第11話 新たに。
少ない荷物はあっと言う間にまとめられ、引っ越しの挨拶もそこそこに馬車へ乗せられたノータは生まれ育った港町を離れることになった。
辛くなるからと、父さんの物を全て置いていくことに決めた母さんの目を盗んで、手に触れたものを鷲掴みにし自分のリュックに突っ込む。
いつもそこにあるのが当たり前だった街の建物が、どんどん後ろに流れて小さくなってゆく。街はずれを抜けてしばらくすると、緩やかな坂道に入った。
初めての道、初めの景色を最初は興味深そうに荷台から眺めていたが、やがて飽き、リュックの中を見ようとするとそこへパピが顔を突っ込んできた。
「パビ、だめだよ、くすぐったいよパピ」
リュックから顔を出したパピが、勢いのままノータの膝に飛び乗り頬をペロリ。
千切れんばかりに尾を振るパピが「遊ぼうよ!」の仕草で狭い荷台の中を荷物を踏みながら行ったり来たりしている。
「よーし、パピおいで!」
胸に飛び込んできたパピをつかまえてはくるっと仰向けに、跳ね起きて飛び込んで来るパピをまた仰向けに、という単純な遊びは何度も続いていた。
不意に幌の布がめくられ、機嫌の良さそうな母さんが顔を出す。
「楽しそうねノータ、新しいおうちの周りには、森や沢があるって聞いたわ、パピが自由に遊べるから喜ぶわよ」
「……うん」
それしか言えなかった。母さんには、私が楽しそうに見えるのだろうか。楽しさなんかこれっぽっちも、どこにもないって言うのに!
それでも、少し気持ちを落ち着けてから、広々とした森の中や沢の周りを一緒に散歩するパピの様子を考えることは、悪い気分ではなかった。
街の石畳の中で暮らしてきたパピは喜ぶだろうか、それともびっくりするだろうか。
まん丸い瞳を更にまん丸くするパピの顔を思い浮かべると、ちょっとだけ愉快な気分にもなれた。
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