病欠少女と姉妹
「ゴホッ…ゴホッ……新入部員をゴホッ…連れてきました」
「……どちら様ですか?」
今にも倒れそうな少女を見て、不信感しか出てこなかった。
「サード中継の位置がズレてるぞ!しっかりとホームへの最短の位置取りを確保して、光も捕手は全体が見えてるから常に指示を出すぐらいでいいから」
「「はい!」」
実践形式のノックというか美智瑠さんが投げるボールを俺が打ち分けている。
ポジションとしては
投手 美智瑠さん
捕手 光
一塁手 由香さん
二塁手 尚美先輩
三塁手 薫さん
左翼手 雫さん
全く持って足りないが、薫さんと尚美先輩の守備は軽快で打球に恐れないところを見ると流石だと思う。それに雫さんもだんだんとフライ処理も手馴れて来て充分に実践で使える。
「小春先輩どうして来たんですか!?」
朝練の守備練習が終わる頃に彼女はやって来た。マスクを着用し、顔色が悪そうな姿はとても学校に来ていいようには見えなかった。慌てて光が支えに行くのを見ると彼女が例の学校の休んでいた野球部員だろう。
「いやゴホッ……ゴホッゴホッ!」
「咳だけで通じ合えるほど私たちの関係は深くないですよ!?」
本当に来て良かったか?
「コーチが来たのに顔出さない訳には行かないってところですね」
「美智瑠さんはどうして分かるんですか!?」
先輩が頷くを見ると美智瑠さんの言ったことは当たっていたのだろう。もしかしなくても先輩が今日来たのは俺に挨拶をしに来たのか?
「宮本ゴホッごはる……ゴホッと言います」
「あー、藍原 宗輝です」
「……大丈夫ですか?」
「し……心配無用…たかだかインフルエンザゴホッときにやられは…………寒い」
「すみません!今すぐこの人保健室に連れて行ってくれますか!?」
重症じゃないか!頼むから早く休んで今日のところ帰ってくれ。
「ま、待ってくれ。ゴホッ…一言だけ頼む」
薫さんと由香さんに連行されそうなところを彼女の真剣な瞳が止める。
「今日私の妹たちが来るから…歓迎してやってくれ」
最後に一言告げると彼女は力尽きたのか身を任せたまま連行されて行った。
「新入部員ですかね?」
「雫さんは、先輩の妹さんを知っていますか?」
心配そうに近づいて来たが、その声は先輩の発言に僅かながら弾んでいた。
「私は存じません。小春先輩と古くからの知人となれば光さんか美智瑠さんかのどちらかになりますが」
そうか。雫さんは高校から野球を始めたから他の部員との接点は少ないのか。
「美智瑠さんは、知っていますか?」
「知っているけどボクが教えるよりも会ってからの楽しみにした方がいいんじゃないかな?」
イタズラっ子のような笑みを見せる美智瑠さんに俺は少しばかり不安を抱いてしまった。
その放課後は案外すんなりときた。
俺は先にユニフォームに着替えて素振りをしていると制服姿の女の子が二人こちらに歩いてくる。
「貴方が野球部のコーチですか?」
「えぇ、お二人さんはもしかして」
「はい。私は小春姉さんの上の妹の
……上の妹?
「そしてこの私は下の妹にして万能の天才!
…………どうやら先輩の妹は双子のようでした。
「お久しぶりです。由香、元気にしていましたか?」
「えぇ、もちろん。夏夜も元気そうで良かったわ」
「あーはっはっ、私の生涯の友ミッチー、ようやく出会えたな」
「千秋は相変わらずだねー」
久しぶりの再開に知り合い同士話が盛り上がっているが、俺は予想外のことに頭が混乱していた。
「……こんなにあっさり部員が足りるとかおかしいだろ」
俺はわざわざ上級生の教室まで行ったのに残りの二人がこうも簡単に来るなんて。俺がどうしようか考えていた時間を返してくれ。
「宗輝、大丈夫か?」
「尚美先輩、大丈夫ですよ。ただちょっと頭の中を整理していただけですから」
尚美先輩が心配そうに声をかけてくれるがこれでようやく九人……一人は早退したが、試合が出来る人数が集まったことは喜ぶべきことだ。
「二人は野球経験者だったりしますか?」
「ちょっと待ってください」
俺が話そうとしたが、夏夜さんの方に手で制されてしまう。
「貴方と私は言わばコーチと選手関係。敬語など試合での命令では不必要です」
「いや、でも夏夜さん」
「夏夜で結構です」
「……夏夜」
俺が名前で呼ぶと満足そうにして夏夜さんは引き下げる。これで終わる筈もなく、次は千秋さんの方が前に出てきた。
「私のことも同じように頼むぞ」
「………分かった」
一言聞きたいだけなのに何でこんなに疲れないと行けないんだ。
二人から話を聞くと夏夜の方が遊撃手を守っており、千秋の方は中堅手と面白いようにポジションが埋まっていった。そしてまさかと思い二人の姉のポジションを聞くと予想通り右翼手と見事に被らない結果となった。
(何だろうなこの感じ)
正直俺だけやる気充分で空回りしたような気分だ。いや、実際に空回りしたんだろう。
(けど、二番手投手を起用するなら他の選手は守備位置をずらさないと行けないと問題が山積みなのは間違いない)
今のところは投手経験者の尚美先輩が二番手で使って行きたいからセカンドが空いて来る。それに左利きの美智瑠さんはポジションが限られるから最低二人には違うポジションを練習試合してもらわないと。
それよりもまずは練習試合をして彼女たちがどれだけ実践で通用するのか見たい。それに高校の女子野球のレベルをこの目で確かめたい。
これからやるべき事は多いが、まずは小春先輩早く復活してください。
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