9. 私の行く道

7話 待ってる

 店から出るとウロウロしているソウ君がいた。


「ソウ君?」


 なぜここにソウ君がいるのかはわからないけれど、そういうことは後に聞けばいい。


「友紀? 何か例の子から言われたのか?」

「ううん。ケジメをつけただけ」


 絵莉香さんとの決着がついた。やっぱりゆきになった理由はわからない。けど、モヤモヤとしていたものが晴れたようだった。


「それよりソウ君、絵莉香さんと会わなかった?」

「え?」


 斜め上を見て考えるソウ君。


「わからない。それらしき人はいたけど……」

「そっか。まあいいや。終わったんだし」


「友紀、いっしょに駅まで戻ろう」


 ソウ君は深く聞こうとはせず、落ち着いた声で提案した。


「うん。ありがとう」


 ソウ君の気遣いがうれしかった。二人でテクテクと歩く。


「ずっと黙っていたんだけれど、俺は……」


 ソウ君がふと足を止めた。淡々と話すことの多いソウ君にはめずらしく、口がもごもごしていた。


「さっきも言ったけれど、ありがとうね」


 私が柔らかな笑みを見せ、先んじて礼を改めて述べると、ソウ君の顔が一瞬、朱に染まった。な、なんだ?!

 ソウ君が一瞬、俯いた後、再び顔を上げた。


「俺と付き合ってくれないか」


 意を決したかのような口調で言ってきた。

 そのとき急行列車が通りすぎた。思ってもみない言葉が来たかと思うと、無粋ぶすいにも鉄の箱が走っている。列車が通りすぎるのを待ってから、「え?」と声を漏らした。


 なぜ、このタイミングなのだろう。


「俺ではだめか?」

「いや、そんなことないよ!」


 すぐさま頭を振って否定するが、いろんな意味で取られそうだ。

 沈黙し見つめてくるソウ君。人が見ていないかを気にしたけれど、幸いジロジロ見てくる物好きはいなかった。


「ありがとう。考えておくよ」


 少し微笑んだが、照れくささがあるのか少し俯いてしまう。


「返事が来ること、待ってるよ」


 駅のホームが見えてきた。ソウ君は手を振り、「塾があるから。また今度会おうぜ」と言って、小走りで駅に向かって行った。


***


 明くる日は日曜日。「ゆき」になってから丸一週間だけど、まるで半年分をいっぺんに過ごしたようだった。


 その日の午前中は、勉強に集中していた。小休憩を挟む度に、ソウ君のことが思い浮かび、窮地を助けてくれた岸野さんのことも頭に浮かぶ。……二人のこと、どう思っているのだろう?


 午後、気温のピークを迎える2~3時頃、私は如月きさらぎ神社へと向かった。散歩道になっているし、綾子さんとも会えるからだ。

 衣替えの季節を感じさせるほど、外もジメジメとしてきた。頭の中まで暗くなるのは好ましくないと思い、雑念を振り切ろうとした。


 一段一段昇る石段は、この間昇ったときより足取りが軽く感じられた。複雑な感情がまとわりついているが、決してネガティブ一色ではなく、温かな何かも感じていから……かもしれない。

 

 昇った先にはいつものように綾子さんがいた。彼女はニッコりと微笑んできた。

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