第12話

「どうぞ。簡単な地図です。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございます〜!姐さんも、お元気で!」

茶屋の姐さんは恥ずかしそうにヒノエから目を逸らして告げた。ヒノエは下駄を穿き、酔いの回った法師さまに靴を履かせてから荷物共々引きずるようにして茶屋を出る。


地図に書かれた場所まで、さほど距離が無かった事は救いだった。慣れないホテルの構造に戸惑いつつも、何とかかんとか部屋へたどり着く事が出来た。

「ふぅ……いい加減重たいぞテメェ!」

部屋のベッドに近づき、引きずっていた法師さまをベッドに投げ飛ばす。バフッ!と音を立て、柔らかそうなベッドが大きく揺れる。「はふんっ」などとよくわからない声を上げた法師さまを乱暴に寝かしつけ、ヒノエはソファに二人分の荷物を降ろしてから、部屋のドアの鍵をかけた。ついでに室内の設備を確認する。風呂もトイレも付いており、簡易湯沸かし器とカップ麺とミネラルウオーターのボトルが二つずつ。茶器まで置いてある。

「ちっさい旅館そのものだな。法師さまが起きるまで、風呂でものんびり入ろうか……と、その前に」

思い出したようにヒノエは法師さまの足元から靴を脱がし、ベッドの下に揃えて置いてから、二人までならギリギリ入れそうな風呂場に行き、蛇口を捻って湯をはる。

湯をはっている間、じっとしていられないヒノエはバスタオルを発掘したり、クローゼットにハンガーを見つけたり、テレビのスイッチを入れて思いの外大きかった画面に驚いてすぐに切ったりしていた。


「お風呂が、わきました」


「おわっ!?」

電子音が告げる。その音に、ヒノエはホテルの中で一番驚き、法師さまの事など言えないような素っ頓狂な声を上げた。

「風呂かー、びっくりするじゃないか、もうっ」

機械的な声を理解し、胸を撫で下ろして、ヒノエは着物を脱いだ。脱いだ着物は少し考えてから畳み、帯や腰紐や足袋などと一緒にソファの脇に置く。鼻唄まじりにスキップでもしそうな機嫌の良さで、独り風呂に入る。

湯船の脇の壁面に、見慣れないパネル。ヒノエは興味本位でパネルのスイッチを押してみた。浴室の照明が暗くなったかと思えば、湯の色が七色に光るようキラキラと照明が点滅し出す。

「すげー!面白い!何これ初めて見た!」


ヒノエが独り風呂場ではしゃいでいる頃、ベッドの上の法師さまは目を覚まし、ゆっくり起き上がる。辺りを見渡して場所をすぐに把握し、服を脱いでからはしゃぐヒノエの声のする浴室へ向かっていった。


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