終章 表裏一体

8. 旧友との決着(土曜)

4話 予定

 リベラル研が終わり、私が自宅に帰ろうとしたとき、声をかけられた。ソウ君だった。

 塾あるんじゃないの? と聞いたが、途中までいっしょだからという理由で、いっしょに帰ることになった。

 仲はいいけれど、帰る時間はバラバラで、みんなは思い思いに帰っている。今週は二回目だからめずらしい。


「あのさ」


 きょうは工事が終わっているから、声がはっきりと聞こえた。「何?」と聞いた。


「……」


 黙り込むソウ君。いつもと様子が違う。


「どうしたの?」

「少なくとも、俺には問題ない」


 なんだろうか。胸の下で腕組みをしながら歩く。あっと思った。口がわずかに開いたが、声には出ていない。

 あの教室は渡り廊下を挟んで、リベラル研の廊下の向かい側にある。


「違うよ、そんなことじゃない」


 やや眉を引き寄せ、首を強く横に振って否定する。

 脈絡もない返答だったはずだけど、ソウ君は顔を見上げるだけで、おどろく様子を見せなかった。


「そっか」


 むしろ、ソウ君は安堵するように見えた。

 ソウ君の想いを察し、私の頬が熱くなるのを感じた。


「ゆき?」


 顔をあげるが、愛想笑いして誤魔化す。


「土曜のお昼ごろ、またカフェで待ち合わせしないか?」


 月一回程度だから連続二週はめずらしい。もしや……と思い当たる節があり、ソウ君を気づかれないようにジロジロと見る。


 だけどその日は、絵莉香さんがぶつけてきた日だった。行かないつもりだけど、何かが引っかかるから少し悩む。


「ちょっと考えさせて。先に予定が入っているから」

「まさか……?」


 もしかすると悟られたのだろうか。だけどソウ君を巻き込みたくないから黙るしかなかった。


***


 秋の文化祭のときは引退しているから、リベラル研では後輩たちの指導にあたっている。ふだんは「菅原先輩に教わると緊張する」と言われることがあるが、きょうは後輩たちの笑顔が多く、プロジェクトも着実に進んでいて、うれしい。


 部活にソウ君は来なかった。ソウ君だけでなく、麻奈さんもいなかった。

 ソウ君は塾で早く帰るか行けない日もあるが、麻奈さんは、試験期間以外は来ることが多い。校舎内ですれ違ったから、早退したのかもしれない。二人いないのはめずらしい。

 なんとなく、後輩から目を離し遠くを見る。私はぼうっとして気分を落ち着けかせた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る