第七話 壊れた捜査会議

「昨日未明に起きた、KABUKI町、河川敷大量殺人事件の第一回捜査会議を始めるっ!」


 気をつけっ!礼ぇっ!、と掛け声を行っているのは捜査一課のトップにいる西宮刑事、まだ40代前半と捜査一課のトップの座に座るのは若い人材だと言われてる。


「まず状況報告について、鑑識課長の安藤鑑識官より報告」


 そう言われて、椅子から立ち上がり、前の立体スクリーンを起動させる。


「それでは、こちらをご覧ください」


 安藤がテーブルの液晶を操作すると、そこには寸分たがわず昨日の死体の様子や周りの風景がバーチャルの立体映像として、会議室の中心に殺人現場が現れる。


「まず、場所は人通りが少なく河川敷の細い路地にて行われた犯行です、現場の面積は縦30メートル、横1.5メートル、そこに敷き詰められたかのように損傷の激しい遺体が散らばっていました」

「犯行時刻は?」


 西宮の質問。


「はい、遺体の死斑から特定が大変困難であり、おおよそにはなりますが発見時刻の夜10時23分から3時間から5時間前だと推定されます、詳しい内容は司法解剖の結果が出次第、報告します」


 安藤の回答、そしてまた、西宮の質問。


「身元の特定は?」

「はい、一名だけ特定ができました、岩崎 薫、女性、年齢26歳、KABUKI町の元倉総合病院に勤務していた看護師であることが判明しました」


 それを聞いた時に、昨日のエミリーの話で看護師という職業は出なかった、となると主婦というどこの職業に当てはまらない人物が看護師だったというわけか。


「その他、四名の被害者の身元についてはまだ特定中です」


 話を聞いている限りでは、まだ捜査を行ったりするための情報が圧倒的に少なすぎる、現場の状況からいろいろ推測はできるが確証のない推測はただの憶測だ、でもって憶測での行動は無駄なことと、危険が伴う。


「凶器については?」

「凶器の特定は未だ出来ていません」


 確かにあの状況では凶器の特定なんて不可能だろう、少なからずでっかい刃物を使って機械的に切り刻んだかもしくは、工業的な、それこそハンマーみたいなもので殺害しなくては、あそこまでにはならないだろう。


「しかし、一つわかったものがあります」

「それは?」

「殺害現場にて、地面からの血液反応は確認できたのですが、周りの壁からの血液反応がほとんど確認できませんでした」

「ほぉ」

「続きは村上刑事に報告をしてもらいます」


 急に話の矛先が俺に向いたなちくしょう、覚えてろ安藤・・・


「それでは、村上刑事、どういうことか説明を」

「はぁ・・・はいっ!」


 隣にいる純は今回捜査会議は初めてだから、今回は俺が頑張らないとな。


「これほどの惨劇を生み出したにもかかわらず、壁側の血痕についてほとんど確認が取れなかったというのは、すなわち殺人現場がその場所ではないということが考えられます」

「それは君の考えかな、村上刑事?」


 チッ!これが嫌なんだ、こいつが捜査責任者なのが、どうにもこいつは他人を見下す癖がある、特に50を過ぎていまだに出世できず、捜査一課のヒラ刑事としている俺なんかは格好の的だ、そしてそれに上乗せしてだ。


「いえ、この考えは昨日、特別状況下緊急派遣探偵課のエミリー=ホームズの推理によるものです」

「・・・フゥ〜、また探偵課か、どうして最近の刑事は自分の力で事件を解決しようとする努力がないのかな?」


 その発言で、そばにいた捜査官の数人が鼻で笑う、しかしそんなことにはもう慣れてはいる、そしてそれが原因で出世が遠のいているのも自覚は少ししている。


「そして村上刑事、その探偵課からは他にどのような話を聞いている?」

「はい、まず被害者の職業について、また生前にどのような状況下にあったのか、また遺体の不自然な点についての話がありました、詳しくは渡辺刑事の捜査報告書に記載されていると思われます」

「わかった、目を通しておく」


 そう言っておいて、目を通しておくことはないんだろう。


「最後に、現段階での捜査は困難を極める、それぞれ各自、努力するように、また、本件を担当している刑事は会議終了後残るように」


 以上っ!礼ぇっ!その掛け声を会議が終了する、また嫌な時間が始まると村上は思った。


????????????????????????????????????


「どうだね、純君、捜査一課は慣れたかね?」

「えぇ、少しずつ慣れてはいます」


 さっき、目の前で話していた西宮が俺に話しかけるが、はっきり言って、少し・・・いや、かなりはらわたが煮えくり返っている。


「君はこれから先が長い、地道に努力を続ければ必ずいい未来が待ってる、ただしだ、それは自分の力で歩いた道でなきゃいけないんだ」

「えぇ、わかりました」


 何を言っているんだ、こいつは、必ずしも自分の歩いた道が一人だったと思っているのだろうか、それは俺が一番わかってる。


「それで、お話とはなんですか?」


 その会話を見ていた、村上が話を振る、彼も内心かなり怒っていることだろう。


「そうだ村上刑事、君たち二人に話があるんだ、特に村上刑事にだが」


 なんとなく嫌な予感はする、おそらく探偵課の人間との協力捜査のことだろう。


「君は渡辺刑事と探偵課の人間とバディをさせようというのかな?」

「はい、そのつもりです、少なからず彼が警部になるまでは組ませてやりたいと思っています」


 今の俺は警視庁勤務、捜査一課の警部補というポストにいる、俗に言うキャリアというやつだが、26歳で警部補というのもなかなか肩身がせまい、何せ年で20人ほどしか採用されないし、大抵30歳は超えている。


 ちなみに村上はノンキャリアで実力で上り詰めてきた人であり、俺の尊敬する人だ、だが出世欲のない人柄のせいか今は俺と同じ警部補のポストにいる。


「そんな考え方だから君は出世できないんだよ、村上警部補」


 ちなみに西宮は捜査一課長、またの名を警視正というポストにいる、村上よりはるかに高い地位にあり、特に彼は階級を重視する人間だ。


「いいか、出世は己の努力だ、君みたいに人に頼ってばかりだからその年で警部補なんかをやっているんだ、まぁ、ノンキャリアだからここまで来ることはできないだろうg」

「そろそろいいですか?西宮警視正?」


 そろそろ聞くに堪えないな、この脳みそスポンジにははっきり物を言わなきゃわからんようだ。

 隣で黙って聞いていた村上が目で、よせっ、と訴えるが俺は聞き分けのいい子に育てられた覚えはない。


「お言葉ですが、私は村上警部補の探偵課のバディ案については賛成ですし、それにこちら警部補のやることに関して、お偉いさんがいちいち首をつっこむことでもないかと思われますが?」

「つっこむ理由としては、君が早くこちらの方へ昇ってもらいたいと思っているからでね、そんな自分で考えもしないで捜査をした人間にきて欲しいとは毛頭思ってはいないんだ」


 さて、このあとどう言い返してやろうか、そう思った時である。

 バンッ、と突然開いた会議室の扉、その向こうにいたのは。


「ん?なんだ会議はもう終わったのか?せっかく大学を早退したのに」


 乱れきった髪と着崩したスーツ姿で飛び込んできたホームズの姿だった。

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