オマジナイ

 あなたの左腕を枕にして眠る。この時間が大好き。重いかなって思うから、先にスースーって寝息をたててくれたら、少しほっとする。

 左腕をそっと私の頭の下から外して、二人の間に収めて抱きしめた。重たかったでしょ?ありがと。今日も左腕に言った。

 くっつくためにちょっと邪魔になった自分の右手を枕の下に入れたとき、何かがちくっとした。枕の下に冷たい小さい、金属?

 枕の下から右手を出して、あなたの左腕を抱きしめた。そのまま眠る。一生懸命眠る。


 土曜なのにバンドのミーティングがあると出かけたあなたを見送ったあと、そっと枕を取った。昨夜の冷たい感触の正体を見たい。見たくない。見たい。

 枕の下には、Uピン?長い髪を留めるのに使うんだよね。私は上手に使えないんだ。頭に刺してしまう。確か、ねこっ毛も無理なんだよね?あなたも無理だね。そもそも髪をアップにしないよね?ちょっと使われたあとがある。少しだけ片側が撓ってる。


 子供のころにおばあちゃんが教えてくれた。怖い夢を見たくなければ、枕の下に鋏を入れればいいって。怖い夢を断ち切ってくれるって。ピンだとどんな夢を見せてくれるんだろう。そんなオマジナイなんだよね。

 枕の下からUピンを取ってキッチンに行く。燃えないゴミだよね。シンクにあったビールの缶の中にUピンを入れた。燃えないゴミを置いているベランダに持って行こうと思ったら、カラカラと音がする。ベッドに座って振ってみた。カラカラ。ビールの缶の中は湿ってなかったのかな?カラカラ。その音を聞きながら胸が苦しくなる。いったいどんなオマジナイなんだろう?いったい誰にもらったピンなんだろう?Uピンを着けてるヘビメタの人なんて、見たことないよ。

 缶を振るのを止めても、頭の中に音が残ってる。カラカラ。

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