第二話 壊れた捜査協力

 特別状況下緊急派遣探偵課、2048年に凶悪犯罪対応策として発足したまだ新しい部署だ、まだ社会的に表面化してはいないが裏で動く、言うなればスパイのようなこともすれば、実際に現場にやってきて捜査方針をアドバイザーみたいなこともするらしいが実際に会ってみたのは初めてだ。


「捜査一課の渡辺 純です、この度はお会いできて・・・」

「今は仕事、詳しいことは後で」

「そうだ、純」

「はあ・・・」


 差し出した右手だけが虚しく残され、その前を村上さんと探偵課の人間が素通りする、なんとも言えない気分になり二人の後を追う。

 

 その二人の後ろ姿と同時にかすかに聞こえてくる話し声を聞く限りでは今回起きたことの詳細事項を話しているらしいにしてもだ、この二人の身長差は若干滑稽に思えてきた、村上さんはさほど低いというわけでもないが167センチくらいと警察の中では小柄な方だ、隣に立っている彼女は履いているブーツを引いても175センチはあるだろうその二人が歩いているとまさに凸凹という言葉が合う。


「ほら!、何ボーッと後ろついてんださっさとついてこい!」

「はっ!はい!」


 ともかく探偵か・・・、最近は耳にしない言葉だとは思っていたがこんな身近なものになるとは思ってもみなかった、それにしてもあの・・・ホームズだっけかあの光景を見てなんというだろうか女男問わずあんな光景を拝みたくはないだろうがともかくできる限りのフォローはできるようにしときたいな。


「こちらになりま・・・、ハァ〜またあんたか、ホームズさん?」

「それはこっちのセリフです、鑑識係を語った荒らしやさん」

「なんだと!」

「はいっそこまで、ホームズ!なんでお前はそう謙虚ということを知らん!」

「ん〜イギリス人だから?」


 いやそれは絶対関係ないし、仮にイギリス人だったとしたらもっと礼儀正しいものを想像していたんだが。


「ともかく、安藤さん後でおごってやっから今は抑えて抑えて」

「・・・はぁ、こっちですよホームズ様」

「うん、良きに計らいたまえ」

「貴様ァ〜!」

「抑えて抑えて!」


 ・・・なんなんだこの外人、ここの顔見知りらしいが失礼にもほどがない、ここの人間とはあまりうまくいってないようだ、よほど自分の腕に自信があるか、もしくはただの口がうるさいだけの残念美人かな。


「さて、ここが現場だが、見て絶対吐くなよホームズ」

「それは保証できない、龍一」

「できなくても絶対しろ、純もいいな」

「もう見ましたしね、お手並み拝見ということでホームズ様?」

「・・・」


 そう言った後に鑑識のおっちゃんがブルーシートを捲り上げる、そこにはさっきとは一つも変わらない血だらけのつぶれた死体の転がっている地獄のような風景が広がっていた。


「・・・暗い」

「は?」

「暗いと言ってるんだ!明かりをもっとよこせ!」

「あ、ああ、鑑識!浮遊ライトをもっと増やせ!」


 浮遊ライトとは見た目は電球と変わらないのだがエア噴射により足の踏み入れられない場所に光源を飛ばすことができる優れものだ、今回の場合、床が一面血にまみれており死体の回収もまだなので現場に踏み込まないように使用されている。


「こんなもんか?」

「ああ、あと望遠鏡とカメラ」

「わかった、純!鑑識から望遠鏡とカメラを借りてこい!」

「えっ!はい!」


 なんで俺がこんなやつのためにこき使われなきゃいけねぇんだよ・・・、そう思いながらブルーシートを捲り上げ、鑑識係のいるテントへと向かう。


「あの・・・鑑識さん、すみませんが望遠鏡とカメラをお貸しいただけますか?」

「あぁ、またあの小娘の頼みごとか、望遠鏡はないがカメラは貸してあげますよ」

「すみません、ありがとうございます」

「あの女だが」

「はい」

「口はかなり悪い上に、性格もかなり破綻しているやつだが・・・やつの目は確かです」

「はぁ・・・」

「だから人間性というよりか、あいつの発言を勉強のつもりで見たほうがいいですよ」

「・・・覚えときます」


 そう言って渡されたデジタルカメラを持ってまたブルーシートの中に戻る。


「すみません、遅くなりました」

「いや、まだ大丈夫だ・・・」

「遅い」

「す・・・すみません」

「さっさとそれを渡して」


 本当にこいつ、ムカつくやつだな今すぐその人を見下したような顔を張り倒してやりたい、沸き起こる怒りを抑えて手に持ったデジタルカメラを渡す。


「どうも」

「いいえ、ホームズ様」

「・・・君しつこいって言われたことがないか?」

「言われたことはないですが、今日は特別です」

「龍一、新人教育がなっていない、私はしつこい人間は苦手だ」

「そうだな、純以外にも教育しなきゃいけないやつがいるがな」

「私のことか、やめてくれ頭の固さが感染る」


 そう言い放った後、事件現場にカメラを向け遠近を使って観察をしている。


「村上さん、少しいいですか」

「なんだ、今は仕事だ」

「すぐ済むんで、あのホームズって女何者なんですか?」

「だからあいつが言ってたろ、探偵課から来たって」

「ええ、それはわかるんですが、その態度が・・・」

「ああ、それはあいつの性格のせいだろ」

「ですが、村上さんなんで野放しにしているんですか!」

「・・・あのな純、ここだけの話だがな、今この警察の抱えている未解決事件は何件あると思ってる?」

「え?」


 それはあまり考えたことはなかったが、それが何でこの女と関係しているのだろうか、資料には目をあまり通してはいないが確か・・・


「確か二百五十件以上だったかと」

「そうだ正確に言えば二百七十五件だ」


 そうだ、そしてその中に俺の・・・


「ですがそれがあの女と何の関係が?」

「あの女、エミリー=ホームズなんだがあの探偵課に入って一ヶ月でその未解決事件の2割を資料の所見のみで解決に導いたやつなんだ」

「未解決事件を一ヶ月で二割も!」

「ああ、そうだあいつは言っちゃあ天才と言える存在なんだ、だから周りの人間でもはっきりものが言えないんだ」


 そうか、どうりでみんなあまりものが言えないわけだ。


「龍一!こっち来て!」

「ああ、わかった!お前は少なからず年が近いんだから、はっきり意見しろよ」

「はぁ、ってあの女何歳ですか?」

「あ、確か二十三で今、大学生だって話だぞ」


 マジかよ・・俺の三つ下じゃねえか、しかも大学生なのかよ


「あ、言っておくけど手ェ出すなよ」

「出しません」


 あのような女王様みたいなタイプははっきり言って苦手だ、そして二人はホームズに呼ばれた方へと足を進める、そこでは熱心にカメラを覗き込み、死体を激写しているホームズの姿があった、その姿はどこか興奮していて仕事という感じではなくむしろ趣味のように楽しんでいるようにも見えた、そんな姿にまた純は嫌悪感を覚える。



「どうしたホームズ」

「この現場には面白い点が四つある」


 何が面白いだ、人が死んでるというのに、やっぱりこいつはまともじゃない。


「まず、一つ目、死体は明らかに五つあるはずなのに腕が5本しかない」

「ちょっと待て、死体が五つ?」

「そうだ、見てわからないか一目瞭然だ」

「だって鑑識もわからなかったって・・・」

「人の意見に左右されて観察しないからだ、それにここの鑑識が単純にバカなだけだろう」


 言い切ったよ、この人鑑識がバカだって・・・


「説明が面倒だから、二つ目に」


 そう言って彼女は、手に持ってるカメラの画像を二人の前に見せる、非常線のホログラムを超えた奥にある潰れた死体の写真や、死体の着ていた衣服のアップの写真などが写ってる。


「手前から、バス運転手、警備員、サラリーマン、主婦、キャビンアテンダントと職業がバラバラすぎる」

「おいなんでそんなことがわか・・・」

「三つ目」


 完全に無視されて話が進められる、次に彼女はそばの死体の腕の方へと足を運ぶ、その時によく響くヒールの音がなんとも不気味に感じる、そしてその腕に指をさし。


「この人物たちは一定の間、おそらく金属製の箱の中に監禁されていた」

「はぁぁ?」


 もう訳がわからない、この女の言ってることがただの妄想か狂言にしか聞こえなくなってきたところで、我慢の限界だ。


「四つ目h」

「ちゃんと説明してもらえますか?」


 予想外の切り返しに、話そうとした口が開いたままになっている、そしてこちらの方を見つめ、眼を細め、まるで観察をするように睨みつける。


「私の説明を途中で遮るとはいい度胸ね」

「すまないが、根拠のない妄想を信じるほど僕は要領よくできてないもんでね」

「・・・貴方名前は?」


 さっき名前は言ったはずなのにな、もう忘れたのか?


「捜査一課の渡辺 純だ」

「・・・覚えておこう、で純、私の言ってることに矛盾があったのか」

「いや、矛盾があるかどうかわからないような説明をされて、矛盾があったかと聞くのはフェアじゃない」


 あたり全体が静まり返りその間終始お互いをにらみ合う、それはまるで時が止まったかのように感じられた。

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