第2話 今、現在‐莉緒side‐

「ボーカル、KUROCA。」

ライブが終わって恒例のメンバー紹介。最後のメンバーは我らがボーカル、黒華だ。


「今日は遊びに来てくれてありがとうございました。最高の夜になりましたか?」

ライブハウス内に歓声が響く。


「では、今後とも我ら、『Black Circus』をよろしくお願いします。」


終わりの挨拶と一礼。それで幕は下りるのだ。



この頃は、終わりの挨拶は黒華がしめていた。そのとき彼女が見せる笑顔(クスッと微笑む程度の)は、ファンのみんなや私達メンバーにとってもレア物だった。少なくともその笑みを見るためにライブに来る人もいたのではないだろうか。それくらい黒華はあまり笑う質ではなかった。



でも、今はそうじゃない。

笑うようになった訳じゃない。今、ボーカルをしているのも、ライブの終わりの挨拶をしているのも、私。

黒華は…………そう、どこかへ行ってしまった。



これは突然の出来事だった。

ある日、外では雨の降る絶賛梅雨時の日のことだった。

ライブの終わり、私は演奏中に気にかかったことを黒華に言った。

「黒華、最近調子悪くない?気のせい?」

ただ、声が以前よりあまり出てないように感じたとのことだった。気のせいかもしれないって思うくらい微々たる差だったけど。


「え……。」

はっきりと言って、黒華はとても驚いていたように感じた。初めて見る表情だった。


「ごめん。でも、もう大丈夫だから。」

「なら、いいけど…。」


何がどう大丈夫なのか分からなかったが、あえて聞かなかった。自分でなんとかするんだろうなと思ったからだ。



次の日、黒華は姿を消した。私達に一通の手紙を残して。


『少し遠出することにした。悪いんだけどその間、Black Circusをよろしく。気長に待ってて。』


「…………は?」


案の定、黒華はそれから一度も帰らなかった。

国際空港でヨーロッパ行きの便に乗っていくのがカメラに写っていたとか。

なんにせよ、黒華はいない。日本にすら。

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