王子駅(JR線、南北線)

 今でこそ東京23区の一つ、北区にある王子であるが、江戸の昔は江戸郊外という扱いになる。

 江戸市中からは少し遠く、当時は王子村と呼ばれていた。

 村の中心には江戸市中から続く日光御成街道にっこうおなりかいどうが通っていて、将軍が日光東照宮を参詣する際に通る街道となっていた。


 この王子にある飛鳥山あすかやまも桜の名所として江戸の庶民には馴染みの場所で、ここの桜も八代将軍吉宗が植えさせたもの。

 寛永寺の項でも述べたが、あちらは徳川将軍家の菩提寺であるから、花見の為に庶民が飲めや歌えやの大騒ぎは出来ない。

 しかし、こちらの飛鳥山であれば時間を気にせず飲んで騒いでといった事が許されるので、花見のシーズンになると飛鳥山の方が賑わったかもしれない。


 飛鳥山とは川を隔てた台地には王子稲荷が鎮座する。

 稲荷社であるから御祭神は当然、宇迦之御魂神うかのみたまのかみ

 この王子稲荷社は関八州稲荷の総元締めであるから非常に由緒ある稲荷社という事になる。

 毎年、十二月晦日の晩には関東八ヶ国の狐がこのお社近くにある装束榎の下に集まって装束を改め、正月の挨拶に王子稲荷を訪れるという伝承があり、その晩には夥しい数の狐火が見られたという。

 また、この地の百姓たちは狐火で田畑の豊凶を占ったと言われる。

 この王子の狐火の噂はかなり広く流布していた様で、幕府の役人も調査に訪れたという記録が残っている程だ。

 関東でも有名な稲荷社であったし、当時は庶民の間で稲荷信仰も盛んであったから、歌川広重の『名所江戸百景』など、浮世絵にも王子稲荷が描かれている事が多い。多くの人が親しみを持っていた事の証しであろう。



 飛鳥山と王子稲荷の間を流れる川は瀧野川たきのがわ。別名、音無川おとなしがわとも呼ばれ、ここは現在の石神井川しゃくじいがわである。

 広重の『東都名所・王子瀧の川』には瀧野川の紅葉が描かれており、行楽に訪れている人々の姿も見られる。

 春、そして秋と庶民の行楽地としては人気があったのだろう。


 この花を折るなだろう石碑見る


 飛鳥山山頂の石碑には由来を述べた長々とした漢文が刻まれているが、なかなかに難読で意味を解す事の出来る人も少なかろう。

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