数日後 エピローグ

「今日は文学談議にする? それとも……」


「文学」


「ちょっと! いいかげん私との未来の話をしなさいよ!」


「俺はまだお前と結婚する気はない」


 下校中、湊都と二人で今日は湊都の家で何をするか話し合っていた。


 賭針さんは俺の家を訪れた翌日、東京に帰ったらしい。


 湊都の話によると『自分から許婚を降りた』という。


 かなり乗り気だった態度から一変した為、両家は驚いた。

 しかし湊都の「自分には好きな人がいる」という話を聞いたら両家共々納得したそうだ。


「『まだ』ってことは『気はある』って事ね!」


「そ、そういう意味じゃ……」


「ならアンタが私を本気に好きになるまでずっとそばにいるわ! 変な女が寄り付かないように!」


 それじゃあ事実上のカップルじゃないか!


 だが悪くはない。それなら湊都をずっとそばで見守る事ができる。


 また殺されてタイムリープさせられたらたまったもんじゃないからな。


「そういえば今日、マホルが夜想と話したいって」


「マホルさんが?」


「ええ」


 一体何を話すんだろ?


 話していると湊都家の入り口に着いた。入り口ではマホルさんが掃除をしていた。


「お帰りなさいませお嬢様。夜想様いらっしゃいませ」


「ただいまマホル」


「お邪魔します」


「お嬢様、夜想には……」


「伝えたわ。ゆっくり話してていいわよ。私はお菓子とか準備しているから」


「ではお言葉に甘えて。では夜想様こちらへ」


「はい」


 湊都は先に屋敷に向かって行き、俺はマホルさんに案内されて入り口の隅へ向かった。


「夜想様。梔子家との縁談を破談にしてくださってありがとうございました」


 マホルさんは深々と頭を下げてきた。


「え? マホルさんは縁談に反対していたんですか?」


「はい。実は僕、前は梔子家で働いていたんです」


「そうだったのですか!?」


 だから、あの夜に賭針さんはマホルさんに湊都の居場所を聞いたのか?


「高校を卒業した後、僕は梔子家で働き始めました。しかし『手伝いの中で一番頼りないから』という理由で当時は人手が足りなかったこの湊都家に転勤させたのです」


「転勤……」


 悪く言うと『左遷』だな。都会からこんな小さな村に転勤させるなんて。


「僕はどうしても納得がいきませんでした。家事が唯一得意だった僕が苦労して憧れの梔子家に入れたのに。入って数ヶ月で転勤なんて!」


「それはショックでしたね」


 梔子家は冷たいな。さすが殺人犯を産んだ家。


「都会しか知らない僕にとって知り合いもいない田舎は不安しかありませんでした。しかしそんな僕に明るく接してくれたのがお嬢様だったのです」


「湊都が?」


 なんか意外だな。


「休憩中に本を読んでいたら話しかけてくれたんです。お嬢様も文学が好きで僕達はすぐに仲良くなりました。しばらくすると梔子家との縁談話がやってきて僕は嫌がるお嬢様をお助けしたいと思いました」


 いい使用人だな。


「しかし使用人である僕ではどうする事もできませんでした。そこで現れたのが夜想様でした」


「そうだったのですか」


 まさかマホルさんにそんな事があったなんて。


「夜想様。どうかお嬢様を幸せにしてください」


「マ、マホルさんまで!?」


「僕は応援しますよ! お二人が幸せになるようなお手伝いも喜んでします!」


 キラキラした瞳で言われると断りにくいな。


「あ、そろそろ行かないとお嬢様が怒りますよ。僕も仕事に戻らないといけないので」


「そうですね」


「では、ごゆっくり」


 俺はマホルさんと別れて屋敷に向かった。


 玄関の引き戸を開けると美味しそうな匂いがしてきた。お菓子を用意する、といっていたのでその匂いだろう。


 もしかして作っているのか? 俺は匂いのする方向へ向かった。


 匂いがする部屋へ辿り着くと湊都エプロンをつけてテーブルに皿を用意していた。


 湊都の後ろにあるオーブンの中が赤くなっている。予想通り何かつくっている。


「来たわね。座って」


「ああ」


 俺は目の前に皿が置いてある椅子に座った。


「待ってて。もう少しでクッキー完成するから」


「クッキーか。いいな」


 俺が好きなお菓子だ。


「結婚したら毎日つくってあげる」


「毎日はなぁ……」


「じゃあ他のお菓子つくれるように頑張るから待ってて」


 あれ? この会話、俺が湊都と結婚する前提で喋っているのか?


 ……ま、いっか。


 元の時代に戻れなくても、俺が湊都に弄ばれても……。


「さぁ、できたわよ! 今から配るからね」


「おう」


 湊都が生きているだけで俺は満足だ!


~完~


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