画策

【魔将 シルヴァ】


 大陸北部のサイサレクレアの村。人間を片腕で持ち上げている最中、使者から報を受け取った。


「魔王交代……」


 これは……どう分析すべきか……まずは、どのような魔王であるか見なければ答えは出ないか。しかし面白くなってきたものだ。


「はぁっ!」


 一瞬で持ち上げている人間を氷漬けにした。

 その氷の反射から己の表情が見て取れる。その鋭く射抜くような眼光、雪のように白い肌。そして己の綺麗すぎる顔を隠すために施された戦化粧。堕森精種フォーリンエルフと呼ばれ、エルフであった己と決別して二〇年の時が経った。


 ダークエルフとは違い純粋なエルフでありながら、エルフを裏切り魔族に属した奇特な者は歴史上でも俺だけだろう。


 自然と、自身の表情に笑みが浮かぶ。


 退屈だった。それを恐れてエルフを捨てたはずなのに、五覇将として、いつのまにか安定してしまっている現状はあまりに平和でつまらない。やることと言えば、反逆を画策する魔族や軟弱な人間どもを殺すことぐらいだ。


 そもそもこんな想いを抱いているのは、自分だけなのだろうか。思わず血が沸き立つような危機もない。そんな平和で退屈な日々の生活に、飽きることも、嫌気がさすことも無いのだろうか。そんな毎日に物足りなさを感じてしまうのは自分だけで、自分だけがおかしいというのだろうか。


 俺はもう、飽きた。この変わらない平凡な人間たちの村も、寝そべって側近に吐く愚痴も。


 熱が欲しい……もっと自分を狂気に曝し、灼熱が身を包むような感情に任せてこの大陸を駆けることができたなら。


 しかし、魔王陣営にはその一部の隙すらなかった。魔王レジストリアの強大な魔力に加え、宰相ガサラナトレアの智謀、統率。何度も反逆をシミュレートしたが、成功することはなかった。


 魔王レジストリアの強大な魔力は己の矮小さを思い知らされた。己の力では一生追いつけないであろう者を目にした瞬間、智謀、戦略を駆使して陥落させようと心に決めた。


 五覇将の戦力を結集し、魔王に叛意を向けんと画策したことがあるが若き宰相ガトによって事前に潰された。その出来事は未だ屈辱として心に刻まれている。

 当初、ただの魔王の酔狂かと思った若手宰相の起用は魔族の領地を飛躍的に拡げる結果となった。


 中でも大勇者ゼノバースを破った『アラスーロ大橋の戦い』は、不覚にもその卓越した戦術眼に見惚れてしまった。曲者集う五覇将をまるで手足のように見事に使い、人間の軍勢をことごとく撃破。それを遠隔で行いながら自身は魔王レジストリアと共にアラスーロ大橋で奇襲を決行。見事、大勇者ゼノバースの首を取った。


 この一戦で、魔王レジストリアの地位は盤石となり俺のやってきた工作がすべて水泡に帰した瞬間だった。


 己よりずっと年下である宰相にしてやられたその屈辱は、今でも消えぬ傷痕として心に刻まれている。


「魔王城へ行く!」


 そう部下たちに宣言し、魔騎兵に乗り奔り出した。





             

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