第34話 もう一度
「……」
その時を待ったが、体に感じるはずの衝撃はいつまでも来ない。代わりに聞こえてきたのは、女の子の泣き声と、車のドアの開閉音。
「大丈夫ですか!?」
間近で聞こえてきた声に、腕を下ろし顔を上げると、心配そうに覗きこんでいる中年の男性がいた。
見ると、男性のすぐ後ろに止められた車がある。ブレーキがギリギリ間に合ったらしい。
「……あ、ああ」
まさか助かると思っていなく、急激に身体中から力が抜けていった。
自分が無事なことを確認すると、俺はハッとして手元を見る。瑠実に渡すはずのプレゼントがない。辺りを見回すと、道路に投げ出されたワインレッドの袋を見つけた。
駆け寄ろうと立ち上がった時、胸の辺りでシャリッと何かが擦れる音がする。
不思議に思い、ワイシャツの上のボタンを外して胸元を見てみると、見慣れないシルバーリングがあった。
「何だ、これ……?」
チェーンに通してある、その指輪は割れていた。
自分の首にかけているのに、その指輪が何なのか思い出そうとしても、なぜか思い出せない。
「いや、そんなことより……」
早く時の広場に戻らないと、瑠実が待っているかもしれない。
「行かないと」
俺は割れた指輪を通したチェーンを首から外してコ-トに仕舞うと、ワインレッドの袋を手に、再び時の広場に向かって戻り始めた。
相変わらず雪が降り、夜の闇の中に白く灯っている。
駅前の広場に着くと、カウントダウンが迫っているからか、先程よりも、さらに人が増えていた。周囲を見回したが、瑠実の姿は見えない。
瑠実から連絡が来ていないか、コ-トの中からスマホを取り出した。
「……っ」
電池が切れたらしく、画面が真っ暗だ。
時計塔を見上げると、時刻はもう11時に近い。俺は広場の花壇の縁に腰かけた。周りから聞こえてくるざわめきは、どこか遠い。
(瑠実……)
きっと、これで過去は変わった。
無事だよな?
また会えるよな?
ここのところ寝れていなかったことと、さっきの死ぬかもしれない緊張感から一気に解放されたのとで、いつの間にか、うとうとと眠りに落ちていった。
微睡みの中、重ねた腕の下に、木の机の感触を感じる。
寒い外にいたはずなのに、なぜか辺りが暖かい。
うっすらと開けた瞳の端に、写真立てのような物が映った。
ぼやけた視界に、写真の中の誰かが見える。
(誰だ……?)
もっとよく見ようと、さらに瞳を開けかけた、その時。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます