13:オムライス

 ぼっちにだってメリットはある。大学の昼休み、友達と食べるために、数名分の席を取る必要がないのだ。高校と違って、大学では一人ご飯をしている人は珍しくない。混み合う大学の食堂、あたしは難なく空いた席を見つけ、オムライスを口に運ぶ。ここの食堂のオムライスは、ケチャップソースとデミグラスソースが選べるのが特徴だ。今回はデミグラスにした。卵のふわとろな舌触りが絶妙で、さすがオートメーションで作られた料理だけある。手作りだとこんな風にはできないだろう。


(帰ったらすぐご飯食べて、今日は制限ギリギリまでプレイするぞ!)


 席を探してさまよう学生たちを一瞥しつつ、帰宅後のお楽しみについて考える。友達とのお喋りなんて必要ない。あたしには、LLOがあるのだから。アップデート完了予定時刻は、今日の夕方五時。あたしが帰れるのは早くて六時になる。本当は、完了直後にログインしたいのだが、それで授業をさぼるほどあたしは愚かではない。アクシデントでも起きない限り、あたしはきちんと授業に出るのだ。……そう、昨日みたいに、トイレから出られないなんていうアクシデントさえ、なければ。


「例の雑誌、手に入れたよ~!」

「マジで!?すごいじゃん!」


 横のテーブルで、女の子四人組が騒いでいる。一人がブランド物のカバンから取り出したのは、普通の女性ファッション誌。実はあたしも、買ったことがある雑誌だ。載っている服は、自分が着ても可愛くないと断定し、真似をすることはなかったが。ああいうのはモデルが着ているからこそ可愛く見えるのだ。女の子はせわしなくページをめくる。


「えっとね……これ!」

「ホントだ!槙田くんだ!」


 その言葉に、スプーンを落としそうになる。槙田くんとは、絶対にあの槙田くんだろう。横目でそちらを見るが、彼女たちの体に隠れてページは見えない。なぜ、女性誌に載っているんだ。あたしの期待に沿うかのように、女の子の一人が内容を読み上げる。


「槙田幸也くん18才、大学一年生。今日のファッションのポイントは、古着屋で見つけたストライプのシャツ。好きな女の子のファッションは、キレイ目。彼女にしたいタイプは、元気で明るい子!」


 古い記憶の中から、雑誌のコーナーを思い出す。確か、巻末の方に、ボーイズスケッチか何かの名前で、カッコいい男の子を載せていたのだと思う。メンズ雑誌のストリートスナップに時々載っていると聞いたことはあったが、女性誌にまで進出したか。


「やっぱりカッコいいよね」

「笑顔がさわやかでさ~」

「コメントも飾らない感じがして素敵!」


 ページを盗み見しようとするが、あまり大きなアクションはできない。ガン飛ばされても困る。あたしは残りわずかになったオムライスに視線を戻す。耳は、彼女らの方を向けたまま。


「ていうか、槙田くんがフリーって本当?」

「らしいよ。先輩の友達が言ってたって」

「それじゃあ狙っちゃおうかな~」

「ムリムリ!槙田くんって、女の子には滅多にID教えないらしいよ」


 え、そうなの?と、つい口に出しそうになった。あたしには、いとも簡単に教えてくれたけど……まあ、それは課題のためだから、当然か。実際、課題のこと以外で槙田くんとメールをしたことはない。それに、あたしは多分「女の子」とは思われていない。グループの人数合わせで呼ばれただけの、クラスメイトだ。そうでもなかったら、あたしが彼と会話をすることなんて無かっただろう。あたしは野暮ったいし、ブランド物も似合わない。足だって太いし、横の四人組のように、シフォンのスカートや膝上のショートパンツなんてはけない。

 それにしても、あれほど容姿のいい人に恋人がいないなんて、不思議だ。性格も良く、リーダーシップもとれる。友達も多い。ファッション誌に載るくらいなのだから、モデルとも交友がありそうだ。隠しているだけで、実は彼女がいるのだろう。


「まあ、あたしなんかじゃ無理だよね~」

「だいたい、あんなイケメンに釣り合う女の子ってどんな子よ?」

「槙田くんと同じくらいのオーラがなきゃ、彼女になっても恥ずかしいよね」


 槙田くんの話題が終わったので、あたしはオムライスを平らげて、さっさと食堂を出る。他の子が食べ終わるのを待たなくてもいいなんて、やっぱりぼっちは最高だ、なんて思いながら。

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