3話 他愛のないお喋り

 ドールコーヒーの前には、ソウ君が立っていた。彼は携帯を持っていた。

「ソウ君」

 ぼくは声をかけた。

「よう、友紀」

 ソウ君は、携帯をリュックのポケットに入れた。

「今日も可愛いね。シンプルだけれど、俺は嫌いじゃない」

 か、可愛い?!

 少し複雑な気はするけれど、褒められたのは嬉しい。

「ありがとう」

 不自然な笑顔にならないように、気を付けながら微笑んだ。

「ところで、メニュー何にしようか?」

 ソウ君が、メニューが書かれた看板を、右手の人差し指で指した。


 お盆には、カフェラテが二つある。ソウ君はラテに口をつけた。ぼくもそれに続けた。

「勉強は順調かな?」

 ソウ君が切り出した。

「数学をどうにかしないと」

 基本的な事は理解できるのだけれど、積み重ねていくとだんだん難しくなる。

「そっか。俺は国語をどうにかしないとな」

 ソウ君の国語力に問題があるかは、会話をする感じでは分からない。

「俺は、小説読むの苦手なんだよね」

 本を読まないというのは聞いていた。だけど、科学の本とか、現代文化に対する考察の本とかを読んでいるというのは聞いていた。学術的な本を読んでいるものの、小説を読まないというのは嘘ではない。


「5番でお待ちの方」

 女性店員の声が聞こえた。どうやら、パンが出来上がったようだ。率先して受け取りに出ていった。ソウ君も席から浮き立ったが、ぼくの方が早かったから、彼は「悪いね」と言って席に再び座った。



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