蛙の色合いの境界線 -香鳴裕人詩集Ⅲ-

香鳴裕人

どちらでやられてしまいたいか



何の足しにもならない命の削ぎ落とし方で

夕間暮れに残った光を窓越しに見やれば

百鬼夜行がひそむ四畳半に

積み上がった嘘で溺れることを

是認できるような気になる

とっくに足の踏み場もねぇや

手みやげ片手にやって来たきみが

ここで服を脱ぐってぶんには

何の支障もないけれど

それにしたって焦りがちで

ベッドが置いてあるのは隣だよ


空想のうえで飼っている蛙の群れに

また新顔が加わる

ピンク色の肌は取扱い注意

猛毒に満ちた体はしなやか

嘘の波間で誇らしげに

その目を

僕が言葉をいなす手際へ向けているのは

取るに足らない偶然だろう

ひと撫ですればあの世行き

触れられるものならば

うかつに歩くこともできないと

明白な嘘をついてやりたい


うねる嘘の渦の中でとりどりの蛙が色彩

半音階ずつで足の踏み場もないってのに

潰そうったってどうにもなりやしない

いくらだって歩けるってのはどういうことなんだ

きみがくつろぐぶんにも支障なく

寝ころんで雑誌を広げてもらってよくて

僕がいつ観念するかだけの話に成り果て

うねる渦は孤独の在り処のように思えても

きみが服を脱ぐべきなのは隣の部屋かさもなくば

暖房の届かない浴室の前で脱ぐのが寒いと言うなら

どうぞここで裸になってしまってもいいけれど

とりどりの蛙はきみに毒を吹きかけたりはしない

僕にしてもそれだけで欲情するほど初心うぶじゃない

けれどきみはたとえ着飾ってたって蛙どもの毒に

あるいは夕間暮れの百鬼夜行の色彩の混濁のぼんやりした色の境界線に

ないしは誠心の偽りが伴うとどのつまり愛と呼ぶしかないようなものの

毒かそれとも猛毒か事によれば毒に侵されるのだから

浴室で落とせない分は僕が舐め取るしかないのだけど

それは僕が毒を除きながら僕で汚すことに他ならないのだから

どちらでやられてしまいたいかという選択肢にしかなりようがなく

蛙に毒されたいなら手みやげの甲斐なく出ていけばもう手遅れで

そうでないなら僕は命を削ぎ落とすことをやめずに

どうせならと蛙の毒を拭うことをすっぱりと諦めてしまって

きみ自身の猛毒を舐める

いくらだって




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