第8話 初めての連携

 最初のスライムに遭遇してから、再度壁伝いを歩き続け、気が付けばだいぶ時間がたっていた。一度、角を曲がっているが、本当に広い。二度目の角がうっすらと見え始め、二人がそろそろ不安になりかけた時だった。


 ・・・いた。今度も初めに気が付いたのは、エミリアだった。


「あっ!」


 しかもそれは二匹だった。先ほどと同じように、壁沿いを這う様に蠢いている。


「に、二匹。(ゴクリ)」


 嫌悪感も二倍になったスライムを前に、イサベラは何とか平常心を踏みとどめた。同時に荊の鞭ソーンウィップのために身構えたエミリアを制止する。


「待ってエミリア。歩き方の本には、『複数のスライムは一匹が倒されると残りは逃げる』って書いてあったよ。先に一匹だけ攻撃したら、あれも意外と早いから、もう一匹に逃げられちゃうかも。ここはうまくやれば、二匹同時ゲットのチャンスだって。」


「じゃあ、同時に攻撃してみる?でもくっつきすぎて狙いにくいわね。片方だけに全部当たっちゃうと、さっきみたいにコアも弾けちゃうかもしれないし・・・。」


骸犬スカルドッグを使ってみよ?多分、向こう側から、わたし達のほうへ追い立てる感じで攻撃させれば、こっちにくるもう一匹を荊の鞭ソーンウィップでやれると思う。」


「・・・そうね、温存っていったけど、せっかくもらったんだし、ここが使いどころかもね。よし!やっちゃって!」


「い、いくわよ。」


 イサベラは鞄から特殊加工された骨を取り出した。


骸犬スカルドッグ召還!」


 魔法の発動と同時に骨を床へ投げると、骨はパキパキと形を変え、大型犬の骨格が出来上がり、眼窩から見える頭蓋の奥には、鬼火と同じ青白い光が宿っていた。


「お願い!スライムを攻撃して!」


 攻撃命令とともに、攻撃の具体的なイメージがアンデットに伝わり、骸犬スカルドッグは回り込むようにカラカラとスライムへと走り出す!


 骸犬チョキによるスライムパーの蹂躙が始まる。


 無生物アンデットであることを早々に感知したのか、骸犬スカルドッグが近づくや否や、二匹のスライムは逃げ出したが、一匹は逃げ切れずに成すすべなくコアを喰いちぎられる。


 が、逃げ延びたもう一匹は、計算どおりイサベラたちのほうへ向かって来た。


「来たよ!」


「わかってる!荊の鞭ソーンウィップ!」


 狙い澄ましたエミリアの荊の鞭ソーンウィップはスライムを弾き飛ばし、壁に激突して崩れていった。すぐさまエミリアは駆け寄り、コアが無事か確認する。


 ・・・あった。半透明の眼球のようなスライムのコアが、粘液にまみれてまだ少しぴくつきながら転がっていた。


「やった!やったわ!もう一個は?!」


 イサベラたちのほうへ骸犬スカルドッグがカラカラと尻尾を振りながら駆け寄ってくる。イサベラの前まで来ると、口に咥えていたものをそっと足元に置いた。


 スライムのコアだった。


 イサベラはそれを慎重に手に取ると、エミリアの方へぱっと振り向いた。その顔は紅潮し、感極まったように唇は震えている。


 エミリアが両手を広げて飛んでくると、細いイサベラの体をぎゅっと抱きしめる。イサベラの顔はさらに紅潮し、嬉しさのあまりカチンコチンになった。よかったねイサベラ。


「二個よ!二個!すごい!やったわ!私達やったわ!」


「うん、・・・うん、二個だよ。・・・やったよ。」


「みせて!」


 二人は握っていたスライムのコアを確認するかのようにお互いに見せ合った。白い半透明のそれは、歩き方てびきしょの挿絵にも描いてあった、まごうことなきスライムのコアだ。記念すべき、初実践における初の戦利品だった。


「あと一個!いやー思ったとおり、簡単なクエストだったわね。」


 エミリアは早くも有頂天だ。ホクホクとコアを入れるために、鞄から小さな皮袋を取り出すと、コアを入れようとした。


 ・・・油断。


 ぬめりのあるスライムのコアはエミリアの手からつるりと滑り落ちた。


「あ、っと!やだ!」


 さらに悪いことに、落ちる前につかもうとして、はじいてしまい、意外と弾力のあるコアは、ポンポンと壁伝いに隅の方へ転がっていく。


「っっっっ~~~~~~!!!!!」


 エミリアは言葉にならない悲鳴を上げて、追いかけようとしたが、イサベラがエミリアのローブを唐突に引っ張る。


「離して!なんなのよ!」


「う、うえ・・・」


「はあ?うえぇ?」


 エミリアが、イサベラの恐るおそる指をさす方を見ると、隅に近い柱の上に何かがへばり付いている。スライムではない。


「ひっ!」


 エミリアはその異様に思わず、上ずった声を出してしまった。うっすらと鬼火灯の照らす、ごつごつとした赤い甲羅。そしてそこから生えた鋭い足とハサミ。


 それは巨大なかにだった。


 <現在クエスト進行度:スライムの核コア獲得数=2(-1?)>

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