第13話 トーナメント戦


「ねぇ、アル。」


「んー?」


アームズ武器工房の帰り道、スキュアはアルの可能性を語りかける。


「アルのさっきの一撃、私でも避けきれるか分からない。」


「は?そんな訳ないだろ?お前は世界一強いんだぞ?」


「確かに無理をすれば避ける自信はある。でも余裕はない。その位の斬撃だったよ。」


ただしアレはそうポンポン放てるような一撃では無い。視界をモノクロームの世界に変えるほどの集中力を持つアルでさえ十回に一度くらいしか放てないような、剣の道において究極の斬撃だった。


「アルの能力があれば十分引きつけてから使えると思うよ。アルの受け流す盾のような剣技とあの最速の剣は私でも真似出来ない。」


「…俺は少しくらい強くなれたってこと?」


「うん。アルは強いよ。さっきの一撃を一日一回だけでいい。確実に使えるようになればアルは1対1なら私以外の誰にも負けない。」


「じゃあ早速……」


「ダメだよ。言っておくけどアルは今、半死半生の状態。無茶したら間違いなく死んじゃうよ。」


アルは今歩いているという事が奇跡と言える程の大怪我を負っている。戦闘なんて以ての外だ。全力では一振りが限界だろう。しかしアルから言わせれば一振りなら出来る。


「アルさーん、スキュアさーん!」


「ん?ティアさん。どうしたの?」


「コレ出ます?2名ですけどパーティですし!」


ティアから手渡された紙にはこう記されていた。


"最強の冒険者を決めろ!冒険者総力戦開催!"(各パーティから2名まで出場可能)


「………いや出ねぇよ。」


「ええっ!?スキュアさんがいるのに!?」


鈍色の英剣はスキュアがいることで優勝は確定していると言ってもいい。しかしアルからすれば寄り道だ。そんなことをしている暇はない。


「アル、優勝賞品はギルド本部から特別報酬らしいよ。2位は500万。」


「トーナメントは何日だ?」


それを聞いて手を平を返す。何故なら優勝賞品でミーナを強奪した際の助けになってもらうからだ。貴族は人からものを奪うが奪われることは何より嫌うのだ。


「1ヶ月後です!アルさんはもちろん出ないですよね?」


「…治れば出る。」


全治3年と診断されたのだが僅か1ヶ月前。普通に考えて治るはずがない……が、そんな死にかけた男が僅か1ヶ月で歩き回り、剣を振ったのだからもしかしたら、と思ってしまう。


「ティア。二人分登録よろしくね。」


「はーい……二人分?」


ハッとしてアルをコイツ出るつもりだ、と言う医師を込めて見る。するとアルはニヤッと笑い去っていった。


「普通出場します…?あの人実は化け物じゃないの?」



あれから3週間が経過した。現在は深夜。そんな中アルはと言うと、モンスターと戦っていた。


「クソっ!動いてると集中が乱れる!」


アルの究極とも言える斬撃は相応の集中が必要とされる。当然、動く敵に放つそれとは難易度のレベルが段違いだ。しかし動かない敵などいない。アルは残りの1週間でこの壁を越えねばならない。




「止まってるように見えるし色も消えるんだが俺も止まってるみたいに遅いんだよ。いつもと違うって言うかさ。」


「……なら動かなくていい。」


「はい?動かなきゃ始まらないだろ?」


「向かって来た所で放てばいい。アレは後出しでも十分過ぎるほど疾い。」


アルの斬撃は速度だけで言うなら、スキュアの最速の技に次ぐ速度を有している。並の相手では瞳にすら映らない。


「なるほど…やってみるか。」


「それもいいけどアルはまだ自分の持つ固有能力も属性も知らないよね?」


「何それ?知らないぞ、俺。」


スキュアならば固有能力は怒れる雷ソル・ムジョルニア。よって属性は雷となる。基本的には固有能力によって属性が分かれるのだが、稀にどれにも属さない無属性を有する者もいる。


「それどこで分かるんだ?」


「ギルドで調べれば分かるよ。行こ。」



「えっ?今更ですか???」


ティアは驚いたのか、呆れたのか。そんな表情をしていた。それもその筈。固有能力は15歳を境に判明するのだが、誰しも自分の能力は早く知りたいものだ。しかしアルはその時、1人黙々と剣を振っていた。


「…ああ。どーやって調べるんだ?」


「簡単です。この紙に触れるだけ。これは能力書ステータスと呼ばれています。原理は知りませんけどね?」


「へぇ…じゃ、早速──。」


アルが能力書ステータスに触れて数秒、じわりと文字が浮かび上がり、紙の色が変化していく。


アルゼーレ=シュナイザー


固有技能

戦理眼パルティード・ヴィジョン

月影


固有能力

威風ヴァン・ルドラ


属性:風


「固有技能を2つも!?凄いじゃないですか!」


「なんだそれ?」


「固有技能を備えている冒険者さんは少ないんです!なぜなら固有能力があるからです!ほとんどの人は能力を研磨はしても技能面を疎かにしがちですので!」


若干興奮しているティアからアルを離しつつスキュアは落ち着かせる。


「ティア。しっかり説明してあげて。」


「はっ!?これは失礼しました。えーとアルさんは風属性ですね。この属性は速度や手数の多い攻撃と相性がいいです。Sランクの方になれば宙に浮ける人なんかもいますよ。」


「なるほど…これはアレを完成させてくれそうだ。」


「アレ?」


「ああ、いやこっちの話。ありがとうな。」



そして大会前夜──。


「はっはっはっ!とりあえず形にはなったな!」


アルの目の前には異常なほど太く巨大な大樹。高笑いの後、指先でチョンと触れるとその大樹はズズズ…とズレる。そして多量の砂埃を巻き上げて倒れ伏せた。美しく真っ二つに割れた大樹がその威力を物語っている。


「あとはこれが通用するかだな…。」

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