第36話 ブラックサンタ
「ほーら、良い子のみんなには、サンタのおじさんからのプレゼントだよ」
「わーい、お人形だわ」
「サンタのおじさん、ぼくにもちょうだい、ちょうだい」
「あわてないでも、ちゃんとみんなの分、あるからね」
今年は、この町にも、移動サンタクロースがやって来た。もう、こうやって恒例になってから、何年が経つだろう。
毎年、さまざまな町を巡っては、たくさんの子供達に、無償でプレゼントを配っているのだ。
何処のボランティア団体なのかはわからない。しかし、その移動車のバスには、サングラスを掛けたサンタクロースのペイントが大きく塗られている。
この移動サンタクロース隊とでも呼べばいいのか、彼らは子供だけではなく、地域の大人たちにも大変歓迎された。だから、きまって彼らが来ると、心ばかりの報酬が彼らにももたらされるのである。
報酬といっても、お金やそれに類するものではない。その地域の大人たちが、一晩だけ彼らのために、食事の用意をするのだ。
ボランティアのサンタクロース達も、このもてなしばかりは、ありがたくちょうだいする。
その日も、みんな子供達は、満面の笑みを浮べながら家へと帰った。もちろん手には、それぞれのプレゼントを持って。
大人たちは、町のレストランに彼らを招待した。レストランといっても、気のきいた料理などはない。せいぜい、ピザかパスタ、それと少々のアルコールと・・・
彼らも、そして大人たちも大いに食べ、飲んで、そして語った。
アルコールも少しずつ回り始めたころ、一人の男が、そのサンタクロースに尋ねた。
「ところで、あんたらは、何でこんなボランティアをしているのかね?」
「こんな、ボランティアというと?」
「わしら、見ず知らずの子供達に、たくさんのプレゼントを配ってくれる。かといって、見返りを要求するわけでもない。それに、いかがわしい宗教団体とも違うようだ」
「・・・・・」
「いや、決してあんたらを疑っているわけじゃないんだ。ただ、世の中にゃあ、こんな神様みてえな人達もいるんだなあ、と思ってよ」
その男は、胸で十字を切ると、心から感謝していることを告げた。いつの間にか、他の大人たちも手を合わせると、そのサンタ達を見詰める。
「私達は、皆さんが思っているような善人ではありません」
ひとりのサンタクロースが語り始めた。
「私達、そう、ここにいる六人は、先の戦争で飛行機に乗っていました。資材補給用の輸送機です。戦争とはいえ、直接敵と遭遇する事が少ない輸送機の任務は、我々の救いでした。我々は前線にいる兵士達に物資や郵便を送る仕事にちなんで、機のマークをサンタクロースにしたのです。南方だったせいもあり、日差しもまぶしい。そこでサングラスを掛けさせたという訳です。みなさんご存知のように、それが私たちのあのマークなのです。しかし、戦局が変わり、我々にも別の任務が与えられました。それは、敵の町に、小型の仕掛け爆弾をばら撒くという任務でした。ターゲットは、なんと子供でした。その爆弾は、すぐには爆発しない。そして、その玩具のような小型の爆弾に興味を持った子供が、ふたを開けると爆発する仕掛けになっていたのです。来る日も来る日も、我々はそれをばら撒いていたんです。いつしか我々の機は、子供達から『ブラックサンタ』と呼ばれるようになっていました・・・」
ここまで語った時、別のサンタの男がすすり泣き始めた。
集まっていた大人達も、もうひとりとして声などない。
「だから、私達は・・・」
男は続けようとしたが、涙に詰まって言葉が出てこない。
「もういい、すまなかった。そんな過去があるとは知らずに・・・」
「あんたらは、悪人なんかじゃない。本物のサンタじゃよ」
大人たちは、このサンタ達を囲むようにして、彼らの車まで歩くと、もう一度彼らの肩をたたいて言った。
「あなた達こそ、本当のサンタクロースだ。メリー・クリスマス・・・」
誰もが口々にそう言いながら、彼らと別れた。
そして大人たちは、その車の明りが見えなくなるまで見送っていた。
「おい良いのか、あんな見えすいた嘘を言っちゃって」
車の中では、別のサンタの男が、赤い帽子と白い髭を取りながら言う。髭の下からは、ドス黒い皮膚をした無機質な顔が現れた。
「しょうがないだろう、こう世の中が平和じゃあ、俺達死神の仕事もあがったりだぜ。まさか、毎年クリスマスにかこつけて、子供達に、災いの呪文をかけたプレゼントを配っています、なんて、言えるものでもないだろう」
別の死神がつぶやく。
「それにしても、あの頃は良かったよなあ。ただ爆弾を、空からばら撒くだけでよかったんだから」
六人の死神たちは、黙ってうなずいた・・・
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