第7話 普通の家ご飯

 「お待たせしました~」


 奥さんとご主人らしき人が一台ずつ、メイドさんがお茶を載せて押してくるようなワゴンをそれぞれ押してきた。


 「こちら主人の九十三(つくみ)英人(ひでと)です。私は妻の九十三(つくみ)真奈美(まなみ)です」


 「ご丁寧な挨拶痛み入ります。私は太細 亜夢(たさい あむ)と申します。本当はこちらから名乗るべき所を、お気遣いいただきありがとうございます」


 名乗るきっかけを失っていたので助かった。

 ご主人は162cmの私よりが10cm程背が高いので175cm前後で見た目年齢の割に高めな気がする。

 奥さんは私より少し低い位だから157cm位だろうか?

 二人とも中肉中背で、奥さんもご主人も少しスレンダーな感じ。

 奥さんの髪は地毛か染めたてで漆黒で癖毛の無い、ポニーテールより少し低めのチュールレースみたいなレースみたいな白い生地のゴムで一つ縛りで多分セミロング、ご主人は黒白半々の白髪交じりでソフトモヒカン。

 グレーのバンドカラーシャツに、ブラウンの多分綿でできた腰に巻くエプロンをしていた。


 「そんなに硬くならなくていいよ。この店も趣味でやってるようなもんだから」

 

 ご主人が、柔らかに微笑む。


 「私も主人の紹介をしなくちゃ~って思った後、自分の名前を言うのを忘れていたのに気づいたのよ。いい年下おばさんなのに駄目ね~」


 うふふというように奥さんが微笑んだ。


 「今日はね、スープカレーなの」

 名乗りを上げている間に、手伝いを申し入れる必要もなく、最初から一人前ずつトレーに料理がセットで載せられてきていた。

 スープカレー・コーンポタージュと・カイワレと胡瓜とシーチキンの中華風ドレッシングのかかったサラダ・ラッシー・レモン入りミネラルウォーターが載せられている。


 「匂いがお客様に漏れるから、普段はカレーが食べられないのよね。お口に合うと嬉しいわ」


 「このカレーは、珍しく妻が作ったものでね。普段はお客様にお出しした食材の余りでチャーハンとか、パスタとか簡単な物なんだよ。妻が作ったものを食べられるなんて君は運がいいよ」


 にかっと少年のように無邪気に笑うご主人。少し浅黒い肌によく似合う。

 

「ではいただきましょうか。遠慮なく食べてね」

 

 ほぼ三人同時に頂きますと手を合わせた。

 うちの実家、食事そのものは無頓着だったけど、礼儀作法に関してはきちんとしているかは微妙だけど、口うるさかった気がする。

 いつでもどこでも誰とでも、食事の時には頂きます。

 食べ終わったら、ごちそうさま。

 外食の時も食べ終わり、席を立って目の合った店員に向かい軽く会釈してご馳走様。

 昨今、給食だろうが、外食だろうが、金さえ払えば挨拶しないでいいという家では無く、私自身も実家で教えられたせいか自然とそうしてしまう。


 「亜夢ちゃんは、良いご両親の下で育ったみたいだね」

 「そうでしょうか?挨拶はそうかもしれませんね」

 「挨拶は人としての基本だよ。一朝一夕で身につくものじゃないから、案外他人は人を評価する判断材料にしているものだよ」


 考えた事もない事だが、年長者のいう事だから一理あるのだろう。

 うちの両親も食事以外は、きちんとしていたかもしれない。

 料理はどれも素朴で滋味溢れる、心身に染み渡る味がした。

  

 


 

 

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