第24話 国防省コンピュータ部門

萌美さんは、これまでのことを話し始めた。


国防省コンピュータ部門。萌美のしごとは、ジャーナリストやマスコミの人間たちの動きをパソコンでチェックをすることだった。

パソコンでチェックする人間は、5人のみ。全て政府幹部の子息で固められているのだという。


「ちょっと待って」僕は質問をした。

「ジャーナリストやマスコミの数だって、何万人かいるよね。そんな数どうやってチェックするんだい」

「ああ、そうね。全員を一人ずつ目で追うことは難しいわね」


萌美さんの話によると、勤務時間外で5人以上ジャーナリストたちが集まっている場合、コンピュータが自動的に「要チェック」とコンピュータ部門のメンバーに知らせるのだという。


「てことは、僕たちは毎月10人で集まっていたから…」

「そうね、あなた達は、もう去年の8月の段階であなた達は要チェックリストに入っていたわね」


彼らに埋め込まれたICチップはこちらの想像以上に国の監視に用いられていたのだ。

地下室は動揺に包まれ、騒然と鳴った。中には手のひらを見つめる人、テーブルを叩く人がいた。


「で、私は9月からカフェに足を運んでいたわ。毎月集まる日は、最終週の火曜日。その日には必ず足を運んだ」

「え、萌美さん。私はたいていカフェにいたけど、あなたを見た覚えはないわ」

しずくさんは、不安が入り混じった顔で言った。


「ふふ」萌美さんは、少し笑いながら言った。

「毎回変装をしていたからね。あるときは、女子高生、ある時はOL風、それに学ランで来たこともあったわね。スーツもあるわよ。私たち国防省メンバーは、男性の声でも女性の声でも話せるように声帯手術を受けているの」

萌美さんは、「こんなふうにね」とまさに男性の低い声で話をした。


ーああ、もう最初からお手上げ状態だったのだ。

みんな同じ思いだったのか、メンバーたちはみんながっくりと肩を落としていた。


初めてカフェに来た日、萌美は、女子高生の姿でドアのすぐ横の隅の席を確保した。全体を見通すためだ。誰も見落としてはいけない。小型カメラをはめ込んだ小説を読むふりをしながら監視を続けた。


3時間後、何人かが地下に入っていった。

萌美は、となりでスマホゲームをしていたサラリーマン風の男性に声をかけた。


「このお店って、地下に入ることができるのかしら?」

「ああ、地下はあるみたいだね。でも、僕たちは入ったことがないね」

「じゃあ、今入った人たちは?」

「うーん、なんだかよくわからないね。まあ、こんなに景色が素晴らしいカフェなのに、地下に行くメリットはないしね」

「確かにそうよね、ありがとう」

萌美さんは、スマホを開いた。地下に人が降りて行く度に、ジャーナリストたちがここに集まっている様子がコンピュータ部門の監視サイトから確認できる。


「公然と開いているカフェで、まさかジャーナリストたちが密談をしているなんてよもや誰も想像しないもんね。その安心感を利用して、堂々と地下で会議をするなんて、やるわよね」

萌美さんは、感心をした顔で私たちを見ている。決して見下した感じではない。大げさかもしれないが、尊敬の念すら感じた。


「萌美さん、その話他のメンバーにしたのかい?」

僕は、勇気を出して聞いた。

ーどうか、どうか他の誰にも伝わっていませんように。


「したわよ。当たり前じゃない」

「あ〜」みんな一斉に同じ声をあげた。


「で、僕たちはどうなるの?」

「ちょっと待ってよ。この話、続きがあるから」

そう言って、続きを話し始めた。


萌美さんは、国防相に僕のカフェが怪しい旨の報告書を提出した。

「この報告書で早くリーダーに出世したい」彼女はそう望んでいた。

コンピュータ部門の5人は、全く仲が良くなかった。政治家の子息というDNAのせいか、もともとの素質なのか、お互いがお互いの足を引っ張り合って、自分たちが政府に認められることしか考えていなかったのだという。


「そもそも、私の他にもう一人メンバーが事実認定をしてくれなければ、この報告は有効にならないの。だから私には相棒が必要だった。しかし誰もなってくれなかった」

ということで、この報告書は無効となってしまった。


「うわあ、僕たち首の皮一枚のところで助かったというわけかっ!」

思わず、大きな声をあげてしまった。


「そうね。ホント、私たちのメンバーはクソだからね!」

萌美さんは思い出したのか、腹立たしい感情をむき出しにした。


「それでも、私はずっと調査を続けたの。そしてついに盗聴に成功したわ。それが先月の会議よ。それに書類のスキャンもしていた。これらの証拠があれば、さすがに誰か証人になってくれるに違いない。お互いに手柄を折半することを持ちかけるつもりで板の」

「うわ、そんなことされたら、僕たちは終わりだ!」

「だから、そうだって言ったじゃないのよ」


本当に自分が思っていた以上にかなり危険な状態にあったのだ。もう恐怖で寒気しかしない。


「でもね、盗聴内容を聞いていくうちに、涙が出てきた。私たち国防省メンバーは目先のエリート街道のことしか考えていない。本気で国を良くしようと思っているのはいったいどっちなんだって。

 国防省に入ったばかりの時の私の正義は一体どこにいっちゃったんだって。会議が終わる頃には、すっかりもう私は今の仕事がアホらしくなっていたわ」


ーなるほど、そうだったのか。僕たちが正義を貫くことで、自らの命を守ったということなのか…。


「あなたたちがキッチンでいちゃついている間に、カサカサとしゃがみながら歩いて、地下に潜入させていただきましたよーだ」

と、萌美さんはいたずらっ子のようにあっかんべ~のポーズをした。


「イチャついてねえぞ!」

「もう!」

僕としずくさんは、顔を真っ赤にした。少なくとも僕は、しずくさんと二人っきりということで妙に意識をしてしまった。それで周りが見えなくなったのだ。


「私は、そこで情報をスキャンした。それらをニュースサイトにハッキングをさせてもらったわ。みなさんも知っているでしょう。大騒ぎになったし」

「ああ、もう驚くしかなかった。でもあれのおかげで、政府に疑惑の目を向ける人も増えてきた。それには感謝しているよ」

メンバーたちは、萌美さんに拍手をした。


「あら、ありがとう」とぶりっ子ポーズをする萌美さん…。


「でもね、あなたたち、まだ危険なのよ」

「ええ〜!」

ーこれで解決じゃなかったのかよっ!








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