01「……という小説を書きました

「……と、いうような話を書いたんですけど」

 いつもの放課後。いつものKB部の部室。

 大学ノートをじいっと眺めて、腕組みをしている部長が、どう言うのかを、僕はドキドキしながら待っていた。

 この部の正式名称は「軽文部」という。小説を書く部だ。

 小説を書くといっても、プロ小説家を目指しているとか、どこかに発表するとか、そんなスゴイことはやらない。ぜんぜんない。

 皆で書いて、皆で読む。ただそれだけ。それが軽文部――略してKB部の部活動だった。

 いまノートは部長の手を離れて、つぎの紫音さんのもとに行っている。

 隣ではキララさんが手をわきわきとやって、準備運動をやっている。

 恵ちゃんはお茶の準備。紅茶マニアの恵ちゃんはお茶を振る舞うのが趣味である。

「うー……、むー……」

「どうですか? 部長?」

 読み終わったあと、ずっと腕組みをしたままの部長に、そう聞いた。

「まず聞くのだが」

 部長は腕組みをほどくと、そう言った。

「はいなんでしょう。なんでも聞いてくださいよ」

「なぜこの話は、4ページきりなのだ?」

「だって長いの書くの、めんどうじゃないですか」

「なんだと! キサマ! もういっぺん言ってみろ! 小説道をなんだと――!」

 怒られそうなので、京夜は素早く言い直すことにした。

「ああ。えっとじゃあ。軽くするためってことで」

「じゃあってなんだ! じゃあって!」

「うち。軽文部ですよね。ライトノベル部ですよね。ライトノベルって、軽い小説、で、いいんですよね?」

 自分はライトノベルを読まないが、だいたい、そんな感じだと理解している。

「ライトノベルじゃなくて、ラノベだがな」

 それ。なにが違うんだろう。――地雷を踏み抜きそうだから、聞かないけども。

「なら四ページで終わる短い小説は、読みやすくて、軽い小説ってことで、いいじゃないですかー。ラノベじゃないですかー」

「なにか詭弁に聞こえるんだが」

「じゃあ。読者のためですよ。短いほうが読むの楽じゃないですか」

「だから、〝じゃあ〟ってなんなのだ! フマジメだ! けしからん!」

「長さとかそんなどうでもいいところじゃなくて、内容のほうで、なんか言ってくださいよー。僕。部長が読んでいるあいだ。これでもけっこう、内心ガクブルだったんですけど」

「では、私がいちばん気になった点を言うことにするが……」

「はい。どこでしょう? なんでしょう?」

 身を乗り出して、そう聞いた。部長はちっちゃいが、小説力に関しては凄い人。

「……なぜ? キャラが、私ら、そのまんまなんだ?」

「部長。前に言ってたじゃないですか。キャラが作れないのなら、身近な人物をモデルにせよ! ――って」

「モデルにしろとは確かに言ったが……。そのまま出せとは言ってない。それにだな……、これは……、うーむ……」

「あれ? だめでした? 似てませんでした?」

「いや……。なんか本物そのままだったが。……特にシイの腹黒策士っぷりとかな」

「ああ。よかったですー。皇先輩の親友である部長が言うなら、バッチリですよねー」

「ううんっ……。私もいま読み終わったところなんだけど」

 紫音さんが咳払いをひとつして、そう言った。

「まず言いたいのが――。私はこれほど悪女ではないということで――」

「――いいや。腹黒だ。冷血だ。悪い美人だ。間違いない。キョロの写し取りは完璧だ」

「まあ……。真央がそう言うのであれば、他人の主観にとやかく口を出す気はないけれど。でも一つだけリクエストをしたいところだね」

「はい。なんでしょう?」

 しぱっと、紫音さんのほうを向く。

 リクエスト。どんどん言ってほしい。

 みんなのためだけに書いているのだから。

「〝皇先輩〟ではなく、〝紫音さん〟――と、そう呼んで欲しいところだね。こちらの現実世界のほうでも。そうしたらすべてを許そうじゃないか。どうかな? この取引は? 下級生のキミを弄ぶ悪女としては、及第点を貰えると思うのだけど?」

「えっ……?」

 僕は固まった。

 たしかに小説の中と、心の中では「紫音さん」と呼んでいたけど……。

 リアルでやるんですかー? ……なんか気恥ずかしいですよー?

「はーい。紅茶が入りましたよー」

 恵ちゃんがお茶を運んできた。ティー・ブレイクに救われた。

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