三日しか
目を開けたら、見慣れた天井があった。
魔王城の医務室のベッド……ここに連れてこられたのは最早数えきれないほどだ。
起き上がろうとすると、わき腹の方に重さを感じた。
視線を移すと、そこにはマリアが眠っていた。
「ずっと看病してくれてたのよ。部下冥利に尽きるんじゃない?」
魔法医カーラのニヤニヤ顔が、妙に目障りだ。
「そもそも……わき腹が痛いんだけどな!? そこに寝るとかどういう神経をしておられるのかなこの魔王様は」
「はいはい、おつおつ」
くっ……
「状況は?」
「ゼルカスは不死身だから、一日治療すればもう治った。シルヴァはそんなに重傷じゃなかったしね。あなたは三日三晩死の淵をさまよっての生還ってわけ」
「……じゃあ、一通り状況は安定したわけか」
そう言って、マリアの表情を眺める。
「なに、その熱い視線。本当はなにかあったんじゃないの?」
そんな風に見えるようならばこの女の目は腐っている。
「……ん」
げっ! 起きた。
「……ガトさん? 本当に……ガトさんですか!?」
「他に……俺に似たそっくりさんがいるんですか?」
つい憎まれ口を叩いてしまうのは、一種の気恥ずかしさからなのか。
自分が生きている……それだけで喜んでくれる存在が目の前にいることに少しの戸惑いじみたものを感じる。
「ううっ……ガトさんガトさんガトさんガトさーんっ!」
痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛っ!
「ちょ……まっ……」
そんな俺のうめき声は気にせず、問答無用で抱きしめてくれるお優しい魔王様……って痛いっつーの。
「……グスン……グスン……よかった……本当に……」
こんな時に、どうしていいかもよくわからない。
それから、マリアが泣き止むのに二時間かかった。
「泣き止みましたか?」
こんな時、どうしていいかわからない。
「……はい、取り乱してごめんなさい」
やっと落ち着きを取り戻したマリア。
「魔力の方は?」
先日の件で、覚醒したのではないかと密かに期待を抱いてみる。
「それが……てんで」
なんて極端な小娘だろうか。まったく役に立たないか、凄く迷惑をかけることしかできないのか。
「あの、ガトさん……ありがとうございました」
恥ずかしそうに、マリアが言う。
「何がですか?」
「……嬉しかった、あんな言葉をかけてくれて。出会って三日なのに」
「いや、あれは……なんていうか」
慌てて言い訳をしようとする。あの時は、どうかしてて――
「あんなにわたしのことをわかってくれてたなんて。出会って三日なのに」
「……」
「凄く大事に思ってくれていること……伝わりました。出会って三日なのに」
あああああっ! 後悔してるよ心の奥底からっ!
ってか、三日三日うるせぇよ!
「でも、いい加減懲りたでしょう」
「いえ……私は同じことを言いつづけます。例え、唾を吐きかけられるほど軽蔑されても。例え刃を突きつけられたとしても。どんなに不快でどんなに憎まれても私は……それを受け入れます。それが、私なんですから」
そう、マリアはまっすぐに俺を見据える。
「……」
「それでも……ガトさんがそれを認められないというのなら……あなたが私の首を斬り落としてください」
マリアは目を静かに瞑った。
「……ああ……頭痛い」
「だ、大丈夫ですか!? どこか痛めましたか? すぐに治療を――」
「……頼むから、少し黙っていて貰えませんか?」
この頭痛は、当分なくなりそうにない。
END
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