第22話潜入!ロリータコルセティア2


夜の路地裏で互いに武器を構え合うレィルと少女。

しばし間、睨み合いが続く。


「……どうした?来ないのか?」


「あら?私をご存知なのに、戦闘スタイルはご存知ないんですのね。


 わたくしは受け専門。

 どうぞご遠慮なく、思いっきりいらしてくださいな」


そう言うと少女は持っている斧を下げた。

レィルは咄嗟に思考をめぐらす。


 (武器を下げた?一体なんのつもりだ?

 

 受け専門……カウンタータイプか、それとも受け流し、回避型…。

 ただ、あんなでかい得物を持ってそうそう素早く動けるとも思えねえが。


 まあいい、

 向こうさんはどうやら来る気配がない、やってみなきゃ始まらねえか)


「じゃあお望みどおり……!!」


ダッ!!


その言葉を発するや、レィルは一気に走りだした。

大剣を横に振りかぶり、少女の真正面に飛び出す。


あえてその状態で一拍を置き、刹那、レィルは少女の挙動に注視した。


「この距離でも動く気配がねえ!……あたる!」


ズガッ…!!!


「………!!!!」


大剣で斜めに強烈な一線を描く。

その攻撃は見事に少女を捉えていた。


「もういっちょ!!」


ズガッ…!!!


更に逆から同じ軌道を剣がなぞる。一撃目よりも更に踏み込んだ攻撃。

少女にまたもクリーンヒット。


「……あっ♡」


「らああああああ!!!」


ザシュ!!!


今度はジャンプと共に下からの切り上げ。

そして少女の背後に着地後、間髪を入れずに振り返りざまの一撃。


「…んっ♡」


ダッ!!!


後ろに距離を取り、走り抜けながらの一撃。


ザシャアア!!!


「…んふんっ♡」


少女は武器を下げ、ノーガード状態のまま動かない。

全ての攻撃が確実に少女を捉えていた。


スタミナを消費したレィルはいったん距離を取る。



「ハァハァ………………」


「………………」


「どうした?これじゃあまるでサンドバッグだぜ。


 あまり歯ごたえがねえと、

 まるで俺が、子供を一方的に虐めてるみたいじゃねえか」


「………………」


少女は恍惚とした表情を浮かべている。

一方で、レィルはその言葉に反し、目を細めていた。


 (いなされてるわけでも、受け流されてるわけでもねえ。

 確実に芯を捉えたはずだ…。なのになんだこの違和感は。


 手応えがないわけじゃない、 むしろ逆、手応えが重すぎる。

 まるで巨大なモンスターにでも切りつけているような。そんな感触だ…。

 こいつ……一体……)


「少々無骨ながら情熱的な攻め。嫌いでなくてよ。

 さあ、その程度で終わりではないでしょう?」


 (とにかく、攻撃はヒットしている。

 補助魔法で凌がれた気配もない、きいてないはずはねえ。


 だったら……倒れるまで打ち込むだけだ!)


ダッ…!!!


レィルは再び走り出す。

少女は相変わらず、笑みを浮かべて棒立ちの状態だ。


「っらあ!!」


ザッザッザッザシッ!!


「んあっ……♡」


真正面からの大剣による連撃、四弾すべてヒット。

やや後方に下がり、武器を強く握り直す。必殺剣技だ。


「グリズリーダンク!!!」


一度ジャンプし、着地の勢いを乗せ大剣を縦に振り下ろす。


ドガァ!!!


「いいわ!もっと頂戴!!」


「デッドリースピン!!!」


さらに必殺剣技で畳み掛ける。

その場で駒のように回転。遠心力で加速された剣撃が幾度となく少女を襲う。


剣技の終わりに合わせ、レィルは再度距離を取った。


「ハァハァハァハァ…


 どうだ!これでも立っていられるか!?

 ハァハァ…!!」


しかし見れば、少女は相変わらずの状態。

その場に平然と立っていた。


「まだ立てるだと!?バカな…!

 普通のプレイヤーなら、HPバー四、五人分はもう削ってるはずだ!」


少女は頬を赤らめ、笑みを浮かべる。


「……ウフフフ。

 結構なお手前。堪能させて頂きましたわ」


「なんなんだお前!?

 それにさっきから出す声がいちいち気持ちワリィぞ!」


「あら、ごめんあそばせ。私としたことがはしたない。

 あまりの快感に、つい声が漏れてしまいました」


「快感って……、お前頭大丈夫か!?」


「言葉責めも嫌いではありませんが……

 そろそろ私的な戯れの時間は終わりにしなければいけませんわね。


 ギルマスとしての仕事は、しっかりとしなければ」


そう言って、少女は降ろしていた斧を再び体の前に構え直した。


 (確実に攻撃は当たってる…。必殺剣技二発まともに食らってんだぞ…

 奴はすでに瀕死のはず…!)


レィルも剣を構える。

間合いを取り、見合う二人。



「マーク・サチュレイション」


まず動いたのは少女。技を発動させた。


「ああ?何やってんだお前。

 それはモンスターにターゲットを絞らせる技だろうが。

 対人でやっても意味がない、わかってねえのか?」


「ええ、そうですわね。……普通のレベルの技ならばね」


「何を言って………………………


 ………!!!なんだ?なんだこりゃ!?」


レィルは思わず声を上げる。

自分の体が前方向へと徐々に引っ張られていく感覚があった。

まるで、少女の方へ向かって強い風が発生しているかのような感覚。


「体が……!吸い寄せられる!?」


「この技、レベルを徹底的に上げるとこのような付加効果が現れるんですの。

 ご存知なくて?」


「な!?……くそっ!このっ!!」


必死に抗うが、レィルの体は徐々に少女の方へと引きずられていく。


「さあ、こっちへいらっしゃいな。可愛がって差し上げますわよ」


少女は斧を構え、舌なめずりをしながら笑みを浮かべている。


 (クソ!どうする!?


 ……いや待て、体の自由がないわけじゃねぇ、攻撃はできる。

 だったらこの流れを逆に……!!)


閃いたレィル。

前方に引きずられながらも腰を低く構え、大剣を振りかぶった。

少女まではまだ距離がある。


「ウフフフ。何をなさるおつもりかしら?」


「そんなに欲しけりゃくれてやる!受け取れ!!」


レィルは大剣を思い切りスイング、そのまま手を離した。

大剣は一直線に少女に元へと飛んでいく。

少女の技の効果も加わり、そのスピードは凄まじい。


ガイイィィィィン!!!


少女が斧で大剣を弾き落とす音が響いた。

しかしその大剣の影に隠れるようにして、ピタリと追随していたレィル。

凄まじいスピードで少女に向けて猛突進。


「……!!!」


「オラァ!!これでどうだ…!!

 チャージブロー!!」


レィルは突進しながら拳を思い切り引き、必殺拳技を放った。



ドガァアアアアアアァァ!!!!



一瞬、静寂に包まれる。

少女が叩き落とした大剣は辺りに転がり、

レィルが放ったパンチは、少女が片手で受け止めていた。


「止められた!?…こいつマジか!!」


「主力の大剣をあえておとりに使い、必殺拳技。

 その柔軟な戦い方、センスをお持ちですのね。


 ですが、もしもの時の事を考えなければね。大剣を手放したら

 アナタは、攻撃防御その両手段を大幅に損なうのですから」


「くっ…!!!」


そう言って少女は、レィルの拳を勢いよく引き、

体勢を崩したレィルに容赦なく斧を叩きつける。


ドガアア!!!


強く弾き飛ばされ壁にぶち当たるレィル。


「ぐぐぐ…」


倒れ込みながらも顔を上げたが、目前に少女の斧が突きつけられた。


「チェックメイト………ですわよ♡」


「…………。クソがっ!!!」


悔しさをあらわに、地面を叩くレィル。

少女は静かに斧を降ろした。





少し時間を置き、落ち着いた二人。

レィルは未だ、壁を背に座り込んでいる。


「信じらんねえ。この俺が子供扱いだ。


 これが古参の力って事かよ。クッソ、俺もまだまだ鍛錬が足りねえな…」


レィルは自らの拳を険しい表情で見つめる。


「アナタTSO歴もそう長くはないのでしょう。

 ですがその高いセンス、確実にまだまだ強くなりますわ。

 なんでしたら、

 わたくしがそのお手伝いをして差し上げてもよろしくてよ」


「…ああ?手伝いだあ?」


「メイ、この方に回復の魔法の実を差し上げて」


「はい、お嬢様」


今しがたレィルと戦闘をしたうちの一人、ゴスロリ服の剣士が

魔法の実をレィルへと手渡した。

そこへ少女が改めて話しかける。


「…約束。お忘れでないかしら?」


「……………………。

 ……ああ、わかってる。

 つまんねぇシラ切るほど俺もダサかねえよ。


 装備でも金でも、何でも持ってけ」


レィルはなんとか立ち上がり、服のホコリを払う。

少女は首を振った。


「言いましたでしょう?

 わたくしはそのようなものに興味はありませんわ。


 そこに馬車を停めてありますの。ひとまず一緒に来て頂きますわよ」


少女がレィルに手を差し出すが、

レィルはそれを無視して少女が示した方向に歩き出した。


「…選択権はねえんだろ。どうせ」


レィル、少女、ゴスロリ服の剣士二人、四人は夜の街を歩きだした。




街を少し歩くと馬車が姿を現した。

屋根と窓のついた、英国貴族を思わせる豪華な趣きの白い馬車。

それを二頭の白馬が牽いている。


そこへ四人は乗り込む。

うち、一人の女剣士は前方の席に座り手綱を持った。


すぐに馬車は走り出す。


街の中を進む馬車。


眉間にしわを寄せ、腕を組みながら窓の外を見ているレィルに

少女が話掛ける。


「そう緊張なさらないで」


「…………………。

 緊張なんかするか。俺は嘘も嫌いだが、負けるのも嫌いなんだ。

 ……自分の未熟さにハラが立つ」


「あらまあお可愛らしいこと。


 そういえばまだ名乗っていませんでしたわね、わたくしは…」


「ザッハトルテ。セントティアラ屈指の大手ギルド

 ロリータコルセティアのギルドマスター、だろ。


 少なくとも、この都市にいる人間で

 あんたの名を知らねえヤツはいねえよ」


「まあ、それは光栄ですわ」


「残りの二人はギルメンって事か」


「ええ、こっちがメイ、手綱を持っているのがイド。

 ギルメンでもありますが、この二人はわたくしの私的なメイドと

 思って頂いた方が適当ですわね」


「私的なメイド?メイとイドで合わせてメイドってか。


 わかりやすいのはいいが……お前らそれでいいのかよ……」


ザッハトルテの隣にいるメイが応える。


「いえ、私たちは現実でもまど……

 いえザッハお嬢様にお仕えするメイドですから。

 このアカウントも、お嬢様のお世話をするために作ったもので…」


「ちょっとメイ。

 あまり迂闊に現実の話を持ち出さないようにと言っておいたでしょう。

 それにあなた今、わたくしの本名を言おうとしましたわね」


「も、申し訳ございませんお嬢様……」


「いいえ、許しません。

 ログアウトしたらお尻百叩きですわよ」


「そ、それだけはご勘弁を…。もう手が痛くて…」


 (お前が叩くのかよ!


 …それにしても現実でメイドとは恐れ入る。

 TSOでもロリータコルセティアの財力が半端ないというのは聞いたが

 リアルの金が物を言ってるっつうのもあり得る話だな)


「…で?俺も一応名乗ったほうがいいのか?」


「いえ、その必要はありませんわ。レィルさん」


「………………………。

 あらかじめ目を付けられてたって事か。気持ちのいい話じゃねえな」


「アナタ今日だけではなく、ほぼ毎日のように

 この近辺で、他プレイヤーとトラブルを起こしておいででしょう?


 そんな事を続けていれば、嫌でも悪目立ちするものでしてよ」


「………………フン」


更にしばらく走った後、馬車は西洋風の大きな門を通過する。

その中の広大な敷地はすべてギルドの私有地となっており、

手入れの行き届いた、優美な庭園風景が続く

さらに進むと、貴族の別荘という雰囲気、三階建ての巨大な洋館が姿を現した。


その洋館の中央、大きなドアの前で馬車は止まった。

面々は馬車を降りる。


「これがあんたらの拠点ってわけか。随分と金かかってんなあ。


 で?こんなとこに俺を連れ込んでどうする気だよ?

 ギルドの厄介事かなにかでも押し付けようって腹か?」


「メイ、イド、レィルさんが逃げないように、両脇を固めておきなさい」


「はい、お嬢様」


「ったく……、んなことしなくても逃げねえっての」


ザッハトルテは一人、洋館の入り口を僅かに開け、中の様子を覗き見ている。


「いいですわ、さすがに夜も遅いこの時間、誰の姿も見えませんわ。

 さあ、今のうちに入りますわよ!」


「っておいおい…。ギルマスが拠点に入る態度じゃねえだろそれ…。

 泥棒じゃねえんだから……」


呆れ顔のレィルを連れ、面々は洋館の中へと入っていった。

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