第7話 こういうラブコメに要らない強さ

 葵は、みんなに大人気だった。

 戻ってきた葵に対して、気まづさを感じることなくみんながいろいろ質問していく。俺は、葵に対して、特に後ろめたさを感じる人間もさしていなかったことの証明を見ていた。葵も緊張はするが必要以上に気後れもしていない。

 事前の調査通り、葵がいじめられていたといったことは無かった。

 何の問題もなくみんなに好かれていて、尊敬を集めていた。誰かの嫉妬を買うということもない。ただ、完璧な状態でそこにあったのだ。

 放課後になっても葵は人気だった。新しく転校生でもやってきたかのようにみんなは扱った。隣のクラスから何人か来訪したり色々。

「おい、ちょっとお前来いよ」

「うえ? 俺?」

 葵は、捕まっていたから、特に何も声をかけることなく、声かけてきた男子生徒についていった。

 校舎裏に連れて行かれた際、タバコを吸っている生徒が二人溜まってた。俺が来るのを見ると、タバコを揉み消して立ち上がる。

 片方は、細い。もう片方は、そこそこにガタイが良い男子生徒で、無駄に胸元をはだけていた。後ろにいるのはそこまで背は高くなく、ピアスの穴が空いたモヒカンみたいな髪のやつ。名前は後ろにいるのが佐藤、ガタイがいいのが高倉、細いのが橘とか言ったか。二年の間でそこそこ有名な不良だった。

「何かで用すか?」

「小林とはどういう関係なんだよ」

 橘が言った。

「どういう関係って、プリント届けに行く係だったけど」

「なら、付き合ってるとかそういうんじゃないんだな」

 後ろにいた佐藤が言う。

「いや、全然」

「じゃあ、俺が行っても別に問題は無いって事なのか?」

「別に構わないけど、俺もあいつのこと好きだし、特に引く気もないっすよ。あとあんなん、見かけだけの良さで近寄ってもなんのいいこと無いよ」

「へぇ」

 空気が一気にざわつくのを感じた。三人で退路も塞がれた。どうしようかと思案する。とりあえず真後ろの佐藤を吹っ飛ばして逃げて、そのままお家に遁走するのが一番マシそうだなと判断する。

「太一。いた! 帰るよー!」

 後ろに葵が現れた。いなくなってから数分も経ってないのにここを探りあてて現れた。どちらこと言えば、三人より、葵の方が怖い。

「小林、俺たちは赤木に用があるんだよ。先帰ってろよ」

「太一! 不良にからまれてこれから戦闘シーンに突入する感じだね! 大丈夫! 私が助けてあげるから!」

「よせ!」

 主に佐藤と、橘と、高倉の命が危ない!

「そうはさせねーよ」

 佐藤が葵の前に歩いていく、佐藤が襟首を掴まれて膝蹴りを三発叩きこまれて崩れ落ちる。

「てめぇよくも!」

 佐藤がやられたことで橘が逆上して突撃する。これを綺麗に前蹴りで止めて拳のワンツーで倒す。

「太一は私が守る」

「ちょっ、ちょっと待て」

 高倉がうろたえる。

 そんなことはおかまいなしに高倉の目の前に拳をだし、ガードを正面に出させた瞬間に追い討ちのハイキック。まだ倒れないところを後ろ蹴りで鳩尾に踵を蹴り入れる。高倉が倒れた。

 セガールかよこいつ。

「帰ろう太一」

「ああ、うん」

 そのまま屍三つを超えていく。

「大体わかった気がする……」

 佐藤が、倒れながら呻くようにいった。

「そういうことだよ」

 顔が良いだけだったらどれだけ良かったことか……。

「太一、今私に都合の悪い事考えてない?」

「考えてない、考えてないですはい。スティーブンセガールみたいだなって思いました」

「それなに? セガールってなんですか! セガールって!」

「じゃあ、帰って見ますか? TSUTAYAに沈黙シリーズの何かはあるでしょ」

 脱力気味に答えると、ゆるゆると歩いて二人で学校を後にした。

 こうして葵の学校復帰一日目が終了した。

 帰る途中で暴走特急を買って、一緒に葵の家でみた。映画に葵は興奮していた様子だった。

「これが、私と?」

 終わって葵が聞いた。

「うん」

 そう答えた瞬間に俺を押し倒して、アームロックかけるのやめてほしい。

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