第11話 都道府県 フィーリングカップル大会

 妖精学園の体育館では現在、文化祭のメインイベントである【フィーリングカップル都道府県】が開催されている真っ最中です。


 フィーリングカップル――それは男性と女性のグループが対面に座り、談話や質問を経て自分に合いそうな相手を見つけ、視界の合図と共に好みの相手のボタンを押す。それが見事に両思いならカップル成立、という平成初期に流行ったゲームです。

 本来は男女で楽しむゲームなのですが、妖精学園には男の子がいないため、女の子同士で楽しみます。


 体育館の中央に、デカデカと設置された電子パネル付き大型テーブルに、緊張した面持ちの関東部と北海道東北部の部員が向かい合うように座っており、その周りを、既にこのイベントを終えた他の生徒たちが、ワイワイがやがや言いながら見守っていました。

 さすが北国。北海道東北部のみんなは色白で美人さんたちばかりです。


「さあ、フィーリングカップル都道府県も、この組でいよいよラストです! 果たしてカップルが成立するのは、どことどこの県になるのでしょうか!」

 壇上の上に立つ、昔の漫才師のような青いスーツに蝶ネクタイのアマテラス先生がマイクで叫ぶと、全体がワッと盛り上がりました。


「よろしくお願いします!」と礼をする一同。


「ではまず、第一印象で相手を決めていただきましょう! 皆様、お手元にあるボタンで好みの相手を押してください。――では、スイッチオーン!」

 天井のライトがカラフルに光り、軽快な音楽が流れました。

 茨城ちゃんは、手元の【福島】と書かれたボタンを押します。 第一印象なので深くは考えてませんが、なんとなくお隣同士なので福島ちゃんに決めました。

 チラリと福島ちゃんを見ると、戸惑った表情でボタンを押しています。果たして両思いになれるでしょうか。ワクワクする茨城ちゃん。


「さて、全員ボタンを押し終えました! 果たして第一印象だけでカップルは成立してるのでしょうか? ――ではまず茨城ちゃんのを見てみましょう」

「わたしからだべか!?」

 ほんのり頬を染める茨城ちゃん。

「さあ、いったい茨城ちゃんは誰を選んだのでしょうか!?」

 茨城ちゃんの前の電子パネルにドットが点滅し、ピッピッピッ、と電子音を鳴らしながら、ドット線が一直線に福島ちゃんの前まで伸びていきます。

「ええ、私なの!?」

 意外そうな顔の福島ちゃん。

「でへへ」

 茨城ちゃんは照れたように頭を掻きました。

「果たしてカップルは成立してるのでしょうか? 判定をどうぞ!」

 ……。

 …………。

 …………ぶっぶー!

 電子パネルに大きく☓が表示されました。カップル不成立です。会場から「ああ~」と残念そうな声が聞こえてきました。

「ええー!」

「ごめんね、茨城ちゃん!」

 福島ちゃんは申し訳なさそうに手を合わせました。


「ではその福島ちゃん、そして青森ちゃん、秋田ちゃん、北海道ちゃんは誰を選んだのでしょうか? スイッチ・オン!」

 ピッピッピッ……と四人の席の前から伸びていくドット線の先にいたのは――東京ちゃんでした。口に手を当てて驚く東京ちゃん。大人気です。

「さあ、カップル成立なるか!?」

 ……。

 …………。

 …………パンパカパーン!

 会場にファンファーレの音が鳴り、東京ちゃんと北海道ちゃんの間にハートマークが浮かびました。

 ワッと盛り上がる会場。

「おめでとうございます! 見事に、東日本を代表する妖精の東京ちゃんと北日本を代表する妖精の北海道ちゃんという大型ガップルが成立しましたー!」

 アマテラス先生は興奮気味にマイクで叫びます。

「さあ二人とも壇上へ!」

 恥ずかしそうに笑いながら壇上へ上がっていく二人に、周りの生徒から盛大な拍手が送られました。 

 アマテラス先生が東京ちゃんにマイクを向けます。

「東京ちゃんは、北海道ちゃんのどこに惹かれましたか?」

「ええっと、感覚的な話なんですが、最初に見た時に、この人かな? って感じまして」

「ほうほう。では北海道ちゃんは?」

「あの、私も同じです。最初の印象で東京ちゃんがいいな~って。でもまさか東京ちゃんも私を選んでくれるなんて」

「ありがとうございました。はい、みんな拍手ー!」

 みんなの拍手に包まれながら、恥ずかしそうに壇上のカップルシートに座る二人。


「ではここで質問ターイム! お座りの皆さん、相手チームに何か質問があれば挙手でお願いします」

「はいはい!」と一斉に手を上げます。

「それでは青森ちゃん!」

 アマテラス先生に指され、立ち上がる青森ちゃん。

「えっと、もし結婚したら朝食は何を作ってくれますか?」

「ほうほう、これは良い質問ですね。それでは関東部に聞いてみましょう。神奈川ちゃんから」


「そうね。和食派だから、無難に白飯と焼き魚と味噌汁とかかな?」と神奈川ちゃん。

「わたくしはパン派なので、フレンチトーストとコーヒーかしら」と埼玉ちゃん。

「アタシも和食が好きだから、神奈川と同じで」と千葉ちゃん。

「納豆丼!」と茨城ちゃん。

「餃子定食!」と栃木ちゃん。

「グンマー!」と群馬ちゃん。


「はい、ありがとうございました。では次は関東部からの質問を聞いてみましょう。埼玉ちゃん」

「はい。では、もしも恋人が浮気したら、貴女ならどうしますか?」

「おーっと、これは相手の性格を知る良い質問だ。じゃあ青森ちゃんから」


「うーん……。すごく怒って別れちゃうかも」と青森ちゃん。

「私も別れると思う」と秋田ちゃん。

「そりゃぶっ飛ばすわ! ふざけんなって話!」と岩手ちゃん。

「最初の一回だけなら許しちゃうかもなー。間違いは誰だってあるもん」と山形ちゃん。

「別れるに決まってんじゃん。浮気するようなヤツは、何度も同じこと繰り返すんだから」と宮城ちゃん。

「どうだろうな。すごく好きな人だったら、そんなに簡単に別れられないと思うし。ちょっとその状況になってみないと分からないかも」と福島ちゃん。

「グンマー!」と群馬ちゃん。


「質問が終わった所で、二回目の告白タイムに参りましょう! ではスイッチ・オン!」

「むむむ」

 悩む茨城ちゃん。福島ちゃんもいいけど、山形ちゃんや秋田ちゃんも捨てがたい。お米の県の妖精だから、納豆との相性はバッチリのはずです。

 悩んだ末、茨城ちゃんは山形ちゃんのボタンを押しました。

「さあ、全員スイッチを押し終えましたね。では福島ちゃん!」

 ピッピッピッ、と福島ちゃんの前のドット線が茨城ちゃんの前まで伸びてきました。

 しまった。

 茨城ちゃんは慌てて顔を伏せました。

「福島ちゃんが選んだのは、先ほど自分を選んでくれた茨城ちゃんだ! 果たして結果は――」

……。

 …………。

 …………ブッブー!


 電子パネルに大きく☓が表示され、会場から「ああ~」と溜め息が漏れます。

「ええ、そんなー。茨城ちゃん!」

「ごめんだべ……」

「次は埼玉ちゃんを見てみましょう。果たして高貴な彼女は誰を選んだのでしょう!?」

 珍しく緊張した顔をしている埼玉ちゃんの前から、ドット線が伸びていき――宮城ちゃんの所に到達しました。

「あれ、わたし!?」

 驚く宮城ちゃん。

「さあ結果は――」


 ……。

 …………。

 …………パンパカパーン!


 会場にファンファーレの音が鳴り響き、電子パネルにハートマークが浮かびました。

「おめでとうございます! 埼玉ちゃんと宮城ちゃん、カップル成立です!!」

 拍手を送られながら、二人は壇上に上がっていきます。

「埼玉ちゃん、宮城ちゃんを選んだ理由を聞かせてください」

「彼女を選んだのは、先ほどの質問ですわね。わたくしと同じ考えを持っていましたもの」

「ほうほう。では宮城ちゃんは?」

「まあ、単純に顔が好みだったから、かな」

「なるほど、ありがとうございました。皆様、いま一度二人に拍手を!」

 盛大な拍手に見送られながら、二人は手を繋ぎながら東京ちゃん達の座るカップルシートに歩いていきました。


「では続きまして秋田ちゃん! 秋田美人の妖精さんは、いったい誰に微笑むのか!」

「ふふ」

 秋田ちゃんの前のドット線が、電子音を鳴らしながら進んでいき、そしてーー。

「グンマ?」

 なんと秋田ちゃんが選んだのは群馬ちゃんでした。意外な結果に会場からざわめきが走ります。

「さあ、カップル成立なるか!?」


 ……。

 …………。

 …………パンパカパーン!!


「成立です! まさかまさかのカップル誕生です!!」

「やった!」

「グンマー!」

 感嘆の声と共に拍手に包まれる会場。

 秋田ちゃんは、駆け寄ってきた群馬ちゃんと抱き合うと、手を繋いで壇上へと上がっていきました。

「では秋田ちゃん、群馬ちゃんを選んだ理由は?」

「だって可愛いんだもん!」

「グンマー!」

「いやはや、分かりやすい理由ありがとうございました。――おおっと、もう下校の時間となってしまいました! 残念ですが、フィーリングカップル都道府県はこの辺でお開きとさせてもらいます!」

「ええー!!」

 会場のあちこちからブーイングが起こりました。

「あたし、まだ選ばれてない!」

「私だって!」

「先生、ラストにもう一回だけー!」

「グンマぁぁぁー!!」

「群馬ちゃんは選ばれたでしょ!」


 納得できずに怒りまくる生徒たちに、アマテラス先生は笑いながら「ばいばーい」と手を振り、さっさと袖に引っ込んでしまいました。

 あーあ、カップルになりたかったな。

 茨城ちゃんは残念そうに肩を落としました。

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