいや!嘘だろオイ!!

 違うだろお前ら!!もっと他に言うことがあるだろうが!)


「ご覧の通り、この清楚な容姿と、キャラクターの見事なギャップ。

 まさに未来のギルドを背負って立つほどの逸材。


 皆さん、どうぞ彼女を今後ともよろしくお願いいたしますわ」


「はい、ギルマス!」


「よろしくね、レィルさん!」


「よろしく!」


周囲から歓迎の声があがるなか、レィルは一人愕然としている。


 (そんなバカな……。まじかよこいつら…………)


そこへキルシュがやってきて小声でレィルに話しかけた。


「ちょっとどうするんですかこれ!だから昨日、私は言ったんですよ!」


「いや……………こんなはずじゃあ……」


後ろにいたリブルも駆け寄り、話しかける。


「レィルさんすごいじゃないっすか!

 入った初日なのに、もうみんなから一目置かれてるなんて!

 ウチなんかとは大違いっすねえ」


「いや…………うん……」


「ウチなんか最初、男みたいとか言われたんすよーまいっちゃうなー」


「…………。男みたいって言うか、俺はおと…」


そこまで言ったレィルの口をザッハトルテが指で塞ぐ。


「ルール。……お忘れではないですね?」


「ぐぐぐ……」


レィルとザッハトルテの睨み合いが続くが、

その均衡を破ったのは、ザッハトルテのウィンドウに届いたギルドコール。

門番を務めていたギルドメンバーからの通信だ。


「あら、なんですの?」


「あの、ギルマス。今さっきですが…。

 正門にギルドに入りたいという希望者の方が二人みえて……」


「あら、またですの。最近本当に多くなりましたわ。


 しかし、そういう方々を全員中へ通すわけにも参りません。

 いつものようにあなた方が軽く、実力を見て差し上げて?」


「え、ええ…。私達もそう思ってちょっと手合わせしたんですけど…」


「それで、その方々は諦めて帰られましたの?」


「あの、それが…。私たち、あっという間に打ち負かされてしまって……。

 二人はつい今しがた、敷地の中に入っていかれました…」


「あっという間に?あなた方がですか?」


「はい、申し訳ございません…」


「わかりましてよ。ご苦労様でしたわ。少しお休みになって?」


ギルドコールが切れる。


「……どうしたの……」


ティッティが尋ねる。


「ギルド入り希望者が二人、こちらに向かわれているみたいですわ。

 何やら、門番の二人があっという間にやられてしまったとか」


「え!?あの二人が!?本当ですか!?」


キルシュも驚いた様子で近付いてくる。

その場にいるギルメンも騒然としている。


「今しがたと言っておりましたので、そろそろこちらに着く頃合いかしら…」


そのとき、少し遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。

その場にいる全員がそちらの方へ目をやると、その音は徐々に大きくなる。


来たのは二頭の馬。一頭は黒毛の馬、そしてもう一頭は白馬。

庭園の中を、颯爽とこちらへ走ってくる。


「……おそらく、あの方々ですわね」


二頭の馬はお茶会の開かれている広場のすぐ手前で止まると、

その上から二人のプレイヤーが降り立った。

そして、ゆっくりと広場へ歩いてくる。


黒い馬に乗っていたのは、黒いゴスロリ服に身を包んでいる少女。

年の頃は十代後半と見られ、姫カットの黒い髪の毛。

顔立ちはつり目がちではあるものの非常に整っている。


もう一人は白馬から降りてきた少女。

年の頃は同じく十代後半、

全身白いゴスロリ服。白く長い髪に大きな紫色の瞳が印象的な美少女。


その二人はザッハトルテたちのいる元へとやってきた。

その場にいるギルドメンバーたちは皆、静かにその様子に注目している。


「…あなたがギルマスのザッハトルテさんね」


声を発したのは黒いゴスロリ服の少女だ。


「そうですわ。

 先ほど、門番から連絡がありました。

 ギルド入り希望者というのは、あなた方でお間違いなくて?」


「ええ、そうよ。

 私たち二人、是非このギルドに入れてもらいたいと思ってね。


 ……どうかしら?」


「ギルマス、どうしますか?」


キルシュが尋ねる。


「そうですわね…」


ザッハトルテは

二人を足先から頭まで注意深く観察した後、話し出した。


「黒い服の方、少々アクの強いところはありますが、非常に完成度が高い。

 そういった服を普段から着慣れていますわね。お顔もお上品で綺麗。


 そして、そちらの白い服の方……」


ザッハトルテは更にまじまじと見つめる。


「…………いいですわね。文句のつけどころがございませんわ。

 透き通るような白い肌に、お人形さんのようなお顔。完璧なスタイル。

 まだこのような逸材がこの街にいらっしゃったんですのね。


 容姿はお二人とも素晴らしいですわ。


 ですが、門番のふたりをあっという間に退けたという話、

 耳で聞くだけでは、にわかには信じがたくてよ。


 今から、この場で見定めさせていただいてもよろしいかしら?」


黒いゴスロリ服の少女は笑みを浮かべる。


「うふふ。お眼鏡にかなって光栄だわ。

 実力を試したいというのならもちろん、今すぐにでもご覧に入れるわよ」


その様子をザッハトルテの少し後ろから見守るレィルとリブル。


「……おいおい、なんか一戦おっぱじまりそうな雰囲気だな。

 こんな事もしょっちゅうなのかよここは?」


「ウチも最近来たばかりだから詳しいことはわかんないっすけど…。

 でもあの二人組、なんか只者じゃないオーラっすね」


レィルもその様子に注目するなか、ザッハトルテが声を出す。


「お茶会の余興としても、刺激的で打って付けですわ。


 カーラさん、エミリさん、

 この二人の相手をしていただいてもよろしいかしら?」


近場にいたギルドメンバー二人を指名した。


「ちょっとギルマス。

 あの二人じゃ強すぎませんか?

 希望者といきなり戦わせるのはどうかと思いますけど…」


キルシュの言葉に構わず、指名された二人は前へと出た。


「いえサブマスター、私たちにいかせてください」


「なにも全力で相手するとは言ってません。

 ちょっとあの二人の様子をみてきますよ」


「そ、そうですか…」


「ではギルド入り希望の方、私たちが相手をさせてもらいます」


「どうぞ全力でかかってきてくださいね?」


そう言って、二人のギルドメンバーが希望者の前へと立ちはだかった。


「そう。では、胸を借りさせてもらいましょう」


一触即発のなか、ギルド入り希望のうちの一人、白いゴスロリ服の少女が

黒い服の少女に話掛ける。


「ウ、ウララさん…。またやらなきゃいけないの?

 ボク、人と戦うのはあんまり好きじゃないんだけど……」


「アナタまだ言ってるの。

 ここまで来てしまったんだもの。いい加減腹をくくりなさい」


二人のギルメンと二人のギルド入り希望者は武器を出し、

それぞれに構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る