恋~バレンタイン短編集~

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粉砕

日に日に寒さが増してくる。新年明けて早々、彼氏に振られて、心も体も寒くなった私は、気を紛らわすために、アルバイトを始めてみた。近所の和菓子屋だ。元々、お菓子は好きなほうだし、仕事は楽そうだし、時給はいいし。大学通いで寮生活をしている私にはちょうどよかったのだ。今日も、いそいそと支度をして、店へとでかける。道はなぜかカップルで溢れかえっている。そんなことは、気にせずにドアを開けると、ショーケースには作りたてのオシャレな和菓子が並んでいる。変わらぬ風景だと思ったが、私は少し違和感を感じた。全然売れていないのだ。いつもこの時間なら半分以上は売れている。厨房に入っても、材料はたくさん残っているし、売れ筋の表や利益表を見ても、あきらかにグラフが右下がりになっているのが見てとれる。ここ一週間はあまり売れていなかったが、今日ほど売れなかったのは、私が入社してからまだなかったと思う。何かあったかと、カレンダーを確認すると、私は、思い出した。今日は、二月十四日。バレンタインデーだったのだ。和菓子なんて買う人なんていないだろう。彼氏もいなく、仲良くしているのは彼氏もちの友人のみ。卒論も書かなければならなかったので、友チョコすら作る気になっていなかった。まあ、それは、皆だから私だけ渡されて気まずくなる心配もしなくていいのだが。そういえば、皆の彼氏がいなかった去年は集まって互いにチョコを渡しあっていたはずだ。少しばかり、私の別れるタイミングが早かっただけだと、心に言い聞かす。そんな訳で、私が入社してから一時間。18時を回ったが、お客さんはまったくと言っていいほど来ない。私と入れ違いで帰っていったおじさんから、誰も来ていない。店長も思わず、須スマホで彼女さんと連絡を取っているようだ。思わず、私は拳に力を入れる。私は店長に気づかれぬように、そーっと、店を出て、隣のチョコ屋に向かう。壁伝いに忍び寄り、入っていくリア充どもを見ながら、ミルクティーを一気飲みする。今まで、甘過ぎて好きじゃなかったミルクティーがなんだか薄くて嫌いになってしまった。私は空になったペットボトルを近くのゴミ箱に投げ捨て、引き続きチョコ店を観察する。すると、見覚えのある人が女と手を繋ぎながら入っていくではないか。あれこそが、私の元彼だ。もう新しい彼女を連れている。二人に嫉妬しながら、私は爪を噛む。あんな女より、私のほうが可愛い……。心の中でそう叫びながらもう一度店へと入る。私の携帯が鳴る。店に入る前に、確認すると、友達が彼氏とのイチャイチャ振りを写真つきで送ってきた。すると、私の何かが切れた。店に入ると、一ヶ月くらいしか働いていなかったが、店長に辞めるとの旨を伝え、私はもう一度外へ出た。女磨きの旅に出ようではないか。私は、ただ無心に歩き続けた。

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