A Short Time Ago

PURIN

The golden rope

塔の周りを一周してみた。

やはり、出入り口はてっぺん付近にあるあの小さな窓だけのようだ。


僕は軽く息を吸い込んだ。そして。

「―お前の髪を下ろしておくれ」

さっき見かけたおばあさんと同じように、その呪文を唱えてみた。

心臓がやけにドキドキいっていた。


あのおばあさんのときと同じように、すぐにそれは高い高いところにある窓からスルスルと下りてきた。

光を反射して、きれいな黄金に輝く長い長いロープ。

今まで見たどんな宝石よりも、ずっとずっとキラキラしていた。

僕は上ることも忘れて、しばし見とれた。

こんなにロープを美しいと思ったのははじめてだった。


ふいに雲が出てきて、輝きがかげり、我に返った。

ああ…いけない、いけない。これを上るために下ろしてもらったんだった。

僕はロープをぎゅっと握りしめ、上り始めた。


ロープだけでもこんなに素敵なんだから、あの窓の中にはもっと素敵なものがたくさんあるに違いない。

部屋中が金でできているのかもしれないし、見たことのない装飾品があるのかもしれない。

たとえ部屋の中が空っぽだったとしても、外の景色を眺めて楽しむことはできるだろう。あれだけの高さなら遠くの方まで見渡せるに違いない。


早く見たい。早く見たい。

ワクワクしながら、僕は上り続けた。



半分ほど上ったところで、ふと思った。

そう言えばこれ、ロープにしては触感がなめらかすぎるような…

一旦手足を止め、よく見てみた。

やっと気付いた。

僕が今上っているのは、金色のロープではなく、金色の髪の毛だった。

細く長いたくさんの髪の毛が束ねられて、1本の長い長いロープのようになっていたんだ。

ただの呪文だと思って気にしてなかった。本当に髪だったんだ。


急に怖くなった。

もしも、これがなにかの罠だったら?

もしも、この髪が化け物かなにかにつながっていたら?


下りてしまおうか。今ならまだ大丈夫なはずだ。

手足を、上がってきたときと反対に動かすだけで下りられる。

下りて城に帰ってしまえば、怖い目にあうこともない。

いつも通りの日常に帰れる。

下りてしまおうか。


だけど。

知りたい。この美しい髪がなんなのか。この塔には誰がいるのか。中で何が行なわれているのか。

分かってる。きっと良いことだとは限らない。酷いことだったり、恐ろしいことだったりするかもしれない。

でも、怖いことが待っていてもいい。知りたい。せっかく出会ったんだから。

だから、僕は上り続けた。

ひたすら手足を動かして、ゆっくり、ゆっくり窓に近づいた。

ついに、窓枠に手をかけた。

そうして、窓の中を覗き込んで…



僕の「運命」に出会ったのは、その直後のことだった。

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