第28話 Hawk’s Eye

 痛みで目が覚めた…。

 冷たい床が、腫れた顔に心地いい…。

 しばらく…ボーッと辺りを見回し…ヨロヨロと立ち上がる。

水晶みあ…」

 ドアはロックされて開く様子は無い。


 中央の水槽にイルカがタケルを見つめている、視線に気づいたタケルが水槽に近づいていく…。

「セカンド…と呼んでいいのか?水晶アンタを助けに行く…力を貸せよ…」

 マザーは何も答えない…。

「なぁ…ここから出してくれよ…知恵でも!力でもいいから貸せよ!」

 タケルは水槽を力いっぱい拳で叩きつける。

 強化ガラスに鈍い音が響き…拳に痛みが走る。

「クソッ!…クソッ…」

 水槽を背もたれにして、へたり込み床に拳を叩き続ける…。


 タケルの背中に軽い振動が伝わる。

 振り向いて水槽に目を向ける。

 紫水晶がピシッ…ピキッ…と音を立てて、ひび割れ水槽の底に沈んでいく…。

 ガラッ…ゴトンと欠片は大きくなり『セカンド』の身体を露わにしていく。

 イルカがその背に仰向けに『セカンド』を乗せてタケルの前に運ぶ。

「サード…あの娘の欠片…」


「私の話を聞きなさい…サード…」


「私は…長い間、本当に長い間漂っていました…なぜ自分が漂っているかも忘れてしまうほど…産まれて間もない銀河…小さな惑星ほしの話をしましょう…」


 意志ある生命が存在する環境は稀有…その大半は原始的な生命を産み自分の維持管理をさせる…この惑星もそうだった…。

 私が降り立った時も、広大な海に原始的な生物が漂うだけの惑星だった。

(ここでいいな…)

 ふとそんな気分になって、荒れ狂う海に自身を溶け込ませた…。

 自殺…そんな気分だったと思う…。

 溶けだした私は四散し…やがて産まれた生命に寄生していった。

 ヒトはその成れの果て…薄まった私の意識は時折ヒトの意識と混ざりあい漂い始めることがあった…生きたい欲求が重なったとき私の一部は再び身体を欲した。

 気付けば…その足は大地を踏みつけ立っていた…。


 私は『個』としての自我を感じ…『生』に執着した。

 身体を移し替えて時を過ごし…あるとき、恋をして、子を宿した…。

 身体を移し替えなかった…初めての子供…。

 自分の替えの身体ではない…自分の分身。


 その子供を奪われた…。

『神の子』として育てられた私の子供…普通の子だった…。

 奇跡は造られた…あの女の知識から…チープなトリックを奇跡の偉業と偽り、私の子を『神』に仕立てた…神の母として軟禁され私は身体を捨てた。

「神の子…キリスト…」

 タケルは呟いた自分の言葉に背筋がゾクリと凍えた…。


 Hawk’s Eye…『古代エジプトでは「真実を見通す」石との言い伝えから、天空と太陽の神「ホルス」にたとえられ、崇められてきた。石言葉は知識』

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