10. 五十猛、マクロ撮影する
それから自室に戻ると、マニュアルを片手にZX300をいじってみることにしたんだ。まずモードダイヤルをPからMにする。PはプログラムオートでMはマニュアル露出。
「マニュアルモードで露出補正ボタンを押すと、絞りとシャッタースピードが切り替わる、と」
部屋の中で適当な小物がないか探す。ちょうど本棚に信楽焼の狸が置いてある。
プログラムオートだと、絞りとシャッタースピードの既定の組み合わせがあって、測光に合わせて最適な露出を自動的に設定してくれる。
マニュアルオートだと絞りもシャッタースピードも自分で決める。電子ダイヤルを回すと、絞りのパラメーターが変化していく。任意の絞りに合わせたら、今度はシャッタースピードを設定する。ヒストグラムを確認しながら、絞りに合わせたシャッタースピードを探っていく。
「あ、これで適正露出なんだ」
普通のカメラだと露出計が表示されていて、+、0、-と目盛りが表示されるのだけど、ZX300はもっと視覚的で、ヒストグラムの色が白から黄色に変わる。これで適正露出になったという合図なんだ。
狸にフォーカスを合わせてシャッターを切る。今回はオートフォーカスだけど、マニュアルフォーカスも可能。
シャッターが切られて、背面液晶にオートレビューが表示される。写った狸は少し手ぶれしていた。シャッタースピードは1/10秒。
うーん、と唸る。絞り開放でも室内で撮影する分には暗いということなのだけど、何かいい方法がないかマニュアルをめくって考える。
「あ、そうか。ISO感度をオートハイにすればいいのか」
ZX300の場合、ISOオートだと、感度をできるだけ低く維持するように動作するようだ。オートハイなら適度にISO感度を上げてシャッタースピードが稼げるように設定してくれる。画質は多少ざらつくけれど、手ぶれしてまともに撮れないよりはマシか。
今度は内蔵ストロボをポップアップさせて撮る。室内が一瞬光ると、信楽焼の狸がきれいに撮れている。ただ、光沢も強調されていてやや不自然かもしれない。
※
翌朝は早起きして外出。雑草が生い茂ったところでお目当ての花を探す。オオイヌノフグリ。青くて小さな花だけど、なぜ大きな犬のキ○タマと呼ばれているのか不明。
しゃがんで、背面のバリアングル液晶をかぱっと左側に開き、斜めに傾ける。これで楽な姿勢で花に寄れる。
何枚か撮って気づく。そうそう、マクロモードがあったんだ。フォーカスをマクロモードに切り替える。これでもっと近くまで寄れる。
もう一つの草花はカラスノエンドウ。僕らはピイピイ豆と呼んでいる。何枚か撮って確認する。一応、うまく撮れている。
と、そこでジャージ姿の久手さんとすれ違った。久手さんは朝のジョギング中。
「あ、お早うございます」
「お前も早いな」
「元陸上部でしたっけ。毎朝走ってるんですね」
運動不足になり易い浪人生活。そんな中でも久手さんは一日のスケジュール通りきっちりと行動している。簡単なようでいて、中々真似できないだろう。
「俺は七十歳まで現役続けるつもりだからな」
「さすが」
実際、久手さんが言うと説得力が違う。
そうそう、久手さんにカメラの背面液晶を向ける。
「オオイヌノフグリです」
「コンデジは接写に強いからな」
「ですね。ところでコウちゃん……多伎さんは?」
慌てて言い換える。人前でコウちゃんは止そう。
「あいつは徹夜して寝てる」
「勉強してるんですか? あの人」
「それは俺にも分からん」
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