第17話隠れた才能5


ノリコの店から少し離れた広場、

まだ午前中ながら、冒険者たちの姿もちらほらと見える。


そこにアーヤたち六人の姿もあった。


常連客の一人、大柄な戦士が話し出す。


「よし、これでパーティー設定は完了だ。


 そういえば自己紹介をまだしていなかったな。

 あまり時間の余裕もない、簡単にさせてもらおう。


 俺の名はゴサク。

 見ての通りかもしれないが、壁役の重戦士だ。

 敵の攻撃は、前線で俺が一手に引き受けさせてもらう、そしてこいつが」


「あ、どうもオガワっす。

 ゴサクのアニキとは同じギルドでやってます。

 シーフやってますんで、ちょろちょろ動いて相手を牽制したり、

 まあ時々攻撃したり、そんな感じっす」


「こう見えてこいつもそこそこやる男でな。

 俺たち二人、足手まといにはならないだろう。よろしく」


「えっと、私はアーヤです。よろしくお願いします」


アーヤは深々と礼をする。


「あんまりダンジョン攻略とかは慣れてないもので、

 お役に立てるとしたら鑑定とかアイテム使用とかだと思いますが、

 皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。


 それと 改めて皆さん、

 今回は私的なトラブルに巻き込んでしまって…本当にすみません」


「何言ってるの、水臭いよアーヤ。

 私もあのお店にお世話になってるし、なくなったりなんかしたら困るもん。


 あ、ちなみに私はキリエ。

 魔法職で、回復補助をメインにやってるから。

 結構この辺のダンジョンなら問題ないぐらいのレベルだけど、

 遠方でどの程度通用するか、ちょっと試してみないとって感じ。

 でも、まあまあ役に立てるとは思う」


「……では私も一応。


 私は小町といいます。先ほども言いましたが、豊穣商連の者です。

 魔法職で、攻撃をメインにやっています。

 都市近隣以外のダンジョンも経験がありますので、あしからず」


「……最後はボクだね!


 ボクの名前はプラチナ。

 一応剣士をやってて、タイプは…オールラウンダーかな。

 魔法もちょっと使えるから、時々で使い分けてく感じ。よろしく!」


全員の自己紹介が終わったところで小町がプラチナに問いかける。


「それはいいとして、プラチナさん、

 こんなところに私たちを集めてどうするつもりですか?

 先ほど言っていた、移動手段とは一体?」


「ここは都市のど真ん中だぞ。何に乗るにしてもだ

 門までは歩く必要があると思うのだが?」


ゴサクも疑問を口にする。

アーヤやキリエも腑に落ちない表情だ。


「ふふーん。

 ところがどっこい、大丈夫なんだよなあ、ここで。


 さあさあ皆さん立ち合い、今呼ぶから括目してごらんあれ」


「……呼ぶ…?」


疑問が消えないメンバーを尻目に、

プラチナは広場の真ん中へ歩くと剣を抜き、空にかざした。


「ア、アイツ…なにやってんすかね?アニキ?」


「わからん…」


「アーヤ、あの人信用できるの?」


「う うん、いい人だよ…。……たぶん」


プラチナが瞳を閉じて詠唱する。


「天空に戯れし聖なる竜よ、我が聖竜剣の名の元に、いま汝を召喚せん

 この我の声が届くば、この場に姿を現せ!……出よ!聖竜!!」


ゴオオオオオォォォォ……


するとプラチナのはるか上空の雲が渦を巻き始め

その渦は次第に大きく成長していく。

その異変にパーティーメンバーはもとより、

周囲にいるプレイヤーたちも気が付き始める。


「なんだ?急に辺りが暗くなった?」


「お、おい!空見ろ!何だあの雲!?」


「ちょ、ちょっとアーヤ!何あれ!?」


「わ わかんない…」


次の瞬間、雲の渦から巨大な光の柱が地面まで一瞬にして伸びる。

その柱の中を下るように雲間から姿を見せたのは、

巨大な白い竜の姿だった。


ズウウウウゥゥゥン…!!


光の柱の中、土煙を上げ、巨大な竜が地面に降り立つ。

周囲にいるプレイヤーは全員、あまりの光景に言葉を失くしていた。


「………!!!!!」


「ド、ドラゴン…!?」


その中、プラチナは平然と竜の元へと歩いていく。


「どうよみんな!これでひとっ飛び!さあ、乗って!」


プラチナは竜の背面から上がり、背に乗った。


「…………」


アーヤは驚きのあまり声が出ない。


「……こここ……こっこっ……こっこっ……!?」


目を丸くする小町。


「うわでっか…!!乗れるのこれ!?うっそー!」


キリエは一人、目を輝かせている。


「アアアア、アニキ!モンスター!モンスターですぜ!」


「こりゃあ……驚いたな…こいつは…敵じゃあないのか?」


周囲にいるプレイヤーたちからもしきりに驚きの声が上がる。


「街中に竜!?しかもこんなでかい竜始めて見るぞ!!」


「モモ、モンスターだ!!!」


「まさか…来襲クエか!?」


「おい!やばいぞ!ここにいたらやられる!逃げろ!」


その様子を竜の上から見るプラチナ。


「あー…やっぱり街中でやったのは失敗だったかな…。


 みなさーーん!大丈夫でーーす!これはペットみたいなもので

 モンスターではありませーん!!」


プラチナが出す声も、混乱している人々の耳には入らない。

アーヤたちパーティー以外のプレイヤーは皆

散り散りに広場から逃げていく。


「まずいな~…

 あまり長くいると変に話が大きくなっちゃう。


 みんな!早く乗って!」


「ホント!?乗っていいのこれ!やった!」


キリエは真っ先に竜の背中へと駆け上がる。


「うわたっかーーーっ!すっごーーー!!」


竜の上で興奮気味だ。


 (キ、キリエちゃん……。すごいな……)


「ア、アニキ…!どうしやすか!?」


「いや、これは…乗れと言っているし…乗るしかないだろう…」


ゴサクとオガワも恐る恐る竜に近付いていく。


「……小町さん、行きましょう。キリエちゃんはもう乗ってるし

 大丈夫みたいですよ」


唖然と立ちすくむ小町にアーヤが話掛ける。


「……え!?乗る!?あれに!?

 なななななななな何を……バカな…!?!?」


小町の表情は引きつっている。


広場の周囲には、

騒ぎを聞きつけたプレイヤーが続々と集まりつつあった。


「アーヤ!小町さん!騒ぎになっちゃうから早く乗って!」


竜の上からキリエが声をあげる。


「ほ、ほら!行きますよ、小町さん!」


「ひ、ひいいいいぃぃぃ……!!!」


アーヤは小町の腕を引っ張り、半ば無理やり竜に乗せた。


「全員乗ったね!

 結構揺れるし風も凄いから、ちゃんとつかまってて。


 それじゃあ行くよ!ネビュロア山脈へ向け、出発~!」


プラチナの合図とともに、

白い竜は風を巻き上げ、空の彼方へと消えていった。






-------------


ネビュロア山脈の中腹あたり。

この山脈近辺は一年中強い風が吹き荒れており、

時には嵐時には吹雪。天候も極端に変わりやすい。

それに加え、強力なモンスターもしばしば出現し、

攻略を目指す冒険者にとって、非常に険しい道のりだった。


その地区を歩く一団。

屈強な戦士たちが山頂へ向け、歩を進めていた。


「ふう…そろそろ半分というところか」


「まだまだこれからだ。強力なモンスターの出現にも注意せねば。

 気を引き締めて行けよ」


「しかし、聞いていたよりもかなり過酷だな…。

 …こんなんじゃ山頂に着く前に回復剤が切れちまうぜ…


 ロープウェイでもあったら楽なんだかな」


「バカお前、そんなんあったら世界観が台無しだろうが」


「………おい、あれ…なんだ………?」


一団の中の一人が空を指さす。


「空見てみろよ、何か飛んでる!」


「あー?鳥かなんかだろ、どうせ」


「いや違う。かなりでかい。

 ………しかもこっちへ来るぞオイ!!」


「………まじか!?」


一団全員が空を見上げる。

今日は快晴。雲一つない空を割り、

何らかの物体が山脈へめがけ飛んでくるのが見える。


それが近づくにつれ、だんだんと造形が見えてくる。


「おいあれ………まさか!」


「ドラゴンだ!!」


「ドラゴンだって!?ちくしょう!なんでそんなもんが!」


「やべーぞ!完全にこっちへ向かってきてる!!」


それはさらに近づいてくる。みるみるうちに大きくなり

凄まじいスピードで飛行しているのがわかった。


「ドラゴンには勝てねえ!!」


「に、逃げろ…!」


ゴオオオオオォォォォォ…!!!!


一団が慌てふためく中、竜は凄まじい轟音、凄まじい暴風と共に

一団の頭上数メートルのところ通過、

そのまま山の斜面に沿って頂上の方へと飛んで行った。


辺りには静寂が残る。


「………………」


「………………」


「…………助かった…のか?」


面々が顔を上げる。


「…………。山頂のほうに行かなかったか?アレ」


「………………」


「………………」


「うん。えーと、なんか……………………

 ……今日は降りよっかな?」





ネビュロア山脈の山頂、

ダンジョンの入り口付近に巨大な白い竜の姿はあった。


背から真っ先に降りてきたのはプラチナ。


「はーい到着!ね、言ったでしょ?いい乗り物があるって」


腰に手を当てドヤ顔だ。

それに続き、パーティーの面々も降りてくる。

皆よろつき、足取りがおぼつかない。


「死ぬかと思った……」


ゴサクが青ざめた顔で声を漏らす。


「アニキ…俺たち、生きてんすかね?」


「たぶんな…。

 誰も振り落とされなかったのが奇跡としか言いようがない……」


「あー面白かったー!!

 ね、アーヤ見た?めっちゃ景色すごかったよねえ!

 いいなあ、私もこれ欲しいなあ!」


キリエは竜を手でバンバンと叩く。


「キ、キリエちゃん…。あんまり叩かないほうが…。

 キリエちゃん、元気だね…」


「あれ?どうしたの?あ、絶叫マシンとかダメなタイプ?」


「絶叫マシンの比じゃなかったような…」


一人テンションの高いキリエをぐったりとした表情で見るアーヤ。


「あれ?そういえば小町さんは?」


キリエが見ると、小町はまだ竜の上、力の限りしがみついていた。

目を固く閉じ、何やら必死でつぶやいている。


「小町さーん!もうつきましたよ!」




しばしの休憩後、やっと平静を取り戻した面々。


「プ プラチナさん…。あなた一体何者なんですか!?

 あの竜をどこで?」


小町が尋ねる。


「まあ、そんなたいしたことじゃないよ。

 剣についてた付録みたいなものかな?」


「付録って……」


「それよりも、せっかく時間短縮できたんだからさ

 早いとこここに入っちゃおうよ」


見ればダンジョンの入り口が大きく口を開けている。

洞窟のようでもあり、

所々人の手が加えられた石づくりの門のようでもある。


「時間にしてものの一時間足らず……。

 まさか本当にこんな短時間で来られるなんて…」


小町は未だ、狐につままれたような表情だ。



「とりあえず落ち着いたな、みんな」


ゴサクが声を出し、仕切り直す。


「ここの中は分かれ道も多く、出現するモンスターも強力という話だ。

 被害なく進むこのは簡単な事ではないだろうが、

 せめて離れ離れにだけはならないよう、

 固まって行動することを心がけるんだ」


皆、その声に頷く。

アーヤとキリエも目を見合わせる。


「よし、じゃあ行くぞ」


一行はダンジョンの中へと足を踏み入れていったのだった。




ダンジョンの中は広い空間、床や壁が平らに形取られ、

タイル壁のような作りになっており

洞窟というよりも、古代の遺跡という雰囲気を醸し出す。


所々にクリスタルのようなものが発光しており、

それがダンジョン内部を怪しく照らしていた。


「これ、何すかねぇ?もしかしておたからじゃ?」


そう言ってオガワはクリスタルに手を伸ばすが


「いででででででででで…!!!」


次の瞬間、電撃系のダメージを受け、尻もちをついた。


「そうそう。ここは分かれ道も多いけど、トラップも多いから。

 ちなみに、そこらじゅうにあるクリスタル晶石は電撃トラップだから

 絶対触らないようにね」


プラチナが落ち着いて話す。


「そそそ、そういうことはもっと早く言ってくれぇ!!」


「お前ががめついからそういう目にあうんだぞ」


「ア、アニキィ…」



広いダンジョン内を周囲に気を配りつつゆっくりと進んでいく。


「ちょっと待って…!」


ゴサクと共に先頭を歩いていたプラチナが止まり、メンバーを制止した。


「どうしたんだ?」


「言ったでしょ、ここはトラップが多いって。この床を見て」


床を見れば、

床の色がある場所を境にして微妙ながらも色が変わっていた。


「これがそのトラップというわけか」


「そう。前回は苦戦させられちゃったけどね、

 そうそう何度もトラップに引っかかるほど、ボクも馬鹿じゃないから」


「でも、ここを通らないと先へ進めませんよ」


後方からアーヤが話す。


「まあ見てなさいって」


そう言うとプラチナは、アイテムボックスから小瓶を取り出した。

中には緑色の液体が入っている。

おもむろに瓶のふたを開け、色が変わっている床にその液体を振りまいた。

するとたちまちに液体が作用

床の所々に、×印の赤い光が浮かび上がった。


「おお、これは!」


「まあこんな事もあろうと思ってね、

 ちゃんとトラップ感知アイテムを持ってきてたの」


「なかなかやりますね」


小町の声にプラチナはドヤ顔だ。


「じゃあ行くよみんな、ボクについてきてね!」


そう言うとプラチナが×印の浮かび上がっている部分に第一歩を踏み出した。


床のタイルはそのまま少し押し下がる、

周囲には岩が動くような大きい音が鳴り出した。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「…あれ?」


次の瞬間、プラチナの足場が崩れ、一瞬にして穴と化した。

落とし穴トラップだ。穴は深く、底が見えない。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


プラチナは単身、その穴へと真っ逆さまに飲み込まれていった。


「………………」


「………………」


「………………」


その様子を無言で眺める他のメンバー。


「プラチナさん……」


「何故×印が安全な場所だと思ったんだ……。普通逆だろう…」


「ど、どうするの?」


キリエがメンバーを見渡す。


「この穴、どこかに繋がってるんでしょうか?」


アーヤの問いに小町が応える。


「……わかりません。

 ダンジョン内のどこかに繋がってる場合もあれば、

 ダメージトラップという事も考えられます。

 経験者であればその辺りもわかったかもしれませんが…」


「その経験者とやらはたった今、

 真っ先に奈落に飲み込まれていったがな」


ゴサクは呆れ顔だ。


「連絡は取れませんか?」


「…………駄目ですね。

 パーティーコールはこのダンジョン内は遮断されているみたいです」


「…………仕方がない。

 幸いまだ通れる道は残っているし、

 トラップ検知の薬剤の効果もまだ続いている。

 ヤツには悪いが、一旦ヤツのことは忘れ、ここは俺たちだけで進む」


ゴサクの案に小町も同意する。


「それが最善でしょう。我々にはあまり時間もない。

 運が良ければ、道中で合流できる可能性もあります」


「プラチナさん…無事だといいけど…」


「大丈夫だよ………たぶん」


アーヤとキリエは落とし穴の中を不安げに見つめる。


「あれだけまかせろー、とか言っときながら真っ先に離脱っすか。

 アイツもすげえんだかアホなんだか、わけわかんねぇヤツっすね」


オガワも穴をのぞき込む。


一行は地面に浮かび上がった×印を避け、

そのゾーンから先へと進んでいった。

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