Episode28

夏休み後半、定休日。


イチコから新しい包丁をもらったので、早速キッチンで使ってみることにした。


夕方、ユズキと一緒に料理作り。


カオリがユズキと初めて会った日に約束した大事なイベントだ。


二人で楽しく調理して、笑って、たくさん料理を作った。ご飯は父も食卓に囲んで一緒に食べた。ユズキは普段大人びた性格をしているが、今日はいつになく顔をニコニコさせている。素直に可愛いと思う。何だか本当に弟ができた気分だった。


ただ、カオリには一つ気がかりなことがある。


ユズキの老成とした態度のことだ。


親の厳しい躾だとか、大人の真似だとか、そういうものでは子供は表面的にしか変わらない。もっと根本的に変わるために必要なもの――それは子供をそうならざるを得ないような状態に追い込む家庭環境だ。父子家庭のカオリには、それが痛いほどよく分かる。


ユズキはきっと家出をしてきただけじゃない。


何か、誰にも言えない隠し事をしている。


信用されていないとは思いたくなかった。


もう少し時間が経てば、ユズキの方からふと、自分に打ち明けてくれる日が来るかもしれない。


カオリは今日もいつも通りお姉さんのように接して、ユズキの変化をじっと待つしかなかった。










夕食の後、ユズキがいつものように食器を洗ってくれているのでソファーの上でくつろいでいたら、カオリは父に声をかけられた。なにか、重要な話があるらしかった。


リビングにユズキを残して、二人は一階へ降りた。カウンター席に座って対面する。


「カオリ」


父の声色は真剣だった。


「なに、パパ」


「お前に話しておかなくちゃいけないことがある」


「話って?」


「ユズキくんのことだ」


「え……」


カオリは心の中で確信する。やっぱり、ユズキには何かがある。


父はまず客からユズキの話を聞いて、それから警察署で調べ、ようやく納得に至ったという。


ポツポツと、父はユズキに何があったのかを話し始める……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る