行方不明になっていた父親が異世界で美少女ハーレム形成していた

ここみさん

プロローグ的な何か…まぁつまらない思い出話ですよ

『僕のお父さん 二年二組 榊凌雅

僕のお父さんはとってもかっこよくて、強くて、頭が良いです。僕の考えていることをなんでも見通してしまいます

例えば、僕が外から帰ってきて、手を洗わなかったとき、手を洗いなさいってまずは注意します。僕が洗ったよと嘘をついても、じゃあお父さんと一緒にもう一回洗おう、と言って優しく笑いかけます。本当に洗ったときはそんなことは言いません。他にも、僕がつまみ食いしようと、台所に向かったとき、お父さんはテレビを見ながら、みんなで食べたらおいしいよねって言いました、僕の考えているが見通されているとしか思えません。

お父さんは初めてやるゲームで一緒に遊ぶ時も、僕がちょっと操作の仕方を教えただけで、あっという間に僕より上手くなってしまいます、僕が友達の間で一回も負けたことの無いゲームでも、僕はお父さんには勝てません。将棋やオセロ、トランプでさえもお父さんには勝てません。お母さんはこのことを、大人気ない、ってよく言いますが、僕は全力で遊んでくれるお父さんが大好きです。』

ここまで読んで、僕は読んでいた原稿用紙をクシャッと丸めた

部屋の掃除の最中、小学生低学年くらいのころのものが詰まっている段ボールを見つけ、中をあさっていたら見つけた原稿用紙だ。懐かしい、確か授業参観で読まされたな、コレ

なんだろ、なんで昔の作文ってこんなに恥ずかしいのだろう

別に恥ずかしいことが書いてあるわけでもない。誰もが一度ぐらいは書く自分の家族大絶賛の作文だ、しかしここに自分が書いたって言う事実一つが加わることにより、穴に埋まりたいくらい恥ずかしいものに仕上がってしまう

そして極めつけは、読んでいるうちにこの作文を書いたときのことがどんどん思い返されてくる。子供のころの記憶は、ほとんどが黒歴史

自分の顔が熱くなっていくのを感じ、その場にゴロンっと横になった

「お父さん、か」

昔の僕が“お父さん”のことをどう思っていたのかは、なんとなく思いだせたが、今の僕にはどうも共感できないものばかりだ

優しい、頭が良い、かっこいい。当時の僕にとっては、まるでヒーローのような存在だった

「いやはや、本当に何やっているんだろうね、あのヒーローは」

口には出してみたが、もう顔もろくに思いだせない

あるのは、“お父さん”という人物を指す言葉と、ある情景だけだ

壁にかかっているカレンダーを見た

「もうどれくらい経ったのかな」

あの人は、“お父さん”は7年前、僕と母さんの前から姿を消した

何の前触れも、何の予兆も、何の予告もなしに

あの日、いつものように会社に行ったあの人は、そのまま家には帰ってこなかった

当時の僕は、それがよくわかっていなかった、会社の都合の出張の類かな、その程度の認識だった。しかし、母さんの見せた、日に日に余裕のなくなっていく不安気な表情、そしてそれを僕に気取られないように、普段以上に陽気な態度。子供でも、ただ事ではないことが分かった

今思うと、何度も母さんに「お父さんはいつになったら帰ってくるの」と尋ねたのは、酷だったのかもしれない

母さんは警察に捜索願を出し、会社の方にも足を運び、いなくなった日のことや何か手掛かりがないのかを尋ねた

結果は芳しくなかった。全てが徒労だった

警察の方たちは全力を尽くしてくれただろうし、会社の人たちは全面的に、捜索を支えてくれたし協力してくれた

これからは、二人で頑張ろっか

一年くらい経ったあたりで、母さんは僕にそう笑いかけた

これ以上変な希望を持つより、現実をしっかり見据えよう

そう自分に言い聞かせているように見えた

「それ以来だよな、憑き物が落ちたっていうのかな、母さんが妙にすっきりして、妙に元気になりだしたのは」

僕は段ボールに手を突っ込み、何らかのプリントを引っ張り出した

そのプリントには、たくさんの計算問題が印刷されてある。おそらく算数の時間に使ったものだろう

なんとなく、そのプリントを使って紙飛行機を折り始めた

僕と母さんの捜索についての行動は、警察に捜査う願いを出した時点で、一旦区切りをつけ、あの人のいない生活を受け入れるべきだったのだ

人と人の別れは劇的でもなければドラマチックでもない、ただただ突然に訪れ、何の準備もさせてくれず、後悔と未練だけを残していく。あの時の僕と母さんは、それが理解できていなかったのかもしれない

だけど今でも思いだす

あの人がいないことを当たり前となった生活になっても、あの人の顔をほとんど思いだせなくても

あの日、僕に優しく微笑んで、帰ったらゲームの対戦を約束してくれて、会社に向かうあの人の後姿を、僕は憶えている

「行ってらっしゃい」

僕はそう呟いて、窓から紙飛行機を外に飛ばした

紙飛行機は風にあおられ、フラフラと蛇行しながら、窓の死角に入ってしまった。どこを飛んでどこに落ちたのかは分からなかった

「凌雅、掃除終わったの?終わったなら、夕飯の買い物に行ってきてほしいんだけど」

分からないなら分からないでいいや

未練や後悔が消えているといえば嘘になるが、あの人がいなくても割と何とかなったし、これからも何とかしていく

「今日の晩御飯はなんだろなっと」

口ずさみながら、たった一人家族のもとに向かった

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