第22章 疑心暗鬼にならずに現実主義でいく

 ハル侯爵の目論見もくろみは当たった。


 スピオン宰相の巧妙な説得工作も功を奏したのだと思うが、西方諸国のうち、けっこうな数の国がハル侯爵の動きに呼応して出兵したのだ。


 出兵を決めた領主たちの思わくは、いろいろあるだろう。だが、


「今は共和国の属国として小康を保つことができても、いずれは攻め滅ぼされるのがオチだ。ならば今の好機をとらえ、西方に進出しようとする共和国の野望を打ち砕いておいたほうがよい」


 この点では、どの領主も思いを同じくしていた。すぐさま志願者を募ったり、精鋭を選抜したり。それぞれのやり方で遠征軍を編成し、出兵した。


 どの国も主戦派が音頭をとって遠征軍を編成していたので、遠征軍には勇将強兵が多い。だから、


他国よそに遅れをとるな」


自分おれらが一番槍をとってやる」


 士気は高く、闘志にあふれていた。


 各国の遠征軍は、勇ましく行軍していく。北から南から続々と討伐軍を目ざして勢いよく進軍していく。


 ただ、西方諸国は小国が多い。そのため各国が遠征にさしむけた兵力は、ほとんどが数千名ほどだった。規模としては小さい。


 それでも「塵も積もれば山となる」だ。各国の遠征軍は、各地で合流しながら進軍していく。まるで雪だるまのように、進めば進むほど兵力が膨れ上がっていった。


 このままいけば、西方諸国連合軍は大軍をもって南北から討伐軍を挟撃する形勢となるだろう。


 こうした動きを共和国の情報網はすでにキャッチしていた。もちろん討伐軍の司令部にも連絡が入る。


 討伐軍の総司令官――ササン少将は警戒した。


「正面の東城塞と戦いながら、南北から攻め寄せる西方諸国連合軍とも戦う。それは無理だ。ここはいったん兵を引き、態勢を整えなおすべきだろう」


 だがアクル少佐は一笑にふした。少しも警戒していない。


「西方諸国連合軍と言っても、しょせんは烏合の衆ですよ。ちょっと打撃を与えれば、あっというまに総崩れです。あたふたと逃げ出していくことでしょう。兵を引く必要なんてありません」


「楽観的にすぎないか?」


「別に楽観なんかしていませんよ。きちんと根拠があってのことです。ぼくたちはいくらでも兵力を補充してもらえます。圧倒的な兵力があれば、多方面作戦だって楽勝です」


 実際、このとき討伐軍の陣地には後方から多くの兵士が続々とやってきていたし、使いきれないほどの兵器が次から次に送り届けられていた。それは討伐軍の将兵が「こんなにか!」と驚くほど、桁違けたちがいの補充だった。


「ですから少将閣下、討伐軍は数の優位を活かし、東城塞に向かっては攻勢をとり、西方諸国連合軍に対しては守勢をとればよいのです。圧倒的な兵力による猛烈な攻めと、鉄壁の守り――戦う前から勝ったも同然ではないですか」


「たしかに計算の上では、少佐の言うとおりかもしれない。だが、たとえば正面の城を攻めているとき、背後から敵に攻められているとなれば、将兵らは後顧の憂いにとらわれる。目の前の戦いに気持ちを集中できなくなる」


「何か問題でも?」


「士気が問題だ。将兵の士気が下がれば苦戦する。勝てるいくさにも勝てなくなりかねない」


「ぼくの任務は、あくまでも鬼神隊長サクヤ対策ですからね」


 アクル少佐は冷淡に言った。


「士気がどうのこうのといった話は、総司令官たる少将閣下の解決すべき問題です。きちんと任務を果たしてもらわないと困りますよ」


「な……!?」


 ササン少将は言葉につまった。


 この少佐は、議長――共和国の最高権力者の威光を笠に着て、あれこれ作戦に口出ししておきながら、いざとなれば丸投げか。なんと無責任な。


 さすがのササン少将も怒りをとおりこし、あきれてしまった。


「とにかく外側の守りを固めて、内側を激しく攻めればよいのではないですか。簡単なことです。がんばってくださいよ」


 ササン少将は、生意気な口をきくアクル少佐のことを恐ろしい形相ぎょうそうにらみつけながらも、表立って反発することなく「もちろん全力は尽くす」と了解した。


 それにしても――と、アクル少佐は思う。


(この少将は、つべこべ言うので困る。せっかく鬼神隊長サクヤを目の前に追いつめているのに、ここで西方諸国連合軍の脅威を口実にして撤退なんかされたら、すべてダイナシじゃないか)


 だからアクル少佐は、これ以降、裏で手をまわして情報統制をしいた。討伐軍の司令部に西方諸国連合軍に関する情報が届かないようにしただけではなく、西方諸国連合軍が間近に迫ってきても遠くにいると錯覚させるウソ情報までも流す。


 共和国の最高権力者――議長がバックについているアクル少佐にとって、これくらいの情報操作は朝飯前あさめしまえだ。


 もちろん、こんなことをすれば、自軍が危なくなってしまう。まともな軍人のすることではない。


 だが、アクル少佐は、まともではなかった。「敵をだますには、まず味方から」と、ほくそ笑む。


(そんなに西方諸国連合軍が怖いなら、西方諸国連合軍に攻められたらいい。そうして追いつめられたら、将兵は必死になる。必死になれば、火事場のバカ力をだせる。鬼神隊長サクヤの怪力も目じゃない)


 ササン少将の心配する士気だって、あっという間に高まるだろう。なにしろ生き残るためには、必死になって戦うしかないのだから。


「完璧な作戦ではないか」


 アクル少佐は自分の天幕テントの中で、自分の策略にれとしていた。


 ◇ ◇ ◇


 古今東西の戦例を見るまでもなく、夜襲は小が大に勝つために役立つ。


 たとえば、ナガシノの戦いでは、オダ・ノブナガは2千の兵力で夜襲し、4万5千の敵軍に勝った。


 また、イツクシマの戦いでは、モウリ・モトナリが5千の兵力で夜襲をかけ、2万5千の敵軍に勝利している。


 さらに、カワゴエ城の戦いでは、ホウジョウ・ウジヤスは1万の兵力で夜襲し、8万の敵軍に勝った。


<でも、さすがに1人で数万を相手にしたって話は聞いたことがねぇな>


 フソウはあきれたような口ぶりだ。


「ならば、わたしが先例をつくるまでだ」


 サクヤは腰の刀――フソウに手を添え、笑って言った。


<あいかわらず威勢がいいな。――まあ、それくらいないと、こんな無茶はできねぇか>


 サクヤは「ふふっ」と不敵な笑みを浮かべ、正面を見すえた。目の前の暗がりの向こうには、数万をこえる敵がいる。


「そろそろ頃合いか」


 時計は深夜をまわったところだ。もうすぐ夜も明けてくるだろう。なぜか夜になって討伐軍の陣地にあわただしい動きもあったが、今は静まっている。ようやく夜襲できる。


 サクヤは刀――フソウに手をかけ、抜こうとした。そのとき、


「連隊長!」


 うしろから声がした。ふりむくと高齢ベテラン大隊長が駆け寄ってきている。新人ルーキー大隊長もいた。


 連隊の兵士たちも、わらわらと東城門から出てきている。ほとんどが徒歩だが、老兵の中には騎馬にまたがっている者もいた。足腰の弱さに配慮したのだろうか。


 騎兵にまたがる老兵は、だれもが体によろいをまとっている――と思いきや、よく見たらダイナマイトを体に巻きつけていた。死ぬ気で戦うつもりか。


 ある意味、勇壮で頼もしいが、サクヤは目を細め、険しい顔つきをした。


 それと比べて高齢ベテラン大隊長の表情は明るい。「連隊長とご一緒します」と力強く言う。


 新人ルーキー大隊長も「自分らも戦います」と意気ごんで見せた。


 連隊の兵士たちは黙っているが、決意に満ちた目で連隊長サクヤを見つめていた。死ぬ気で戦うつもりなのだとわかる。


 だがサクヤは断固として反対した。


「連隊は戦わせない。これは命令だ」


「ならば命令違反をしても戦うまでです」


 高齢ベテラン大隊長は、さらりと言った。


「ここで逃げたら、おとこがすたりますからね」


 新人ルーキー大隊長は、鼻をこすった。


「断る!」


 サクヤは真顔でキッパリ拒否した。


 それでも高齢ベテラン大隊長は引き下がらないし、新人ルーキー大隊長は好きにさせてもらうと言いはる。


 連隊長サクヤを見つめる連隊の兵士たちの目にも迷いがない。覚悟を決めた者の目をしている。いくらサクヤが一人で斬りこんでいくと言っても、兵士たちは勝手についてくるだろう。


 こうなれば、さすがのサクヤもどうしようもない。


「ならば好きにしろ」


 サクヤはそっけなく言いながらも、穏やかな表情を見せ、「みなの心意気には感謝する」と頭を下げた。


 ◇ ◇ ◇


 東城塞には、まったく情報が入ってこない。


 そもそもワート大公は、サクヤたち連隊を見殺しにするつもりなので、増援はもとより情報すらも与えるつもりはないのだろう。


 だから、だれも西方諸国連合軍の動きなど知らない。ましてや討伐軍の陣営に混乱があるなど夢にも思わない。


 だからサクヤの連隊では、だれもが死ぬ気で夜襲を敢行した。


 まもなくして討伐軍の陣地から警報が鳴り響き、いくつもの照明弾が打ち上げられた。真昼のような明るさだ。こうなればサクヤたち連隊の動きも丸見えだろう。


 討伐軍は多くの機関銃で銃撃し、いくつもの迫撃砲で砲撃した。銃弾の嵐、砲弾の雨がサクヤたち連隊を襲う。


 サクヤは言うと、風のように走り、すばやく動く。たくみな刀さばきで敵の銃弾をはじき、砲弾を一刀両断にする。


 ――連隊のみんなを守りたい。


 サクヤは右に左にせわしく動きまわり、敵の攻撃から連隊の兵士たちをかばうようにして戦っていた。


 しかし、銃弾は無数に飛んでくるし、砲弾は雨のように降ってくる。サクヤひとりで、すべてを防ぎきれるものではない。


 これが飽和攻撃の威力だ。


 討伐軍の猛烈な反撃のせいで死傷者は増えるばかりだが、それでも高齢ベテラン大隊長からしてみれば、


(当初の想定よりも敵の反撃が弱い。敵兵も少ない気がする)


 何かのワナだろうか?


 だが今さら気にしたところで仕方がない。


「前進あるのみ!」


 高齢ベテラン大隊長は走りながら、味方を叱咤激励しったげきれいするかのように叫んだ。


 突撃、突撃、とにかく突撃。討伐軍の本陣――司令部を目ざし、サクヤたち連隊は死をも恐れず、前進していった。


 機関銃による猛烈な銃撃で、ハチの巣にされたり。迫撃砲による強烈な砲撃で、木端微塵ミンチにされたり。多くの兵士たちが次から次に戦死していく。


 それでもサクヤたち連隊は、ひるまない。戦友のしかばねをのりこえ、とにかく先へ先へと突き進んでいく。


 騎馬にまたがる老兵などは、敵の砲座や銃座に飛びこんで暴れまわり、蹂躙じゅうりんした。致命傷を受けたらすぐさま自爆し、銃座や砲座を破壊する。


 こうしたサクヤたちの鬼気せまる戦いぶりに、討伐軍の将兵は恐怖した。


 あと一押しで、討伐軍も総崩れとなるのではいか。


 だが、空がしらんできた。夜明けも近い。これまで同士討ちを恐れて黙っていた射撃手スナイパーたちも、容赦なく銃撃を始めるだろう。砲兵だって動きだすはずだ。


 それまでに敵の本陣に到達できるのか?


 そのときだ。遠く思いもよらない方向から、威勢のよい喊声かんせいが聞こえてきた。すさまじい銃声が轟きわたり、地鳴りもする。


 騎兵による突撃のようだ。


 討伐軍が浮き足だちはじめたところからして、討伐軍の味方ではないことは確かだろう。


 ならば一体、何者なのか?


「西方諸国連合軍による朝駆けだと!?」


 本陣で指揮を執っていたササン少将は驚いた。


「こんな間近にまで西方諸国連合軍が迫っていたなんて、聞いてないぞ! ――遠くで様子見ようすみを決めこんでいたのではなかったか?」


 ササン少将は、ハッとした。おもむろにアクル少佐に目を向ける。


 アクル少佐はニヤニヤしていた。


「絶体絶命の大ピンチですね。」


「まさか少佐、貴様の仕業しわざか……」


 ササン少将の顔は、ひきつっていた。


「兵法ですよ。背水の陣というやつです。生き残るには必死になって戦うしか道がありません。少将閣下の心配していた士気も、これで一気に高まることでしょう」


 アクル少佐は自慢げだ。


「さあ、今こそ鬼神隊長サクヤに――、ぐはっ!」


 アクル少佐は、ササン少将に思いきり殴り飛ばされた。一発でノックダウンされ、失神してしまう。


 ササン少将は、アクル少佐を見下ろしながら、つぶやいた。


「貴様に兵法を1つ教えてやろう。生兵法はケガのもとだ」


 それはそれとして、どうする?


 一方ではサクヤたち連隊が猛威をふるっている。他方では西方諸国連合軍が襲いかかってきている。


 対する討伐軍は主兵力を西に移動して、司令部の守りは手薄だ。サクヤたち連隊は司令部を狙っているが、司令部が落ちたら全軍の統制がとれなくなる。おしまいだ。


 とにかく西から兵力を戻すしかない。が、南北から襲撃してくる西方諸国連合軍に行く手を阻まれ、すぐには戻ってこれない。


「とにかく現有兵力でしのぐしかない」


 サクヤたち連隊が本陣――司令部に突入してきたのは、そのときだった。


 司令部は混乱におちり、混戦の中でササン少将は絶命する。指揮系統は乱れ、討伐軍はヘッドレスチキンとなった。こうなれば組織的な戦いはできない。討伐軍の将兵は、各所で白旗をあげた。


 アクル少佐は身の危険を察し、真っ先に逃げ出したのだろうか。どこにも姿が見当たらなかった。


 サクヤたち連隊は、討伐軍の本陣に連隊旗を高らかに掲げ、勝鬨かちどきをあげる。


 えいっ! えいっ! おーっ! 


 ◇ ◇ ◇


 サクヤたち連隊は捕虜を通じて、討伐軍が「サクヤたちは西に向かって逃げるつもりだ」と思いこみ、東から西に兵力を動かしていたことを知る。司令部の周辺は、ある意味ガラアキも同然だった。


「それで想定していたよりも攻めやすかったわけか」


 連隊のだれもが合点がてんした。


 今回の戦いで、サクヤたち連隊では半数近くの兵士が戦死している。それだけでも大きな被害だが、もし討伐軍の守りが厳重だったら、もっと大きな被害を出していたはずだ。おそらく全滅に近いダメージを受けていただろう。


 それにしても討伐軍は、どうしてサクヤたち連隊が西に向かって逃げると誤認したのだろうか?


 高齢ベテラン大隊長が調べてみると、すべてはリーシャの仕業しわざであることがわかった。


(敵のスパイでありながら、自分われらを助けたというのか?)


 高齢ベテラン大隊長は驚くばかりだが、今回の戦いをつうじて1つ思ったことがある。


(連隊長の強みは、その怪力にあると思われている。だが本当の強みは、そのカリスマにあるのではないだろうか)


 ――今回の戦いでは、連隊のだれもが連隊長サクヤと生死を共にする道を選んだ。


 ――しかも、ファラム辺境伯は連隊長サクヤのために動き、結果として西方諸国までもが動いた。


 ――そして、敵のスパイですら連隊長サクヤに味方した。


 こうした他人をきつける魅力――カリスマこそ、連隊長サクヤの真の強みではないか。


 そのサクヤは今、リーシャとの再会を喜んでいた。


「おまえがいなければ、わたしたちは全滅していた」


 サクヤは屈託のない笑顔で、惜しみない賛辞をリーシャに贈る。


 だが、リーシャは暗い顔をして、うつむいている。当然だ。サクヤをだましてきたのだから、あわせる顔がないのだろう。


「……」


「さすがはわたしの従者だ。わたしも主人として誇らしいぞ」


「今さら従者なんて……」


 リーシャはうつむいたまま、吐き捨てるようにつぶやいた。


「ん? もちろん従者になりたくないのなら、それでもいいぞ」」


 サクヤはリーシャを優しい目で見ていた。


「大隊長に伝言してもらったとおり、帰国してもよし、亡命してもよし。ファラム侯国を希望するなら、紹介状を書いてやるから、遠慮なく希望を言ってみろ」


「サクヤ様って、ほんとお人よしすぎますよ……」


「ん?」


「あたしにだまされたのに、バカですか……」


 リーシャは思い切ったように顔をあげた。サクヤをキッとにらみつける。その目からは涙がボロボロとあふれ出していた。


「お人よしにもホドがあります……。そんなに親切にされたら、勘違いしちゃうじゃないですか。またサクヤ様の従者になれるんだって……」


「なんだ? 従者がいいのか? なら、これからも従者として、よろしく頼むな」


 サクヤは笑顔で、さらりと言った。


「は? おちょくってるんですか? あたしはスパイだったんですよ。サクヤ様をだましたんですよ。それなのに従者になんか、なれるわけないじゃないですか……」


「そんなことは関係ない」


 サクヤは真顔で、キッパリと言った。


「役立つなら使うし、そうでないなら使わない。それだけのことだ」


 一息ついて、


「おまえは物知りだし、気兼ねなく話せる。おまえが従者でいてくれると、わたしは助かる」


「あたしのことをゆるしてくれるっていうんですか?」


ゆるすも何も、おまえは功労者だ」


 リーシャは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、「あたし、サクヤ様の従者になりたいです!」と力強く言い、サクヤの胸にとびんだ。サクヤの胸に顔をうずめて泣きじゃくる。


 サクヤは、そっとリーシャの頭をなで――ようとしたら、リーシャがいきなりガバッとサクヤの胸から顔を離した。なぜかイヤそうな顔をしている。


「サクヤ様……すごく汗くさいです」


 リーシャはイタズラっぽく笑った。


「ああ、そう言えば、しばらく風呂にも入ってなかったな」


 サクヤは顔をぽりぽりかきながら苦笑いした。


<それにしても>


 フソウは思う。


<敵対してもゆるし、しかも味方に変えてしまうなんて、まるでイエヤスみたいなやつだな>


 かつてトクガワ・イエヤスという天下人がいた。


 イエヤスがまだ小領主だったころ、課税に反対した宗教団体が反乱を起こしたそうだ。イエヤスの家臣のなかにも、反乱に加わる者がいたらしい。


 イエヤスは「この件に関してはだれも罪に問わない」として反乱を解決した。


 このときゆるされた家臣たちは、その後、だれもがイエヤスのために力を尽くしたという。イエヤスもその家臣たちを信頼したそうだ。


こいつサクヤには、イエヤスみたいに天下人の素質があるんじゃねぇか。――やはり血は争えねぇってことか>


 ◇ ◇ ◇


『闘戦経』第22章


〇原文・書き下し文


 |疑(うたが)えば|則(すなわ)ち|天(てん)|地(ち)の|皆(み)な|疑(うたが)わる。|疑(うたが)わざれば|則(すなわ)ち|万(ばん)|物(ぶつ)の|皆(み)な|疑(うたが)われず。|唯(た)だ|四(し)|体(たい)の|存(そん)|没(ぼつ)に|随(したが)って、|万(ばん)|物(ぶつ)の|用(よう)と|捨(しゃ)あり。


〇現代語訳


 疑えば、天地がすべて疑わしくなる。疑わなければ、あらゆるものがすべて疑わしくなくなる。とにかく自分に役立つなら使うし、役立たないなら捨てる。それだけだ。

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